キメラキメラ‼︎


 この世界の歴史について考察することが思いのほか楽しく、新たな趣味になりそうな予感を感じながらも地下第五階層は続いていく。


 満足するまでキメラの死体を弄り回したデモットは、恐らくだが人為的作られた魔物であるという判断を下していた。


 どうやら、明らかに何者かの手によって細工された後があるらしい。


 詳しく話されたが、そういう知識には疎い俺とエレノアにはさっぱりな話であった。


 まぁ、要はほかの魔物では見られない明らかな異常があったという事だろう。


「どんな手段でこの魔物達を作ったのか分かれば、もっと研究できそうなんですがね........」

「少なくとも、俺が知る限りそんな魔術はない。魔術に不可能は無いから、もしかしたら俺達の知らない魔術によって作られた存在かもしれないけどな」

「権能という線も有り得ますが、こんな感じでハッキリと魔物を繋ぎ合わせるような権能は知りません。それに、魔術でも権能でもない別の手段ということも考えられます。要は、考えるだけ無駄ということですね」


 辛辣な結論を下したデモットは、そう言いながら紙に判明したことを纏めていく。


 今日はガチの研究や調査がしたかったのか、メモ用紙を持ってきていた。


 昨日は観光気分で来てたからな。こんなに謎が深まる場所だとは思ってなかったし。


「他のキメラも見に行きましょう。ほかのことが分かるかもしれません」

「そうだな。とりあえず、二種類の魔物を繋げあわせるのは確認できた。次はさらに多くの種類の魔物を繋ぎ合わせられるのかとか、そこら辺を見ていきたいかもな」

「うわぁ........想像しただけでロクな見た目じゃないと分かるわね。滅茶苦茶だわ」

「俺もそう思う」


 今のところ確認されたキメラは二種類しかないが、この二種類とも、2つの魔物を合体させていることは分かっている。


 となれば、次に考えるのは“どれほどの種類の魔物を合わせたキメラが存在しているのか”だろう。


 この魔界で出会った魔物の種類はかなり多い。有名どころの草食恐竜全般に、ティラノサウルスのような見た目をした魔物やアロサウルスのような見た目をした魔物。


 傷だらけの王者スカーキングは明らかに別物なのでキメラに使えないだろうが、そのほかのキメラ体は出てきてもおかしくなかった。


 全部盛り合わせ僕の考えた最強キメラ!!とか出てきてくれたら面白いんだけどな。


 最高に頭が悪いし、ロマンがある。絶対弱いだろうけど。


 そんなことを思いながら次の反応がある場所に行くと、そこには想像通りにロクな見た目じゃないキメラがいた。


 こいつを作ったやつはアホなのか?


 見た目はステゴルス。今回は頭も別に変わっている点はない。


 では何が違うのか。


 それは、めっちゃ尻尾があるという点である。


 ステゴルスの強みとして、その枝分かれしたような尖った尻尾を振り回して攻撃するというのがある。


 これを作ったやつは多分、“尻尾増やしたら強くね?”と思ったのだろう。


 馬鹿なのかな?馬鹿だろ。


 二本に増やしたはまだ分かるが、あれはどう見ても10本以上もある。


 あんなに尻尾を取り付けられたら、本来発揮出来る力の半分も発揮できないだろう2。


「沢山尻尾があるわね。なんというか、製作者の考えが透けて見えるわ」

「奇遇だな俺もだ」

「尻尾を沢山つけたら強くね?って考えが丸わかりですね。ここまで露骨だと一周まわって実は強いのでは........?」


 俺のみならずエレノアやデモットですら“製作者はきっとこう考えたんだろうな”という想像がつく。


 ある意味すごいよ。ここまで典型的な馬鹿を見るのは。


 いや、魔物自体に罪はないんだろうけどさ。


 俺は雑に魔術でステゴルス(尻尾増殖バージョン)の脳を撃ち抜くと、死体を回収する。


 デモットもこいつに関しては何も言わなかった。


 だって見ただけで大体の想像は着くからね。あまり知識欲を刺激されなかったのだろう。


 というわけで次。


 アロルスの頭をし、プテラドンの翼を生やした、胴体アンキロルスの個体。


 馬鹿なのか?(2回目)


 プテラドンが空を飛べるのは、あの軽い体があってこそのもの。翼は装飾品じゃねぇんだぞ。


 どうやったらこいつは空を飛ぶんだよ。


「最っ高に気持ちの悪い見た目をしているわね。吐き気がするわ」

「あぁ。俺もだ。最高に気色悪い。頭が胴体と会ってないし、翼がちょこんと生えてるのもなんか腹が立つ。こいつを作ったやつは芸術的なセンスが皆無だ」

「なんというか、生命への冒涜を感じますね。生命にはちゃんとその個体にあった美しい形があるのだと分からされた気がします」


 プテラドン+ステゴルスの時もそうだが、顔と胴体があまりにも合ってないと気持ち悪さがあるな。


 デモットの言う通り、全ての生物にはちゃんとその個体にあった美しい形があるのだと言うことを俺はようやく理解した。


 死んだ魔物に価値は無いとして食べたり金に変えている俺たちの方がよっぽど生命に対して紳士である。


 少なくとも、こんな無様で気持ちの悪い形に改造した覚えは無いからな。


 魔物の肉を使って魔物を再度作らせてたことはあったけど(魔王)。


 あれ?生命の再構築という点においては、ここの奴らは魔王と同じなのか?


 いやでもさすがにこれは原理が違いそうだ。魔王の作りだした配下は、ここまで醜い見た目をしてはいない。


「とりあえず殺すぞ。どう始末して欲しい?」

「きれいな状態でお願いします。後で皆と研究材料に使いたいと思うので。これだけ歪な形をしていれば、どこかしらにその痕跡が残っているはずですから」

「分かった。来たれ門よ」


 俺はデモットに殺し方を聞くと、地獄の門を開いて飲み込む。


 闇に飲まれたキメラは外傷も無く死に絶え、俺の影の中に回収された。


 デモットはちょっと調べたそうな顔をしていたが、先程のキメラを調べすぎた事を気にしているのか、時間を使うような我儘を言わなかった。


 デモット、本当にいい子。


 だからこそ、なぜチンピラをやっていたのか余計に疑問に思う。


 本人は舐められないようにするためとは言っていたが、デモットの知識力なら普通にどこかの街で雇われてもおかしくなさそうなんだけどな。


 やはり悪魔は脳まで筋肉なのだろうか?


 知識?殴れば全て解決や!!


 みたいな。


 普通に有り得そうだから困る。悪魔は暴力こそ最大の力と考えているからな。


 だからこそ、デモットに知識を与えた老人悪魔のことが気になって仕方がない。


 今度は西側をめざしてみるのも良さそうだ。もしかしたら、まだ生きているかもしれないし。


「デモット、この遺跡探索が終わったらお前の恩人を探してみるか」

「え?なんですか急に」

「デモットを育てた恩師に会ってみたくてな。死んでるかもしれないとデモットは言ってたけど、まだ生きている可能性もあるんだろう?」

「まぁ、それはそうですね」

「あらいいじゃない。成長した姿でも見せに行きなさい。生きているあいだだけよ?感謝が言えるのも、我儘を言えるのも」


 エレノアは既に両親を失っている。さらに言えば、親代わりに自分を育ててくれたお婆さんまで他界している。


 エレノアが幼少期に過ごした中で、唯一シャーリーさんだけが生き残っているのだ。


 3度も失っているエレノアは知っている。死ねば二度と会えることは無いのだと。


 珍しくエレノアの声色が硬かったからだろう。


 デモットはしばらく考えた後、素直にその助言に従うことにした。


「分かりました。俺もいくつか聞きたいことがありますしね」

「よし。次の目的が決まったな。レベリングしつつ、西側の大陸に探しに行ってみよう」


 俺はそう言うと、残りのキメラたちも回収するのであった。


 ここにいたのはこの三種類か。部屋は無し。石版の回収は無さそうだな。





後書き。

尻尾いっぱい=強い。

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