探索完了


 かつてこの大陸にて絶大な力を持っていたと思われるヴァンパイア達が滅びた歴史。それは“ソレ”と呼ばれたアビスによって引き起こされたものであり、石版を読む限り絶対的な力を誇っていたと思われる。


 まだまだ謎は多い。


 結局のところ、アビスが呼び出された原因は不明だし、絵が下手すぎてどのような外見をしていたのかもあまり想像ができない。


 だが、知りたかった情報は知れた。


 ここの遺跡はヴァンパイアが作った隠れ家であり、アビスから逃れる為の場所。


 この地下の帝国で反映したヴァンパイア達はしばらくの間この街で暮らしていたが、新たなる大陸をめざしてこの地を後にした。


 そして、ここに残った一人の研究者は未来に残す為に石版を描き続け、精神を壊した。


 こうして、この遺跡にはキメラしか残らず、終わりを迎えたのだ。


 もちろん、デモットにもこの石版を見せたが、デモットはそもそもヴァンパイアという種族を知らなかったらしい。


 そりゃそうだろう。悪魔達が台頭してきた時代には、既にヴァンパイアは別の大陸を目指したのだから。


 しかし、デモットはあちこちの建物や街の作り、そして残されていた石版から、彼らが血を吸って生きる生物なのではないか?という予測は立てていたらしい。


 天才か?


 デモット天才過ぎないか?


 どうやら、家畜を育てていた場所を見つけたらしく、そこに残っていた死体や施設からある程度のことを予測したらしいのだが、そんな簡単に予測できるものなのかね?


 デモットってスゲーや。


「アビスにヴァンパイア。世界は広いですね。俺の知らないことがどんどん出てきますよ」

「そんなもんだ。二つの大陸を歩いてきた俺達も知らないことの方が多い。例え、全ての大陸を渡り歩いて、全世界の人々に出会ったとしても知らないかとの方が多いだろうよ」

「そうね。身近な所で言えば、ダンジョンとかになるのかしらか?どのように作られるのか、なぜ作られるのか。それすらも分からないのがあのダンジョンと言う異質な存在よ」

「謎という点においてはダンジョンの方が謎だよなぁ........お、それもういい感じに焼けてるぞ」


 ある程度探索し、知的好奇心を満たした俺達はこの遺跡にある滝壺に住む魚を幾つか取ってご飯を作っていた。


 とは言っても、今日は魚本来の味を楽しもうということで塩焼きである。


 塩を掛けて火で焼くだけ。美味しい焼き加減こそあれど、そこまで気合を入れるものでは無い。


 昔、火を起こすのが面倒でエレノアに頼んだのだが、一瞬で丸焦げになってたっけ。


 ちゃんと焚き火をしてじっくりと焼く方が魚も無駄にならないし、美味しくなるからそうするかと諦めた。


 エレノアの火力は料理に使えない。一緒に旅をしていく上で、知っておかなければならないのだ。


 デモットは焼けた魚に塩をかけると、早速かぶりつく。ちなみに、既にエレノアは二匹食っているので少し休憩である。


 後で肉も焼いてあげるか。


「ん、これなかなか美味しいですね。正直あまり期待してなかったんですけど」

「そうよね。私も思ったわ。こんな閉鎖的な空間で育っているにしては美味しいのよ。流石に川魚や海と比べるとちょっと味は落ちるけどね」

「俺も食うか........んー、塩よりも薬草系の調味料の方が合いそうな味だな」


 味は確かに思っていたよりも美味しい。


 生臭さが微妙に残っているので、それをハーブとかで中和出来たらさらに美味しくなりそうだ。


 思い立ったが吉日。


 俺は早速フライパンを取り出すと、料理を始める。


 デモットとエレノアはそれを興味深く眺めながら、のんびりとした時間を過ごしていた。


 10分後。薬草の暴力で生臭さを打ち消した料理が完成。


 早速味見してみよう。


「........うへぇ。失敗だ。生臭さを消したつもりだったけど味が混ざったな。ダメだこりゃ」

「私も食べていいかしら?」

「いいけど美味しくないぞ」


 俺が舌を出して嫌そうな顔をしたのが気になったのか、エレノアも味見をする。


 ついでにとばかりに、デモットも味見を始めた。


「ん?言うほど不味くはないわよ?」

「そうですね。普通に美味しい部類だと思いますけど........」

「いや、俺が想像してたよりも美味しくないから失敗だよ。本当ならいつも作ってるような感じになるはずだった」

「ジークって意外とそこら辺厳しいわよね。最低限の美味しさがあれば十分なのに。だからこそ、ジークの料理は美味しいんだけどね。普段作らない私がどうこう言える立場ではないわ」


 ダメなんだよ。食べれないことは無いけど想像していたよりは下は失敗なのだ。


 ちゃんと想像通りに作れなければ、親父のような料理人とは言えない。


 俺もまだまだだな。もっと料理に対する知識も身につけなければ。


「それにしても、ちょっとした遺跡探索がここまで大きな物になるとは思ってもなかったわね。ヴァンパイアの住処にアビスという不可思議な存在の確認。こんなものが見られるとは思ってなかっただけに、実に楽しかったわね」

「また遺跡の探索をしてみてもいいかもな。毎回発見があるとは思えないけど」

「普通、こんなに大きなものは見つからないのよ。今回が特殊すぎただけよ」

「ジークさん達はしばらくここには来ない感じですか?」


 ふとデモットがそう言う。


 デモットはまだ調べたりないのだろう。明らかにまだやりたい、まだ調べたいというのが顔に書いてある。


 わかるよわかる。まだ調べたいよね。俺達も未だに観光したのは滝とあの館だけだし、もう少し探索するつもりだよ。


 だから、そんな捨てられた子犬みたいな可愛い目でこっちを見ないで。眩しすぎて前が見えないから。


「いや、あと一週間ぐらいは調べようか。どうせダンジョンの再出現時間の間は暇だしな」

「ふふっそうね。もう少しヴァンパイアの暮らしについて調べるのは面白そうね。物語に描かれた伝説の種族の生活よ?もう少し調べるべきよ」

「やったー!!」


 あと一週間はここに来るとしよう。可愛い可愛い弟子が調べたがっているんだし、どうせ草食恐竜ダンジョンのリポップも待ち時間はやることがないし。


 現在、次の目的であるデモットを育ててくれたお爺さんを探すために、西に黒鳥ちゃんを飛ばしている。


 1週間ぐらいあれば、かなり進めることだろう。


 あと単純に俺ももう少し調べたい。


 アビスやヴァンパイアに関する情報を持っておくことは、今後役に立つ可能性がある。


 ふとした瞬間に遭遇するなんてことはよくあることだ。どこぞの骸骨みたいに、向こうから会いに来るかもしれない。


 相手を知っておくことはとても大切。知っているのと知らないのとでは、大きな差があるものなのだ。


「エレノア、次はどこを見に行く?」

「デモットが見つけたという家畜場とか面白そうじゃない?そこに生息していた家畜に関しても何かわかるかもしれないわ」

「んじゃ、次はそこに行ってみるか。デモットは?」

「俺はジークさん達が入った館に行ってみます。天魔くんちゃんさんが守ってくれるので、こっちの心配は要らないですよ」

「........(デモットは私達が守る!!)」


 シャキーンという効果音がつきそうなポーズを決める天魔くんちゃん。


 ちなみに、デモットがあれこれ調べている時天魔くんちゃんは弟を見ている気分になったんだとか。


 後方腕組みお兄ちゃんとか言う新たな概念を作り出してもらわないでもろて。


 主人の影響か、天魔くんちゃんはかなりデモットの事が好きだよな。


 こうして、俺達は一旦この遺跡の探索を終了することとなった。


 1週間後には西側の魔界に行くこととなるだろう。


 果てさて。デモットの言うお爺さんは見つかるのかな?





 後書き。

 と言うわけで、この章はここまでです。

 いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 今回はちょっと昔のお話でした。リーシャの切り札が分かったね‼︎そして謎も残る。

 お次は一旦帰ろう回です。ウルが我慢できないからね。しょうがないね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る