あらあらまぁまぁあらまぁまぁ‼︎


 デモットもウルもお袋の抱擁力に負けて爆速で陥落した。


 悪魔であることを恐れず、そして全てを包み込む聖なる母のように可愛がられれば、悪魔なんてイチコロ。


 そう言わんばかりに可愛がられた二人、特にウルはお袋に懐いてしまった。


 ウルは結構師匠に似てるからね。しょうが無いね。


 そんな訳で、その後魔界でのあれこれを話した俺は店の手伝いをしながら親父と共に料理を作る。


 俺の料理の師は親父だ。親父の味を再現しようと色々と試行錯誤してしたお陰か、店で出してもいいレベルにまでなっている。


 エレノアも配膳やら洗い物の手伝いを始めた。


 今日は親父とお袋ができる限り楽をできるようにしてあげるつもりだ。


「お?ジークじゃないか。それにエレノアの嬢ちゃんも。2人が帰ってきたって話は本当だったんだな」

「やぁトニーのおっちゃん。子供は元気にしているのかい?」

「元気も何も、元気すぎて困ってるぐらいだ。冒険者の仕事を終えたら“遊んで!!”って構ってくるからな。最近はパーティーメンバーも気を使って、できる限り安全で早く終わる仕事を選ぶようになったよ。守るもんがあると辛いねぇ」

「けっ、幸せそうな顔をしやがって。精々息子に退治される悪役の練習でもしておくといいよ」

「ハッハッハ!!毎日演技指導が入ってこっちは大変さ!!最近じゃ、悪魔の真似事をさせられる。角を生やすのはさすがに無理だってのにな!!」


 ピンポイントで悪魔の話を出てきたトニーのおっちゃん。


 彼はこの店の常連であり、3年前に息子が生まれたばかりの新人父親だ。


 ようやく息子が色々と遊べる年齢となり、今はトニーが悪魔の役をやらされるらしい。


“悪魔”という単語に一瞬ビクッとしたデモットとウルだが、自分たちのことでは無いと知って少しホッとした表情をしていた。


 バレるバレる。そんなあからさまにホッとしないで。


「ん?そういえば、見かけない顔の人がいるな。ジークのツレか?」

「旅先でお世話になっている村の村長と、俺とエレノアの弟子だよ。ちょこちょこ来ると思うから仲良くしてね」

「おうよ。この街は別に外から来たやつにきびしい訳でもないしな!!今じゃノアちゃんだってこの街に馴染んでるんだ。あっという間に馴染めるさ」

「誰がノアちゃんだこの親バカ。貴様の子煩悩な話を何時間も聞かされるのはもうごめんだぞ」

「パーティーメンバーにもウザがられたよ。お前の話は聞いててイライラするってな。特にジェナは酷い。男ができないからってそこまで言うかね?ってほどにはボロカスに言われるぞ。流石に息子には優しいがな」

「当たり前だ。貴様の惚気け話を聞けるやつはそう多くはないだろうよ」


 そして、当たり前のように師匠とも話す。


 随分と師匠もこの街に馴染んできたようだ。もう3~4年ぐらいはここに住んでるからな。そりゃ街の人達ともある程度の交流はあるのだろう。


 そして、店に来た客と話す師匠は楽しそうであった。長い間ぼっち生活をしていたが、人里恋しかったのかな?


「お、ジーク坊ちゃんとエレノアじゃないか。街で話題になってたぜ?この街の英雄が帰ってきたってな」

「やっほー!!2人とも元気にしてた?」

「お、久しぶりだな。1年ちょいか?」

「あら、ジーク君にエレノアちゃんですか。お話には聞いてましたが、帰ってきたのですね」


 トニーやほかの客と話していると、俺の面倒を1番見てくれていたであろう冒険者ゼパードのおっちゃん達がやってくる。


 ゼパードは相変わらずデカいし、フローラは明るく、グルナラはクールで、ラステルは綺麗なままだ。


 それでも俺がまだ子供いや、赤ん坊だった頃よりは随分と歳を取っている。


 いや、それが普通なんだけどね?歳をとっても姿が変わらないお袋がおかしいだけなのだ。


「坊ちゃんはやめてよゼパード。もうそんな歳じゃないんだ」

「ハッハッハ!!俺からすればジークもエレノアもまだまだ子供さ!!」

「ジークちゃん、見た目全然変わってないもんねぇ。エレノアちゃんも。やっぱりシャルルの血が入ってるからなのかな?」

「シャルルも大概おかしいですよね。なんであんなに若い見た目をしてるんですか?」

「実は若い女の血を啜ってるとか言われても信じそうだ」

「あら、グルナラ、今日の料理はあなたの血で作りましょうかね?」

「待てシャルル。冗談だからその包丁を下ろしてくれ」


 この街でもかなりの力を持つゼパードパーティーがやってくると、一気に店が騒がしくなる。


 両親に聞いた話では、1年ほど前からゼパード達はこの街の大ベテラン冒険者として顔役となっているらしい。


 それに伴い、冒険者の階級も上がったそうで、努力で到れる最高峰と言われる金級冒険者となっている。


 俺もエレノアも銀級から一気にオリハルコンに飛んだから、金級冒険者がどのぐらいの偉さなのかはよく分からない。


 が、少なくとも、この街の中では最高位の冒険者らしい。


 ちなみに、師匠は暇つぶし程度に冒険者。やっているので未だに銅級だ。まぁ、師匠が本気を出したら余裕でオリハルコンになれるからね。しょうがないね。


「金級冒険者になったんだって?すごいじゃないか」

「かぁー!!嫌味かお前は。世界に七人しか存在しないオリハルコン級冒険者様に言われても嬉しくねぇよ」

「そう言わないのゼパード。ジークちゃんは純粋にお祝いしてくれてるんだよ?」

「いや、それは分かった上で言ってるんだよ」


 ........ん?


 ........んん?


 何やら2人の距離感が以前にも増して近い気がする。


 俺はエレノアと顔を見合わせると、こういう時サラッと教えてくれそうなグルナラに視線を向けた。


 そして、天魔くんちゃん仕込みのジェスチャーで聞く。


“あの二人、もしかして、できてる?”

“その通りだ”


 あらあらまぁまぁあらまぁまぁ!!


 遂に、遂にこの2人は出来たのか!!


 ゼパードは女の人の扱いが下手すぎて何度も振られ、そんなゼパードに恋する1人の乙女。


 フローラはようやく決心がついたらしい。


 いやーめでたいじゃないか。これは冒険者を引退する日も近いかもな。


「ゼパード!!まだ話は終わってないよ!!この前も─────」

「なんでその話がここ出てくるんだよ!!お前は俺のオカンか!!」


 ギャーギャーと痴話喧嘩を始める二人。


 二人は気が付いて居ないが、この店にいる人達全員がそれはもう気持ち悪いぐらいに笑顔になっていた。


 お袋と親父は“こんな喧嘩もしたっけ”となんか思い出に浸っているし、客達は初々しい二人をオカズにしながら飯を食う。


 いい趣味してんねここの客達は。


「最近はいつもこんな感じだ。仲がいいのか悪いのか。とにかく分かるのは、毎回俺とラステルは気まずい空気になるって事だな。仲間はずれにされている気分だ」

「全くですよ。いや、フローラもゼパードも微笑ましいのですがね?こう毎回やられるとさすがに見飽きます」

「2人もくっ付いたら?そしたらカップルパーティーの誕生だよ」

「ハッ!!メイス片手にゴブリンの頭をかち割るシスターはごめんだな」

「私のメイスを受け止めきれないような軟弱者はごめん蒙りたいですね」


 二人ともにっこりと笑いながらそういう。


 あ、これはガチでお互いを異性として見てないパターンだ。パーティーメンバーとして、友人としてしかお互いを見てない。


「騒がしいな。だが、心地の良い喧騒だ」

「フハハ。焚き火を囲んでいたあの頃が懐かしいな」

「........そうだな。あの頃を思い出す」


 うーん。ウルと師匠の方が全然可能性がありそうだな。


 こうして、久々に会ったゼパード達の痴話喧嘩を見ながらその日の店はいつも以上に騒がしかったのであった。

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