師匠は弟子と遊びたい‼︎


 いつも以上に騒がしかったであろう店で、ゼパードとフローラの痴話喧嘩をオカズに飯を食べた翌日。


 俺達はダンジョンに来ていた。


 我が家に存在する小さなダンジョン。何かと実験場やら遊び場として使えるこのダンジョンは、滅茶苦茶弱いのに未だに破壊されずにいる。


 偶にこっちに帰ってきていた時とか、結構使っていたのだ。主に魔術実験で。


 ダンジョンはどれだけぶっ壊しても、その核となるコアが無事ならば再生してくれる。


 壊しても壊れない遊び場なのだ。それは重宝するだろう。


 さて、なぜそんな遊び場にやってきたのかと言うと、師匠が1年ぶりに弟子たちの力を見たいと言い始めたからである。


 人類として進化を遂げ、新たな種族へと生まれ変わった俺とエレノアの力を、師匠は見たいと言う建前の元俺たちと遊びたいのだ。


 遊ぶ(手加減した殺し合い)だけどね。


「フハハ。進化し、ウルと同じように自らの悟りを得たとは。ついに私にできなかった事を成し遂げたのだな」

「むしろ、悟りを得てもないのにウルと同格な師匠が不思議なのだけれどね?あの本、強すぎないかしら?」

「フハハハハ!!私でなければ使えないだろうがな!!」


 師匠はそう言いながら笑うと、本を取り出すようなことはせずに両手をバッと広げた。


 かかってこいという意味だろう。


 ちなみに、今回はお袋と親父も着いてきている。


 多分本を見ると気分を悪くするだろうが、それを承知で付いてきた。


 最初に遊ぶのはエレノアだ。俺とウルは戦闘の余波でお袋達が怪我をしないように守る役割がある。


「ちょっとドキドキするわね。エレノアちゃんが訓練していた時のことは知っているけど、どんな感じに育ったのかしら?」

「楽しみだな。オリハルコン級冒険者の力を見られるなんてそうそうないし........いや、割と見てきたな。剣聖に炎の魔女、それの武神も。あれ?ジーク達も入れたら俺は5人のオリハルコン級冒険者達と出会っているのか」

「言っておくけど、師匠はそんなオリハルコン級冒険者達を赤子扱いできるぐらいには強いからね。ウルも師匠と同格だから。なんなら、デモットもオリハルコン級冒険者ぐらいの強さはあるよ」

「........おいシャルル。俺もジークに弟子入りした方がいいか?」

「やめておきなさい。ダンジョンに放り込まれてオーク辺りに食われるのがオチよ」


 息子に負けたままではいられない!!と、父親らしい我儘で今も師匠に鍛錬してもらっているらしい親父。


 現役時代よりも今の方が強いと胸を張って言えるぐらいには強くなったらしく、使える魔術もそこそこ増えたんだとか。


 尚、そんな親父の努力を見て、お袋は大変喜んでいるらしい。


 師匠が言ってた。お袋はそんな努力を惜しまない親父が大好きなんだと。


 まぁ、なんにせよ夫婦仲がいいのは子供としても喜ばしいことである。そのまま健康に、幸せに生きてて欲しいよ。


「最初は遊ぶつもりね。なら、私も合わせてあげるわ」

「フハハハハ!!生意気になったな!!また鼻っ面をへし折らなければならないか?」

「あんな経験、もう十分よ。私は三回も鼻っ面を折られてるの。遊びとは言えど油断はしないわよ」


 パチン!!


 エレノアが指を鳴らしたその瞬間、師匠が炎の柱に包まれる。


 俺やエレノアからしたら遊びの範疇に留まる程度の魔術だが、今使ってんのは第七級魔術だな。


 国によっては禁術とか伝説の魔術とかに指定されるレベルの超高難易度魔術である。


「........見ているだけで熱気が伝わるな」

「同じ炎魔術を得意とする魔術師........なんて言えないわね。正しく格が違うわ」

「ふむ。この程度なら動かずとも流せるな。ジーク、あの二人が盛り上がりすぎたら止めてくれよ?」

「ウルもね」

「あれ、暑いんですよねー」


 両親はエレノアの馬鹿みたいな火力に唖然とし、俺とウルはまだ本番ではないと分かっているので呑気に待機。


 デモットはあの魔術で焼かれたことがあるのか、修行のときを思い出していた。


「フハハ!!熱いでは無いか!!服が燃えてしまうぞ?」

「当たり前のように炎をかき消しながらよく言うわよ。ほら、追加よ」

「それは迎撃させてもらうとしよう」


 ドゴォォォン!!バゴォォォォン!!ドガァァァァン!!


 魔術の撃ち合い。


 この世界でも最高峰の魔術を扱う二人の、魔術合戦が始まった。


 炎が、水が、土が、風が、雷が、氷が、ありとあらゆる魔術が周囲を飛び交い、空中で爆裂していく。


 基本的にエレノアの方が魔術の威力も行使する速度も早い。だが、師匠はそれらを埋めるだけの経験が蓄積されている。


 エレノアの魔術を迎撃しながら、合間を縫ってエレノアに攻撃。エレノアは、その魔術をげいげきしながらさらに数を増やす。


 その光景は、見るものによっては神々の戦争と言われるかもしれない。


 二人はそこから1歩も動いてないのに、周囲にある物はどんどん破壊されていく。


 ダンジョンくんに意思があったら多分今頃バチ切れしてる。ごめんねダンジョンくん。恨むなら、自分がダンジョンとして生まれたことを恨んでくれ。


「少し私の方が有利かしら?この状態ならね」

「フハハ。そのようだな。弟子が師を超えたようで私は嬉しいよ........これも越えられたらな。来たれ“禁じられた魔導書グリモワール”」

「ここからが本番ね。心理顕現。我、炎の真髄を悟った者也。炎魔愛憎炎樹」


 禁じられた書物がこの世界に顕現し、愛と憎悪に満ちた炎が世界を支配する。


 禁じられた魔導書グリモワールvs心理顕現。


 かつてウルと遊んだ時に見た光景を、エレノアと師匠は生み出した。


「砕けろ」

「無駄よ」


 師匠が魔術を行使。闇が世界を覆い尽くし、空から黒い物体が降ってくる。


 しかし、エレノアはそれを圧倒的な火力で焼き尽くす。


 火力こそパワー。力こそ正義。そう言わんばかりのゴリ押しだ。


「フハハハハ!!これを防ぐ────おっと、危ないでは無いか」

「ッチ、その骸骨頭にやっと一撃入れられると思ったのに」

「フハハ!!弟子が随分と過激に育ってしまったものだ!!誰にそんな言葉を教わったのだ?」

「私の目の前にいる骸骨かしらね?」


 自分にとって有利な領域を創り出し肉弾戦を仕掛けるエレノアと、上手く逃げ回りながら火力の挙がった魔術でその領域を食い破ろうとする師匠。


 ここまで来ると、俺とウルもそれなりに真面目に護衛に務める。


 特にやばいのがエレノアの炎。これ、水とかで鎮火できるようなものじゃないから、ちょっと気を抜くと両親が焼け死ぬのだ。


「大丈夫かジーク」

「問題ないよ。エレノアの炎のことは俺が1番よく知ってるからね。それにしても───」


 俺がそう言いかけると、師匠の笑い声が聞こえてくる。


「フハハハハ!!あの頃は私にいいようにあしらわれていた子が、今や私とここまで遊べるとはな!!心の底から弟子を取ってよかったと思っているぞ!!」

「それはどうも。ジークに言ってあげたら喜ぶわよ。だからさっさと捕まりなさい!!」

「フハハハハ!!やなこった!!」


 それにしても、本当に楽しそうである。


 俺達と遊んでいる時が1番ウキウキしてんな師匠。弟子のことが好きすぎるウチの師匠は、昔遊んだ友人と同じように弟子と遊べるのが嬉しいのだろう。


「全く。いつまでたっても変わらんな。だか、そろそろ辞めさせるとしよう。シャルル殿達の目が点になっている」

「そうだな。おーい!!その辺にしておいてくれー!!母さん達が固まっちゃった!!」

「ぬ?おっと、ちょいとやりすぎたか?」

「む、当てられなかった」


 悔しそうに力を解除するエレノアと師匠。


 さて、次は俺の番だ。どうせ遊ぶなら、100体ぐらい呼び出そうかな?





 後書き。

 本気でやり合ったらどうなるかって?ダンジョンが吹っ飛んで、ジーク達の家も吹っ飛んで、この国も吹っ飛ぶ。

 で、決着は付かない。対人戦において、師匠は最強格だからね。エレノアもジークも魔物を狩る戦いの方が得意なのだ。

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