故郷への帰還〜悪魔を添えて
師匠への愛が天元突破し、ついに師匠に会うためなら手段を選ばないことを考え始めたウル。
流石にこれは重症すぎると言うことで、俺達はウルとデモットを連れて故郷に帰ることにした。
俺達を虐めたら師匠がやってきてくれるかも!!とか思っている時点でもうダメだ。
ウルの頭の中は師匠しか居ない。
どんだけ師匠のことが好きなんだよこの人。それでいながら約束約束うるさいから、もう無理やり連れていくしかないよね。
というわけで、帰ってきました我が故郷。
ここに戻ってくるのは随分と久しぶりであり、1年と数ヶ月近くは帰ってきていない。
まぁ、転移魔術を覚える前よりは早く帰ってきている。
もう少し帰る頻度を上げて、両親に顔を見せた方がいいのかなぁ........
そんなことを思いながら、俺はとりあえず幻影魔術でウルとデモットの角と尻尾を隠した。
この人類大陸において、悪魔は魔物として扱われる。
下手に悪魔であることを見せびらかすと問題しか起きないので、今は隠させてもらうとしよう。
「うぅ........ノアに会う前に身なりを整えさせて........」
「大丈夫、師匠は気にしないから。それに、まだ化粧を終えてないとか言って時間を引き伸ばす気でしょ。そんなことをしてたら、師匠に会う時間が無くなっちゃう」
「そうね。もう諦めなさい。どうせ師匠はそんなことしにしないわ」
膝を抱えて丸くなりながら、行きたくない!!と言って駄々をこねるウル。
しかし、本心では会いたいことを分かっている。
ウルは空間魔術が使える。そして、転移魔術も使える。
要は逃げれるのだ。
今から即魔界の村に帰ることは簡単であり、その気になれば俺達に抵抗することは簡単である。
が、しかし、ウルがそうしないと言うことは師匠に会いたいということである。
この人もこの人で面倒臭い。素直に師匠に会いに行こうよ。
「ここがジークさん達の故郷ですか?お母様の話はよく聞かされましたけど」
「そうだよデモット。正確には俺の故郷かな?エレノアは生まれた国が違うからね」
「私はエルフの国で生まれて、五歳の頃にこの街に来たの。それから10年後、ジークと出会ったのよ」
「懐かしいな。魔術学院を主席で卒業してソロで冒険者をやろうとしてたよな。今となっては俺とパーティーを組んで世界を回ってるんだから、人生何があるのか分かったもんじゃない」
「ほんとそうね。最初は杖だったのに、今ではトンファーが武器よ?魔術も私が教えていたはずなのに、今となってはジークから教わるようになってるんだからね」
エレノアは昔のことを思い出したのか、機嫌良さそうに俺の後ろに回って抱きつく。
この街に帰ってくる度に思い出す。エレノアと最初の出会いを。
あの頃はエレノアも随分と凛とした雰囲気でクールな印象だったのに、今となっては俺を抱き枕にして匂いを嗅ぎながらじゃないと寝れない子になってるからな。
匂いフェチなのは知ってるけど、限度があるだろ限度が。
しかも、魔術主体の戦い方から“殴れば全部解決するやろ”って言う脳筋ちゃんにもなっている。
一体どこで変わってしまったんだ........割と最初からやな。
そんな懐かしい記憶に浸りつつ、俺は未だにウジウジしているウルを天魔くんちゃんに担がせて街へと向かう。
1年ちょっとぶりの故郷は変わっていたりするのだろうか?
ちなみに、村には天魔くんちゃんを二体配置して万が一の時の為の対策をしている。
転移魔術を使えるようにしてあげれば、天魔くんちゃんでも村の悪魔たちを連れて逃げられるからね。
やはり天魔くんちゃん。天魔くんちゃんは正義である。
「ちょ、お、下ろしてくれ。こんな姿をノアに見られた日には、恥ずかしすぎて死んでしまう........」
「それじゃ、諦めて師匠に会う?」
「........会う」
天魔くんちゃんに担がれたウルは、恥ずかしかったのか勘弁してくれと言って自分の足で歩き始める。
ようやく覚悟を決めたのはいいのだが、顔はやはり歪んだままだった。
拗らせてんなぁ。少なくとも数百年近くは会うことも無く、そしてできる限り忘れようとしていた時に再開して感情が爆発したと。
もう結婚しろよ。魔界に同性婚禁止なんて法律ないんだし。
いや、骸骨と悪魔だから異種族結婚になるのか?とりあえず御祝儀として金貨5000枚ぐらい送ってあげるね。
なんなら、俺達の家を作ってくれたギルドマスターに家も作って貰っちゃうよ。
それか、ウチに住む?お袋なら大歓迎してくれると思うよ。おふくろ、賑やかな方が好きだし。
しばらく歩くと、街の門が見えてくる。
そこに立っていたのは、いつものおっちゃんであった。
「ん?おぉ!!ジークとエレノアじゃないか!!久しぶりだな。いつぶりだ?」
「少なくとも1年以上前だね。元気にしてた?」
「おうよ!!未だにピンピン現役さ!!お前さんのところの飯屋にも良く行かせてもらってるよ。いつも大繁盛だぜ」
「それは良かった。これからもご贔屓に」
「ハッハッハ!!ジークの坊ちゃんに言われちゃこれからも通うしかないな!!それで、エレノアの嬢ちゃんはともかく残りの2人はどちら様で?」
「俺がお世話になってる村の村長と、俺達の弟子だよ。通してくれる?」
「おう、いいぞ。ジークが連れてきたやつに悪いやつはいないからな!!ノアさんも人気が高いんだぜ?何せあの美人さだ。あれ目当てで来るやつも多いからな。まぁ、どいつもこいつも相手にされないが」
一瞬、ウルから殺気のようなものを感じた気がしたが気のせいだと思いたい。
うん気の所為気の所為。俺達と遊んだ時よりも、魔物を殺す時よりも強いさっきが訪れた感覚があったけど気の所為だ。
俺はあえてウルをスルーしつつ、おっちゃんと話を続ける。
「母さん達は元気?」
「元気だぜ。いつも忙しそうにしてはいるが、ノアさんも働いてくれているから随分と助かってるらしいな。デッセンの野郎は美人な奥さんと従業員に囲まれて野郎共からいつも弄られてるよ」
「父さんは母さん以外に興味はないよ。少なくとも師匠........ノアには欠片も興味が無いだろうね」
何せ、師匠の真の姿を知ってるからね。
お袋がおかしいのだ。魔術を使う骸骨、リッチ系統の魔物の中でも上位に位置するエルダーリッチでありながら、エルダーリッチどころかこの大陸最強を名乗っても遜色のない師匠相手に“可愛い可愛い”言いながら娘のように可愛がるのは。
あの気難しい聖女ですら即落ちしてたからな。お袋の女の子を堕とす技術は凄まじいものである。
「そうか?まぁデッセンもなんやかんやシャルルの事を第一に考えてるだろうしな。おっと、せっかく帰ってきたのに長く止めちまって悪かったな。おかえり、ジーク、エレノア。それと、ようこそこの街へ村長さんとお弟子さん」
「「ただいま」」
いつものように出迎えられ、俺とエレノアは“ただいま”と言うと街へと入る。
そこは、いつもと変わらない街並み。昔とさほど変わらないいつもの故郷があった。
何度帰ってきてもこの景色は落ち着く。12年間過ごしたこの街には、多くの思い出が詰まっているのだ。
........その大半は魔術実験しては失敗しての記憶だが。
何回か一歩間違えたらあの世行きだったからな。半端な知識での実験って危険だなと思ったものだよ。
それでもやらざるを得なかったからやったけど。
「変わらないわねこの街は」
「そうだな。落ち着く、暖かいいい街だよ」
さぁ、家に帰るとしよう。今回は、可愛い可愛い愛弟子と師匠に恋する1人の乙女を連れて。
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