地下の街


 全部合わせたら最強なんじゃね?と言わんばかりのちょっと頭の悪いキメラを討伐し、その壁に書かれていた文字から何となくの時代背景を考察していた俺たちは、地下七階層へと降りた。


 キメラの研究に夢中であったデモットだが、デモットはこれ以上研究を始めると多分一日が潰れると分かっていたようで、頑張って自分を自制していた。


 偉いぞデモット。思いついたらそこがどんな場所であろうが、容赦なしに魔術をぶっぱなす頭のおかしいロリっ子エルフとは大違いだ。


 お前のことだぞリエリー。シャーリーさんに迷惑をかけるんじゃないぞ。


 今でも向こうの大陸で爆発音が聞こえてくる。絶対リエリーは他の人達に迷惑をかけてるよ。想像出来てしまうよ。


 そんな頭のイカれた魔女っ子ちゃんは元気にしているのだろうか思いつつ、地下七階層へと降りると、そこは今までとはまるで違った景色が広がっていた。


「これは........」

「街、ね。しかも、地下深くに存在しているはずなのに外にいると思うほどの錯覚だわ」

「うわぁ!!これは凄いですね!!」


 そこは、山をくり抜いてできた街とは思えないほど輝いていた。


 まず、部屋そのものがかなり明るい。


 天を見上げればそこにはキラキラと光る照明のようなものがある。


 あれは........コケか?天井が高すぎてよく見えないな。後で確認しよう。


 そして、広々とした街。


 そかの階層とは比べ物にならないほどのスペースが確保されており、普通に人間の小さめな街としても何ら違和感がないほどに広い。


 そして、緑豊かな自然。


 どのようにして育てたのかは知らないが、木々が生えており、緑があちこちに見える。


 太陽の光もなしにどうやってここまで育ったのかは不明だ。


 さらに、その奥には滝まで用意されている。


 おそらくあそこで水を確保していたものだと思われるが、まずどうやってこんな場所に滝を作ったんだよ。


 あまりにも意味不明で、あまりにも不可思議なその場所は、俺達が地下に居たという事を忘れさせる。


 そこは正しく、地下の楽園。この地に逃げてきたもの達が築き上げた、地下の理想郷ユートピアであった。


「調べるものが沢山ありそうだな。今日中に終わるわけが無い」

「暫くはここの探索になるわね。それに、ここならたくさんの情報が得られそうだわ。ジークの考えていた滅びた古代文明なのか、それとも一度大陸を失った悪魔達の最後の隠れ家だったのか。今から謎を解き明かすのがワクワクするわね」

「調べたいものが沢山すぎます!!俺、多分一生ここで過ごせる自信がありますよ。まぁお二人の弟子の方が大事なのでやりませんけど」


 嬉しいことを言っていくれるデモットの頭を撫でてやりながら、俺はどこから調べようかを既に考えていた。


 天井?滝?それとも、奥に見える一際大きな建物?それとも、周辺な民家?それとも街並み?


 あぁ、知りたい調べたいことが沢山だ。


 とにかくここは、俺たちの想像を遥かに超えた場所である。


 こんな発見ができるなら、人類大陸でももっと遺跡とか古代文明について調べてみるのも面白かったかもな。


 悪魔王を討伐した後は、ちょっと趣向を変えてこの世界のその世界に行きた生命たちの歴史を辿ってみるのも悪くない。


 もちろん、最優先はレベリングだが。


 レベリングは生活。遺跡探索は趣味。そんな感じでいいだろう。


「ジークジーク!!どこから見てみようかしら?」

「そう焦るなエレノア。別にこの遺跡が足を生やして逃げるわけじゃないんだ。ゆっくり一個づつ見ていこうぜ。俺も滅茶苦茶楽しみだけども」

「ジークさんジークさん!!見てくださいよあれ!!恐らく魔物の骨ですよ!!しかも、加工段階で止まっています!!」

「分かったからデモット、少し落ち着いて?服が伸びちゃうし、一応トラップの警戒はしようね?」


 俺もテンションが上がっているがらそれ以上にエレノアとデモットのテンションが高い。


 俺はさながら、遊園地に初めて来た子供の面倒を見る親だ。


 とにかく先へ行こうとする2人を止めるのに必死である。


 俺も今すぐに見に行きたいけど、2人を野放しにすると絶対やばい。エレノアは長年の付き合いから、こういう時になにかやらかすと分かっているし、デモットは逆に何をやらかすのか分からない。


 待って待って。一旦追いついて。ゆっくり行こうよ。


「........(主人主人)」

「どうした天魔くんちゃん。俺は今この2人を野放しにしないようにするのに忙しいんだけど」

「........(もう二人私達を出して、護衛につければいい。やばそうなら止めるよ。そしたら主人も見たいものが見れる)」


 天魔くんちゃぁん!!


 やっぱり俺の作り出した天魔くんちゃんは最高だ。こういう時にちゃんと主人の苦労を汲み取って、変わってくれようとしてくれる。


 後でいっぱい褒めてあげるからね。どんなワガママだって聞いてあげよう。


 俺は即座に天魔くんちゃんを一体出すと、デモットの護衛とデモットがやらかさないように監視を命じた。


「すまん頼んだよ天魔くんちゃん」

「........(アイアイサー!!まずはどこから行く?デモット)」

「それじゃまずは建物から見に行きましょう!!この街の建築様式を知りに行きますよ!!」

「........(いぇーい!!では主人。行ってきます)」

「お、おう。行ってらっしゃい」


 温度差で風邪ひくわ。


 デモットのテンションに合わせて悪魔くん側の人格を強くしている天魔くんちゃん。


 ちゃんと空気を壊さないようにしようとする努力が感じられる。それでいながら、俺には天使ちゃんモードでぺこりと頭を下げた。


 真面目とオフザケの差がすごすぎて風邪ひきそう。


 でも、これでデモットは安全だしなにかやらかすことは無いだろう。


 やばい時は天魔くんちゃんが守ってくれる。


 え?エレノアはどうするのかって?


 エレノアは天魔くんちゃん達でも止められないから、俺が保護者をするしかないんだよ。


 こんなにテンションの高いエレノアは久々だし、たまには相棒のやりたいことを見守ってあげるのも相棒の役目だ。


 俺だって普段エレノアに迷惑をかけているんだし、こういうのはお互いに上手いバランスで関係性を保つものである。


「で、エレノアはどこから見に行くんだ?」

「そうね........とりあえずあの綺麗な滝から見に行きたいわ!!地下の中で落ちる水と反射する光!!そこに生えている植物なんかもちょっと興味があるし、何よりお魚さんがいたら食べたいわね!!」

「こんな時でも食い物なのか........」


 魚がいるかもしれないから、滝に行って見たい。


 実にエレノアらしい理由である。後、付け加えるなら、食べられそうな果実や野菜があるかもしれないとか思ってんだろうなぁ。


 後で料理を作らされそうだ。俺は、エレノアが美味しそうに自分の作った料理を食べてくれるのが好きだからいいのだが。


「んじゃ、街並みを観察しながら──────へ?」


 最初の目的には滝。折角なので街を眺めながら歩いて行くかと言おうとした俺だったが、何故か体がふわりと浮き上がる。


 お姫様抱っこだ。お姫様抱っこをされている。


 その犯人に視線を向けると、エレノアは可愛らしい笑顔を浮かべながらこういった。


「待ちきれないわ!!走っていくわよ!!」

「え、ちょ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」


 どんだけテンション上がってんだよ。これで魚とか野菜とかなかったら、この街が滅びるんじゃないか?(生命の反応がなかったのである意味既に滅びている)。


 俺はエレノアにお姫様抱っこされながら、爆速で見知らぬ街を駆け抜けるのであった。

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