母は強し
帰ってくるなり実の息子をほったらかして娘のように可愛がっているエレノアをよしよしし始めるお袋。
こういう所は変わらないなと思いながら、俺は我が家へと帰ってきた。
ウルとデモットは始めてみる人間の住む家に興味津々であり、やはりキョロキョロとしている目を止めることは無い。
いや、デモットは俺達の家に何度か来ているから人間の住む家を多少は知っているのだが、作りがかなり違うからな。
うち、東にある島国の家の作りをしているからね。
あー、畳とかあるらしいから、一度行きたいんだよねぇ........今は魔界で忙しいから、それが終わってからになるだろうが。
「それで、魔界で何をしていたんだ?聞いた話では、悪魔がいるらしいんだろう?」
「悪魔と言えば、人類と過去に戦争をした種族よね。二本の角と尻尾が特徴的な種族だとノアちゃんから聞いたわ」
「その通りだよ母さん。実際に見てみた方が早いんじゃないかな」
俺はそう言いながら、ウルとデモットに掛けていた幻術を解く。
驚くかな?と思っていたのだが、両親の反応は至って平静であった。
流石に予想できるよね。俺達が魔界に行った帰りなんだから、連れてくるのは悪魔の可能性が高いに決まっている。
俺が逆の立場でも何となく察しは着くだろう。
「紹介するよ。俺達が世話になっている村の村長にして師匠のご友人ウルと、俺とエレノアの弟子デモットだよ。2人とも見ての通り悪魔だ」
「お初にお目にかかる。ジークの母君と父君殿。ノアの戦友にして他小さな村の村長ウルだ」
「は、初めまして。俺はお二人の弟子デモットです。お師匠様にはいつもお世話になっております」
ぺこりと頭を下げるふたり。
これが普通の悪魔ならば、2人の弱さに驚きつつ下に見るだろうが、ウルもデモットも悪魔の中ではかなりの変わり者。
無難に挨拶だけをするに決まっている。尚、デモットはかなり緊張していて、声がガチガチであった。
「あら、あらあらあら。ついにジーク達も弟子を取るようになったのね。大丈夫?ジークもエレノアちゃんも、随分と厳しいと思うのだけれど迷惑をかけていたりしないかしら?」
「あ、はい。むしろ、俺が迷惑をかけてしまっているぐらいですから」
「ふふふ、緊張しなくていいのよ。ジークの弟子にしてはできた子ね。ジーク、貴方も見習ったらどう?」
「俺は母さんに似たからね。無理だよ」
「あら、しばらく見ない間に随分と生意気になって........ふふふ」
おふくろ、デモットをロックオン。
既にデモットの頭を優しく撫で、我が子のように可愛がっている。
そりゃ、お袋がデモットを嫌う理由がないしな。
俺とエレノアの初めての弟子にして、素直でいい子。昔はチンピラの真似事をしていたが、根は真面目な努力家なのだ。
親父はそんな相変わらずのお袋を見て、若干呆れながら気になっていたことを聞く。
それは、進化における俺たちの変化であった。
「見た目は変わってないが、随分と雰囲気が変わったな。ジークもエレノアも」
「進化したからね。いや、正確に言えば上位種族になったと言うべきかな?」
「........???進化?人間が?」
「エルフがハイエルフになるのと同じだよ。言うなれば、
「........ノアさん。説明を頼めるか?」
「フハハハハ!!デッセン殿の理解力が限界を超えたな!!よかろう!!私が説明してやる!!」
進化によって俺とエレノアは本来よりも1つ上の段階に足を踏み入れた。
俺はエルフとハイエルフの見分け方が分からないが、エルフは本能的に感じ取れるという。
そして、それは人間の場合も同じだ。
自分たちよりも上位の種族の気配を、親父は本能的に感じ取ったのだろう。
あれ?でも街のみんなはそこら辺何も触れてこなかったよな。
あれか。進化よりも、俺の身長が伸びてなかったことの方が街のみんなにとっては重要だったのか。
泣くぞ?マジで泣くぞ?
実は、身長を伸ばす魔術(幻影)は既に開発済みなのだが、エレノアがものすごく不服そうな顔をしたので封印していたりする。
エレノアは小さくて可愛い俺がご所望らしい。
ちなみに、デモットからも不評であった。
“なんか........こう。違います”とか言われたらちょっと傷つくよね。泣いてやろうか。
まぁ、唯一の相棒が望む姿の方がいいだろう。そんな訳で、俺は泣く泣く魔術割と封印する羽目になったのである。
話題が逸れたな。
そんな事を思っていると、ウルが俺の耳元で小さく囁く。
どうやらウルは、両親の反応に驚いているようであった。
「悪魔は人類にとって敵では無いのか?恐れられると思って覚悟していたのだが........」
「エルダーリッチを従業員にしている時点で、父さんも母さんもそこら辺の耐性は高いんだよ。多分2人は“まだ人っぽい見た目をしているだけマシか”とか思ってると思うよ?」
「ジークのご両親が特殊なだけだからね?普通の人にその姿を見せたら間違いなく攻撃されるから気をつけなさい」
「あ、あぁ。わかった」
早速デモットを可愛がり、“へーそんなんだ”ぐらいにしか思ってなかった親父。
人間と悪魔の関係性を考えれば、そりゃこの反応は予想外だろう。しかし、うちの両親はそんなものである。
俺がいつも普通じゃ想像もできない話ばかりしてたからね。悪魔の一人や二人来たぐらいではなんとも思われないのだ。
「あなたがウルちゃんね?私はシャルル、そこのおバカなジークの母よ。よろしくね。ジークが迷惑かけたりしてないかしら?」
「ジークにはむしろ私達が世話になっているぐらいだ。彼のおかげで、村は今凄まじい発展を遂げている。感謝しきれないぐらいだ」
「そうなの?ならもっとこき使っていいからね。ところで、ちゃんと私は見えているのかしら?」
「目の話か?隠しているが、これは見えすぎるからだ。その綺麗な顔はちゃんと見えているぞ」
「あらあら!!嬉しいことを言ってくれるわね!!」
デモットを可愛がったお袋は、次にウルをロックオン。
存分に可愛がられたデモットは“話に聞いていた通りですね........”と若干疲れた顔をしていた。
そして、“久々にお爺さんを思い出しました。あんなふうに優しく撫でてくれたなぁ........”と、何やらお爺さんとの思い出に浸っていた。
デモット、陥落。
やはりお袋は人を惹きつける何かがある。デモットもお袋達の身に何かあった日には味方になってくれるだろう。
あの気難しい聖女すらも瞬殺してたからな。なんやかんやいい子ちゃんのデモットが勝てるはずもない。
そして、ターゲットはウルに移る。
お袋はその凄まじいコミュニケーションによって、早速ウルの事を撫で始めていた。
元大公級悪魔であり、悪魔達から裏切り者して恐れられている悪魔に臆することなどない。
怖いもの知らずか?
「シャルルさんって本当にすごいわよね........師匠を手懐けるだけじゃ飽き足らず、ウルまで手懐ける始めたわよ」
「今は恥ずかしそうにしているけど、しばらくしたら絶対喜び始めるぞ。俺にはわかる」
「シャルルさん。実はスキルを持ってたりとかしないわよね?」
「少なくとも俺が知る限りは持ってないな。初めてあった人とも仲良くできるスキルか。ちょっと普通に欲しいかも」
敵対するよりは仲良くした方がいいに決まっている。そんなスキルがあったら、もっと楽な旅ができるだろうな。
旅の醍醐味が少し薄れるだろうけども。
「........母の手を思い出す」
「ふふふっ甘えていいのよ〜」
こうして、ウルも僅か10分足らずで堕ちた。
早すぎる。あまりにも早すぎる。
母は強しとは言うが、強すぎないか?お袋。
もう人類最強を名乗ってもいい気がしてきたぞ。
後書き。
デモット、ウル、陥落。
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