伝説の種族


 おそらく上流階級の者たちが住んでいたと思われる大きな館。そこで不倫の証拠を抑えた俺達は、さらに調査を続ける。


 片っ端から部屋を漁り、見つけた石版を読むと言うものであったが、重要なものが書かれたものは見つからなかった。


 精々ここに住んでいた者達の生活がどのようなものなのか分かる程度であり、この街がどのようにして滅びたのか、一体何と戦争をしていたのかと言う情報は見られない。


 ちなみに、不倫相手の石版も見つけた。


 この街では、おそらく重婚が禁止されていたんだろうな。尚、お相手も既婚者でした。


 終わってるよお前ら。


 そうして探索を続けていると、ひとつの大きな書斎を見つける。


 その部屋は巧妙に隠されており、違和感を感じ取って探知を使わなければ見つけられないほどの場所であった。


 壁の向こう側に空間があるって気が付かなかったら、見逃していた事だろう。


「........これは、死体だな」

「死体ね。あまり綺麗に残っては無いけど、人型であることはわかるわ」


 その部屋で最初に出迎えてくれたのは、骸骨であった。


 俺たちの師匠のようにアンデッドとなった骸骨ではない。死して、消え去った骸骨である。


 生命の反応を感じない。急に動き出すことは無さそうだ。


 骸骨はエレノアの言う通り、人型のもの。しかし、人間とは少し違った骸骨の顔をしている。


 こちとら元人間の骸骨の顔を嫌という程見てきたのだ。人間かそうでないかぐらいは判別が着く。


 これも師匠のお陰だな!!間違っても感謝したいとは思わないが。


「こじんまりとした部屋にひとつの死体。孤独死か?」

「死因までは流石に分からないわよ。肉体がないんだし。それよりも見てよジーク。綺麗に保管された石版が並べられているわ。殆ど風化した様子もないし、ちゃんと読めるわよ」


 死体に興味をなくしたエレノアが持ってきたのは、ひとつの石版。


 その石版は、確かに風化の影響を殆ど受けておらずかなり読めるものとなっていた。


 早速読んでみよう。


『これは、私達──イ─が犯した過ちだ。これを読む者はおろらく居ないだろう。だが、この地にあえて残った私はこの事実を書き残さなければならない。運良くこの地が破壊されず、そしてこの地を訪れた冒険好きの変わり者達がここを見つけた時のために。彼らが間違った選択をしないようにするために』


 どうやら、彼(彼女?)はこの石版をこの地に来た人に読ませるために書いたらしい。


 前に手に入れた石版も、何か間違えた選択をしたと言っていた。


 彼らは一体何を間違え、何をしてきたのだろうか?


 続きを読むとしよう。


『我々は、この地において絶対的な強者であった。かつては夜の一大帝国を築き上げ、迫り来る魔物達を喰らい尽くす勢いだったのだ。そんな映えある栄光は、私の知る限り2000年は続いたと思われる。

 しかし、私達はあまりにも傲慢であった。私達が強いのはあくまでもその地に限った話。どこで間違えたのか、何が原因でソレらを呼び出したのかは分からないがある日私達の国は三日と持たずに滅びたのだ』


 この魔界における支配者であった彼らは、どうやら国を作っていたらしい。


 しかし、それは“ソレら”と呼ばれる何者かによって三日も持たずに滅ぼされたと。


 ........そういえば、最初と三つ目に手にした石版に“レ”の文字があった気がする。


 もしかして、そのことを書いていたのか?


 答え合わせをしているような気分で楽しいな。


 1枚目の石版はここで終わっている。


「面白くなってきたじゃない。2枚目を取るわよ。おそらく順に並んでいるだろうしね」

「頼むよエレノア」


 石版2枚目。そこにはこう書かれていた。


『映えある帝国が滅んだのもつかの間。運良く生き延びた私達の祖先は、高い山の場所へと逃げ込んだ。今の大地を見れば、何が大地を飲んこんだのかは分かるだろう。高く。出来てるだけ高く逃げなければならなかったのだ。私の父曰く、帝国から最も近く、そして最も高い山がこの場所だったという。当時はそこまで大地は侵食されていなかったらしいが、今となっては奴らの領域だ。

 生活圏が限られた山の上で限られた資源を消費しながら暮らしていれば、いつの日か我々は絶滅する。そこで祖先達はこの山の中に新たな帝国を築いたのである。当時、こっそり城を抜け出した王子が居たのは幸運以外の何物でもない。幼いながらに私達の象徴となってくれた王子........いや、王には感謝しかないのである』


 なるほど?


 少し不可解な点もあったが、どうやら彼らは大地を侵食されて山に逃げ込む羽目になったらしい。


 高ければ高いほどいいということは、下から上に迫ってくる何かがあったということか。


 今の大地を見ればわかるという一文があるが、普通の大地に見えた。昔と今では大地が異なり、この著者はその変化を予想出来なかったのだろう。だから、俺たちからしたら“何を言ってるんだ?”となる。


「今の大地........何かあったかしら?」

「いや?少なくとも違和感は感じなかったから、当時と今では景色が違うんだろうな。多分」

「そう考えた方が自然よね。それと、王の存在もあるわ。これは悪魔の王と同じなのかしら?」

「いや、多分違うぞ。ここで言っている“王”は、おそらくロード・ヴァンア三世の事だ。この街の中で1番豪華な家に飾られた肖像画。名前からしても偉そうだしな」

「あー、ここで繋がってくるのね。確か今の悪魔の王の名前はソロモンだったかしらね?」

「確かそうだったな。となると、ここにいた奴らら悪魔では無い種族となるわけだ。あの死体、かなりの価値がありそうだな」


 と、ここで俺は死体を見てあることが頭に浮かぶ。


 あの死体、やけに犬歯が長いなと。


 人間の歯の形とは随分と違ったから、俺はこの死体を人間では無いと判断したのだが、この異様に長い犬歯の特徴を持った存在わ俺は知っている。


 いや、正確には物語で読んだことがあると言った方が正しいか。


 待てよ?ここの王の名前はロード・ヴァンア。


 削れて読めない場所に書かれていた“イ”の文字。


 パズルのピースが次から次へと繋がっていく感覚が頭の中によぎる。


 もしかして、ここは吸血鬼、又はヴァンパイアと呼ばれた伝説の種族が暮らしていた地か?!


「エレノア。ヴァンパイアっていう種族を知っているか?」

「えぇ。知ってるわよ。物語にしか出てこないけど、一応実在したと言われている種族ね。確か、何万年か前に一度だけ姿を現して討伐された魔物だったはずだわ。人や魔物の血を啜り、多くの人々を枯れ果てさせた凶悪な魔物。その強さとおぞましさから未だに人々から恐れられ、子供たちの読む童話の敵として出てきたりもするわ」

「その童話のタイトル、エルリットの英雄譚だろ。昔読んだことがあるぞ」

「あぁ、そんな名前だったかしらね?」


 エルリットの英雄譚。


 実話を元にして書かれたフィクションの物語であり、俺も小さい頃に読んだ覚えがある。


 主に文字を覚える目的で。


 そして、そこにはヴァンパイアと呼ばれる種族が敵として登場していた。


 長い二本の鋭い歯と病弱そうな真っ白な肌。陽の光に弱く、あまり日の出る時間には活動しない魔物。


“夜の一大帝国”と言う一文から考えても、その特徴と一致する。


「エレノア。こいつら、ヴァンパイアだ」

「........なるほど。確かにそう考えるのが自然かしらね。明確に明言はされていないけど、この死体と文から読み取れる内容から想像できるわ」

「王の名前もヴァンパイアっぽいしな。やべぇな。俺達、伝説と呼ばれた種族の住処に入ってきたのかもしれん」


 俺はそう言うと、さらなる調査を進める。


 一体どうして滅んだのか。何が当時起きたのか。ここら辺を知らなければ、この街の歴史ら分からないのだ。





 後書き。

 正直、ヴァンパイアに関してのヒントはほぼ無かったから当てるのは無理です(予想してたら凄いよ)。でも、何やら見覚えのありそうな言葉があるね?カタカナで。

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