人類の希望
一旦帰ろう
移籍の調査を終えてから1週間後。
俺達は全ての遺跡探索を終えた。デモット調べたいことは粗方調べ終えたのか大変満足しており、更に俺とエレノアに懐いた気がする。
特に、デモットからのスキンシップが少しだけ増えた。
出会った頃は一定の距離を保っていたデモットだが、今ではちょっと甘えてきたりもする。
俺と探索をした時に手を繋がれたのがよほど嬉しかったのか、最近は手を繋ぐのがお気に入りらしい。
誰もいない時はよく手を繋いでいた。
あれ?デモットって男だよな?やってる事がヒロインなんだが。
尚、俺だけではなくエレノアとも手を繋ぐことはある。デモット曰く、なんだかすごく落ち着くんだとか。
別に減るものでも無いし、そこに恋愛感情がある訳でもないのはわかっている。
お爺さんと離れてから既に50年近く、大人であろうとした悪魔の青年は少しだけ子供に戻っただけの話だ。
デモット、師匠離れできるかな........いや、それよりも俺たちの方が重症かもしれん。
弟子離れできるかどうか怪しくなってきた。俺達の弟子は可愛すぎるのが欠点だな。
「ヴァンパイアにアビスか。我々悪魔が台頭してくるよりも前、はるか昔にこんな種族たちによる戦争が行われていたとは知らなかった。私も随分と長生きしてきたが、こんな過去が、歴史があったとは知らなかったよ」
「こんな遺跡があるとは俺達も思ってなかったよ。特にアビスに関しては気をつけた方がいいかもしれないね。ヴァンパイアは別の大陸へと向かったみたいだけど、アビスは結局どこから現れたのか、何が原因なのかさっぱりだったし」
「そうだな。とは言えど、またその遺跡に逃げこめば最低限何とかなりそうだ。ジークが連れていってくれたおかげで、私も飛べるようになったし、一先ずの避難先は確保出来たのはありがたいよ」
遺跡がどのようなものだったのかという報告は、ウルにもしてある。
元々村では俺達が遺跡に行っていることは知られていたし、その遺跡がどんなものだったのかと気になる悪魔は多いだろう。
そして、まさかの地下帝国発見。
となれば、みんなこぞって見に行きたいものである。
ここで連れていかないと好感度下がりそうだなということで、3日ほど前にみんなを連れてちょっとした観光をしたのだ。
結果は大好評。さらには、普通に住めそうな場所であった為に“避難場所”としての価値まで生み出してしまったのだ。
ウルは早速この地下の街にポインターを設置し、万が一の時のための避難場所として確保。
更には非常食を多めに作ってコツコツと備蓄を増やしてあるらしい。
さすがは村長。行動が早い。
これで、ウルさえいれば村が吹っ飛ばされてもみんなが生きていける。しかも、おそらくだが多くの悪魔達はこの場所を知らないはずだ。
何せ悪魔は街からほとんど出ない閉鎖的な環境で育つ。東側に住む悪魔達の中には知る者もいるかもしれないが、東側の魔界は我らが天魔くんちゃんによって破壊されているのだ。
伯爵級悪魔までしかぶっ飛ばしてないので、それ以上の地位を持つ悪魔達は何かを知っているかもしれないが、少なくとも村がバレた時は村よりも安全になるだろう。
数万年以上も前に作られた街が、現代になって避難シェルターのような役割を果たすとは。
使わないことに越したことはないが、ヴァンパイアの残した遺産はこの村にとっても大きなものになりそうである。
「ウルでも知らないのか。こういう歴史に関することを悪魔は記述したりはしないのか?」
「悪魔達が出てく前のことをどうやって記録するんだ。私達も過去の過ちを未来に残すために文献は残していたりもする。まぁ、ノアが大体破壊していがな」
「師匠は何かを破壊していないと気が済まない人なのか?昔は自分のいた国を破壊した挙句、その人々を殺して儀式の生贄にしたような人だぞ。今とは大違いだ」
「今となっては私達のことが大好きで、シャルルさんに甘やかされているツインテールの美人だものね........人生にがあるのか分からないとは言うけど、あそこまで変わった人もそうはいないじゃないかしら?」
「未だに私は自分の目が信じられないよ。ジークとエレノアを見る目は、心優しき者のそれだった。あのノアがだぞ?大公級悪魔に喧嘩を吹っ掛けて大笑いしながら殺戮を繰り返してきたあのノアがだぞ?ガレン。お前も信じられないよな?」
「信じられないですね。昔のノア様を知っておられる者ほど、今のノア様は幻影なのではないかと疑いますよ。いやほんとに」
俺とエレノアは、昔やんちゃしまくっていた師匠を実際に見たことは無い。
話で聞いたことはあるんだけどね。
だからなんとなく想像はできてもよく分からないというのが実状だ。
今となってはお袋と一緒にお風呂に入って甘やかされる娘みたいな扱いだからね。しかも、当の本人すらもそれを受けていれているのがすごい。
やはりお袋。うちのお袋は世界最強である。
暴力よりも愛。愛は世界を征服してしまうのだ。
「それにしてもこの村も随分と発展したね。最初に来た時とは大違いだよ」
「実に平和になったものだ。私が直接魔物退治に出かけずとも、ジークたちが作ってくれた壁のおかげでそれなりに安全に対処できるようになっている。村のみんなはジーク達に感謝しているよ。もちろん、私もな」
「世話になってるからね。このぐらいはしないと」
「そうね。お世話になった分、借りは返す主義なのよ。私達は」
ふと、村を眺めると、最初の頃とは違ってさらに豊かさをました緑が街を覆っている。
魔術を知った村は、さらに発展して多くの自由な時間を手に入れた。子供たちは大人達に甘えられるようになり、大人たちも自分たちの時間を過ごせる。
更には壁によって襲撃してくる魔物への驚異も減った。これにより、怪我人も最近は減っているのだ。
怪我をしてもポートネスが大体直してくれるしな。
尚、未だに美人姉妹の取り合いが起こっている。誰がふさわしいとかとかあーだこーだ言っているのだが、そもそも相手を決めるのは向こうの姉妹だろうが。
そして、当の姉妹本人は滅茶苦茶ポートネスに懐いている。
同期の村人というのもあるし、仕事も一緒。なのだが、単純にポートネスがイケメンすぎるのだ。
外見の話ではない。
あいつ、研究者気質ですごく引きこもり体質なのだが、その研究を手伝ってくれる姉妹はとても大切にしているのか、かなり二人には甘く、そして優しいのである。
飯は基本ポートネスの奢りだし、休暇の日には必ず2人の我儘を聞いてやって色々と遊んで(遊ばれ)たり、重い荷物を運ぶ時はポートネス自らが運んであげたりと。
アレこいつ、研究者のくせにまともだぞ?ということが起きているのだ。
尚、俺達には厳しい模様。
唯一優しいのはあの姉妹だけなのだ。
「むしろ、こちらが借りを多く作っている気がするがな。困ったことがあれば言うといい。この村はジーク、エレノア、君達の味方であり続けよう。何より、ノアの愛弟子だからな。そんな2人を邪険に扱った日には、ノアが飛んできて私を殴りに来る........ノアが会いに来てくれるのか?」
やべ、ウルが俺たちを虐めたらノアに会えるのかもしれないとか言い始めた。
もうダメだこの人。やっぱり師匠似合いに行かせよう。
約束?大丈夫、師匠はそんなこと覚えてないし、覚えていたとしても俺達が理由を説明すれば分かってくれる。
その理由で呆れそうではあるが。
「ウル?やっぱり今すぐに会いに行こっか。もう重症だよ」
「そうね。行きましょう。約束なんて師匠は覚えてないわ。ウルの考えすぎよ」
「え?ちょ、待っ、心の準備が、というか約束が────」
知りません。貴方はそろそろ師匠エネルギーを補給してください。
そろそろ冒険者ギルドとかにも顔を出した方が良さそうだったし、ちょうどいい。ここは一旦人類大陸に帰るとしようか。
もちろん、俺達の愛弟子デモットも連れて。
後書き。
乙女ウルちゃん。ノアに会いた過ぎて思考が狂う。
怖いよウルちゃん。
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