古代の足跡


 地下七階層に広がる街。


 今まで得た情報から、大陸を追われた何者かが作り上げたと見られる地下の理想郷ユートピアは、俺達を興奮させた。


 古代の文明によって作られた地下の街。


 ロマンを感じない方が無理がある。


 やけにテンションの上がったエレノアにお姫様抱っこをされた俺は、最初の探索場所として滝へとやってきた。


 街並みを見る余裕なんてあるはずもなく、気がつけばそこに到着していたのである。


「わぁ!!見てよジーク!!沢山の魚が泳いでいるわよ!!」

「本当だな。ところでエレノア?そろそろ下ろして欲しいんだが」


 魚が食べられると思ってやってきた滝壺には、確かに多くの魚が存在していた。


 良かった。これで1匹も魚がいなかった日には、冗談抜きにここら周辺が炎の渦に飲み込まれていたかもしれない。


 俺はとりあえずこの街が2度目の滅びを持ち出すことは無かったと安堵しつつ、未だにお姫様抱っこされている状況に文句を言う。


 エレノアに抱き抱えられるなんて初めてだ。よく抱き枕にされてはいるが、お姫様抱っこはちょっと恥ずかしい。


「ふふっ、恥ずかしいの?少し顔が赤いわよ?」

「うるさい」

「ふふふっ、今のジーク、とっても可愛いわね」


 恥ずかしさが顔に出ていたのか、エレノア曰く顔が赤くなっているらしい。


 それを指摘された俺は、さらに顔が熱くなるのを感じながらエレノアの腕の中から脱出する。


 このままだと、エレノアがからかって俺をお姫様抱っこし続ける。俺の相棒の悪ノリを許してはならない。


 誰がなんと言おうが、俺は可愛いよりもカッコイイの方がいいのだ。


 なんとも言えない恥ずかしさを覚えながら、俺は話題を逸らすために滝について触れる。


「緑豊かだな。到底地下だとは思えないよ」

「そうね。ここでのんびり釣りができそうだわ」


 エレノアは俺があからさまに話題を逸らしたことを察しつつも、話を合わせた。


 10メール程の高さから落ちる水。そしてその落ちた先に溜まる水の中には魚達がふよふよと泳いでいる。


 かつてこの地に生きていた者達は、この魚を取って生活していたのだろうか?


 でも、街の規模から考えるとこれだけで食料を賄うのは無理がありそうだよな。


「食べる?料理はするよ」

「後にしましょう。どうせ食べるならデモットも一緒じゃないとね。デモット、ジークの料理がかなり好きなのよ?いつも楽しみにしているんだから」

「自分も作ってるのに」

「ふふっ、私達も師匠が作ってくれた料理は好きだったし、弟子は師の作る料理が好きなのかもしれないわね」


 デモット、俺の作る料理がそんなに好きなのか。


 いつも“美味しい美味しい”と言って食べてくれているのは見ていたが、そこまで好かれているとは思わなかったよ。


 デモットも美味しそうにご飯を食べてくれるから、作っていて気分がいい。


 俺が料理を作る理由は、やはり食べてくれる人にあるんだな。


 この魚達でどんな料理を作ろうか悩みつつ、俺達はその周囲の探索を始める。


 どうやってこの滝が形成されているのか気になるが、それよりも先ずは周囲の物を見て回ろう。


「木だな。この魔界でよく見かける木だ。確か、陽の光をあまり必要としない奴だったか?デモットがそんなことを言ってた気がする」

「ちょっと名前は忘れちゃったけど、そんな特性があった気がするわね。不味いけど食べられない事も無い木の実を作ると言っていたわ。こっちにも、食用になる草が生えているわね。茹でて苦味を出すと食べられるものだったはずよ」


 事ある毎にデモットからあれこれ解説されてきたこともあってか、俺達もそれなりに魔界の植物については詳しい。


 その大半は名前を忘れてしまっているが、どのような特性があって食べられるのか、危険なのかなどの判断はある程度できた。


 お、これも食える奴だな。丁度いいし、ここにある食材を使って料理でもしてみるか。


「これは芋ね。ここに住んでいた何者か達はこういう所で食料を生産したと考えてよさそうだわ」

「だろうな。この滝は街の生命線だったとも言える。だけど、疑問が残るんだよな」

「何かしら?」

「なんでこの街はこんな綺麗な状態で残ってんだ?人っ子一人いないのに」


 この地下の街を見て感動していたが、よくよく考えるとおかしな部分がある。


 キメラの製造やトラップなど、ここに来るでにも謎は多くあったが、今回は更に重要な謎だ。


 これだけの街が作られていたのならば、それなりの数の者達が住んでいただろう。


 だが、今となっては誰一人としてここには居ない。


 しかし、外から侵入したきた何者かによって滅ぼされたにしては街が綺麗に残りすぎている。


 かなり前に存在していた街とは言えど、今の時代までここに住んでいる者がいてもおかしくは無いのだ。


 子孫を残し、生き残ることぐらいはできそうである。


「滅びた原因が分からない。ここにいた者達は何かと戦っていた。だから、1番考えられそうなのは街に攻め込まれて滅びたというシナリオ。でもそれにしては街が綺麗に残りすぎてる。戦った痕跡がどこにもない」

「終戦して外に出たとか?」

「........なるほど?それはありそうだ。終戦して、街の外に出たのか?でも、俺ならこんな設備のある街を放棄する選択はないと思うんだけどなぁ........」

「確かにそうね。維持しておけば再び戦乱が訪れても逃げ込める避難所になる。そう考えるとここまで綺麗に残っているのが不自然に思えるわね」


 パッと見だけでも、生きていくには十分な場所だ。


 もしもの時のための避難シェルターとして使えるだろうし、完全に手放す意味もない。


 数十人ぐらい管理人を置いておくか、100人ぐらい住まわせておけば種族の滅亡は止められるだろう。


 番人たるキメラもいるんだしな。


「文字は........無さそうね。少なくともここにはないわ」

「1番近くにある館のような建物にはなにが手がかりはあると思う。家がデカイ=街の中では偉いってのが常識だしな」

「村長宅、または領主の館と言ったところかしらね?調べてみる?」

「そうだな。デモットはしばらくあちこちで探索しているだろうし、俺達もその間は見て回ろう」

「明日になりそうね。それ。デモット、ここで一生を過ごせると言ってるぐらいだし」


 この街の文明には謎が多く残されている。


 貪欲に知識を求めるデモットが、その謎を解き明かしたいと思うのも無理はない。


 冗談抜きに数年ぐらいはここに居座りそうなレベルで興奮してたからな。はしゃいでたでもっとは可愛かったけども。


 一応、年齢で言えば1番デモットが歳のはずなのに、何故か弟を見ている気分になる。


 エレノアはママになるし、デモットはショタ属性があるに違いない。


 デモットは可愛い。異論は認めん。


 着々と俺達も弟子バカになっている気がする。師匠にならないように気をつけないとな。


「天魔くんちゃんがデモットのテンションに合わせてくれてるのも面白いよな。ちゃんと空気が読める辺り、さすがだよ」

「ジークの魔術は結構ちゃんと空気を読んでくれるわよね。いつも言っているけど、あれは人類が開発した魔術の中でも最高峰の出来だと思うわ。師匠が手放しで褒めているもの」

「1人でも寂しくないしな。俺はエレノアがいるからあまり寂しさとか感じないけど」

「ふふっ、急に褒めてもお姫様抱っこしかできないわよ? 」

「勘弁してくれ。あれはちょっと恥ずかしい」

「ふふっ、ふふふ。やっぱりジークは可愛いわ」


 お姫様抱っこという俺をからかう手札を手に入れたエレノアは、とても楽しそうにそして嬉しそうに笑うと俺の後ろに回って抱きつくのであった。





 後書き。

 ジークきゅん可愛すぎる。

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