大切な場所


 久しぶりに帰ってきた故郷は、いつものように平和であった。


 師匠が王に直接掛け合って(脅して)戦争とか起こさせてないし、たとえ起きたとしても全部師匠が片付けてくれる。


 更に、この街は元々暖かい。俺とエレノアを見かける度に声をかけてくれる街の人々は、俺が成長していないことを弄りながらも、暖かく出迎えてくれるのだ。


 この街にいる時だけは、俺はオリハルコン級冒険者ではなくこの街で生まれたただのジークになる。


 誰もが俺達に気軽に話しかけ、冗談を言って笑うのだ。


 他の街に行くと、多少なりとも畏怖や尊敬の念を送られるからな。


 悪魔の村だって“先生”と呼ばれて慕われているが、俺をただの人間の子供として扱ってくれるはずもない。


 唯一無二なのだ。俺が、エレノアがただの人であるだけの場所。


 それがこの故郷なのである。


「これが人間の街........悪魔の基準で言えば、最低でも伯爵級........いや、辺境伯ぐらいの街並みがあるな。ノアの話で聞いた時は想像もできなかったが、こんなにも栄えているとは........」

「ジークさんやエレノアさんの話では、この街も小さい方らしいですよ。王都?と呼ばれる大都市ではもっと多くの人々や建物があるそうです」

「悪魔の文明というのが人類よりも下にあると言うのはあながち間違いでもないな。やはり、魔術の存在が大きいのだろうか?」

「力あるものだけが支配をする悪魔とは違い、利便性を求めた種族とジークさん達は言ってましたね。何となくわかる気がします」


 初めて人類大陸の街を訪れた2人は、大都市にやってきた田舎者のようにキョロキョロと周囲を見渡しながら街を歩く。


 魔界基準で言えば、この街は伯爵級悪魔の領地ぐらい発展しているだろう。


 しかし、人類大陸においてこの街はそこら辺に存在するただの街の中でも割と小さな方だ。


 多分、この街よりも小さな街を探す方が難しい。


「........しかし、弱いな」

「そうですね。弱いですね。そもそも彼らには強くなろうという意思すら感じられません。価値観の違い、文化の違い。ジークさん達が魔界にやってきた時、きっと同じことを感じていたと思いますよ」

「こんなにも弱い種族がなぜ大陸の支配者となっているんだ?私には理解できないな。強いから支配者となるんじゃないのか?」

「数が多いということは、それだけ強者が生まれやすいということでは?ほら、何事にも例外はありますし」

「あぁ。そうだな。何事にも例外は存在するか。私たちの案内をしてくれている者達とかな」


 そして、人間の弱さに驚き、なぜ人類という種族が大陸を支配しているのか理解に苦しむ。


 人類の、秀では人間の強みはその繁殖力と適応能力の高さだと俺は考えている。


 どんな場所でも生き延びられるだけの適応力と、500人もいれば再興できる繁殖力。


 デモットの言う通り、繁殖力が高ければそれだけ例外が生まれる可能性も高くなる。そして、その例外達が世界を作ったのだ。


 大賢者マーリンや竜殺しのジークフリード、死神デスサイズや探求者コペルとかね。


 現代で言えば、オリハルコン級冒険者や大帝国の剣帝なんかがいい例だろう。世界的強者達が生まれ、大陸を支配したのだ。


 あとは知識とかその他の要因も色々とあるだろうけど。


 そんな事を考察しながら、街ゆく人々に声を掛けられつつ歩いていると、実家が見えてくる。


 戻ってくるのは1年ちょっとぶり。お袋はどうせ見た目が変わってないし、親父も歳をとってさぞかしナイスガイになっている事だろう。


 師匠?師匠はどうせお袋に可愛がられて喜んでる。いつもの事だ。


“準備中”と書かれた立て札を無視して、俺は扉を開ける。


 すると、既に俺達が帰ってきたことを知っていたかのように、お袋たちが出迎えてくれた。


「おかえりジーク。随分と早い帰宅ね。それとエレノアちゃんもお帰りなさい。ジークが迷惑かけなかったかしら?」

「おかえりジーク。魔界........だったか?の冒険は終わったのか?エレノアもお帰り。悪いな、俺たちの息子の面倒を見させちまって」

「ただいま父さん、母さん。ちょっと用事があって戻ってきただけだから、またすぐに魔界に戻るよ。冒険はまだ始まったばかりなんだから」

「ただいま戻りました。シャルルさん、デッセンさん」


 一年ぶりに顔を合わせた両親は、特に変わった様子もなく元気そうであった。


 まぁ、門番のおっちゃんや街の人たちから色々と聞いてた限り元気そうだったからね。


 それに、二人に何かあったら悪魔くんが知らせてくれたはずだし。


 お袋は早速エレノアをよしよしし始め、母の暖かみをエレノアは懐かしむ。


 もう完全に親子だな。実はハーレムに一番近いのはお袋なのかもしれない。


 ヒロイン、全員女の子だけど(骸骨込み)。


「で、師匠は何をしてるの?」

「む?フハハ。帰ってきた弟子を驚かせようと思ったが、流石にバレていたか!!この一年で随分と強くなったみたいだな。私と本気で遊べそうではないか」

「頼むから本は出さないでね。少なくとも、ここでは」

「流石にそれは弁えている。シャルル殿達に迷惑はかけれないからな........ところで、何故ウル達まで来ているのだ?」

「ウルがもう限界だ─────」

「ひ、久しぶりだなノア。貴様、私の連絡に一切反応しないとはどういう了見だ?」


 俺が“ウル、もう限界すぎて無理だよ”と伝えようとしたところ、言葉を遮られる。


 師匠も気持ちには気づいているから、別に隠さなくてもいいのに。早く結婚しろ。


「フハハ。私はこう見えても以外と忙しくてな。最近は魔術を料理に転用できないか色々と実験しているのだ。やはりデッセン殿の料理には勝てないのが普通に悔しい。昔は貴族としてそれなりに料理の腕もあったはずなんだがな?数百年近くも料理なんぞしてこなかったからか、腕が鈍っている」

「いや、ノアさんの料理普通に美味いんだけど。なんならメニューに一つ入ってるし、俺たちにも便利な魔術を教えてくれたおかげで仕事は楽になってるし」

「ノアちゃんがいてくれると本当に助かるわ。今となっては欠かせない子になってしまったもの」


 お袋はそう言うと、師匠の元へと近づいて頭を撫でる。


 師匠は心地よさそうにその手を受け入れると、ニコニコと笑っていた。


 エルダーリッチと知って尚、この態度。


 お袋のメンタル強すぎか?これなら二人が悪魔であることを言っても、全然驚く事すら無さそうだ。


「の、ノアの顔かわいい........!!」


 そして、師匠大好き乙女のウルはノアのニコニコ顔を見て悶絶している。


 お袋に懐いていることに悲しみを覚えるよりも、師匠の顔が可愛いことに感動するとはさすがは師匠ガチ勢。


 早く結婚して(2回目)。


「あー、ジーク?あの二人はどちら様で?」

「それは中に入ってから話そうよ。外に聞かれると色々とまずい話もあるからね」

「いや、それ俺達に話していいのか?」

「父さんと母さんなら大丈夫でしょ。師匠は全て知ってるし、別に知ったからと言って消される訳でもないしね。世間的には不味いってだけで」

「それ、本当に大丈夫なのか?」

「デッセンさん。エルダーリッチである師匠を従業員として雇っている時点で今更です」

「........それもそうか」


 親父、割とこういう滅茶苦茶なことに耐性がついてきたよな。


 流石はちょっと変わり者であるお袋と上手くやって行けるだけはある。順応が早い。


 ともかく、こうして俺は自分の家に帰ってきた。


 懐かしい木の匂いや料理の匂い。あぁ。やっぱり俺はここが好きなんだな。


 そう思わせてくれる、大切な場所だ。

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