キメラ‼︎


 おそらく未来の子孫達に向けて残されたであろうその石版は、数多くの謎とこの遺跡に住む者たちの情報を残した。


 分からない部分も多くある。だが、それ以上に分かったことも多い。


 遺跡がどんな役割を果たしていたのか、何となくだがその役割が分かりつつも、俺達は更なる先へと向かった。


 遺跡地下五階層。


 既に闇狼達の報告によって、ここには多くの魔物が生息していることが判明している。


 デモットが喜びそうだ。デモットは研究者気質だし、あのキメラが誰かの手によって作られたのかどうか知りたがっていたからな。


「早く行きましょう!!ジークさん!!」

「分かった分かった。分かったからそう急かすな。別に魔物は逃げやしないよ。どうせ闇狼くん達に追跡させてるし」

「ふふっ、楽しそうね」


 謎の石版を見つけた時よりもテンションが高いデモットは、それはもうウキウキであった。


 心の底から楽しそうな顔をしながら、この先に存在するであろう魔物に思い馳せる。


 デモットは強欲な知識の悪魔だな。その内凄まじい功績とか残しそう。


 そんなことを思いながら、今にもスキップしそうなデモットを微笑ましく見つつ地下五階層を歩いていく。


 地下五階は他の階層とは違い、かなり道幅が広かった。


 俺が寝転がって4人ぐらい縦に並べるぐらいには広く、大体4~5メール以上の幅が確保されている。


 天井もほかの階層に比べて高く、魔物がこの階層に存在することを考慮すると、その魔物達が通れる大きさに整備されていたと思われる。


 つまり、小型ではなく中型の魔物が出てくるという事だ。


 しばらく歩いていると、それは現れる。


 その魔物は、あまり魔物に興味のない俺やエレノアですら気がつくほどに異常な見た目であった。


「プェェェェェェェ!!」

「ステゴルス........なのか?」

「見た目が違いすぎるわよ。背中の棘は確かにステゴルスのものだけど、顔がプテラドンのものだわ。歪すぎるわね」


 俺たちの前に現れたのは、ステゴサウルスの体を持った、頭がプテラノドンの魔物であった。


 さすがの俺とエレノアでも、これは異常だと気がつく。


 それはあまりにも不気味で、明らかに生命の進化に反した存在であった。


「デモット。念の為に聞くが、あんな姿の魔物が魔界に存在しているのか?」

「俺の知る限りではあんな形の魔物は存在しません。お二人が言っていたとおり、ステゴルスとプテラドンを合体させたかと思われます!!」

「楽しそうだな」

「楽しそうね」


 目をキラキラと輝かせながら、自分の見解を述べてくれるデモット。


 デモットはもうとにかくあの魔物を研究してみたくて堪らないらしい。


 少年のように目が輝き、とても楽しそうである。


 これほどテンションが上がっているデモットを見るのは初めてかもしれないな。魔術を教え、新たな知識を知った時よりも楽しそうだ。


「ジークさん、とりあえず以前のように真っ二つに切ってくれませんか?」

「はいよ。これで何かわかるといいな」


 可愛い弟子にお願いされた、答えてやるのが師匠というもの。


 俺は、弟子のお願いにはなんやかんや甘いどこぞの骸骨師匠を思い出しながら、アダマンタイトの剣を抜く。


「プェェェェェェェ!!」

「うるさいぞ。声が響くんだから、少しは抑えろ」


 俺達を見つけたキメラは、俺達に突撃。


 俺は真っ二つにキメラを切ろうとして、ありえない光景を目撃した。


 周囲に魔力反応。こいつ、プテラドンが使う風の力を使えるのか!!


 ステゴルスに風の力をなさ扱う術はない。なので、この力はあの頭が使っているのだろう。


 頑丈な肉体と風の力。相手が相手なら苦戦を強いられそうだ。


「ま、俺には関係ないけどな!!」


 俺はそう言うと、迫り来る風の斬撃に対して同じく風魔術を行使して周囲の風を乱す。


 風魔術は不可視の一撃。しかし、魔力を見ることが出来ればその流れも見えてくる。


 風魔術はその静かさと見えない一撃が強みだが、明確な弱点がある。


 それは、周囲の風を乱されると、その力が失われてしまうという事だ。


 正確には、同じ魔力を伴った風が周囲にあるとその影響を受けてしまうという事である。


 俺は、周囲の風に魔力を流して空気を乱す。


 キメラの一撃は無力化され、キメラはそれに気づかずに俺に突っ込んできた。


「ふっ!!」


 スパン!!と、小気味いい音が聞こえそうな程綺麗にキメラが真っ二つされる。


 多分地下三階に出てきたキメラよりは強いのだろうが、俺からすれば特に違いはなかったな。


「........私も剣が使えたら、ここで暴れられたのかしら?」

「いや、剣云々じゃなくて加減の問題だからね?エレノアは手加減していても馬鹿げた破壊力を持ってるのが問題なんだよ」

「ありがとうごさいますジークさん!!」


 自分もちょっと戦いたいのか、少し口を尖らせるエレノア。


 昔よりも強くなった弊害で、手加減が更に下手になるというのが何ともエレノアらしい。


 もうちょっと加減を覚えてね。具体的には、加減を間違えて俺の骨を折らない程度に。


 楽しくなると加減を忘れる癖はいつになっても直りそうにない。


 そして、デモットは早速死体となった魔物をあれこれ弄り始めた。


「あ、ここ持って」

「........(了解)」


 わざわざ自分の分身を作り出して、助手のように手伝わせながら。


 顔は真剣だが、目の輝きがさらに強くなっている。俺は眩しいよ。弟子が眩しすぎて、ロクに顔を見れないよ。


「それにしても、かなり異質な魔物だったわね。正当な進化を進んだとは思えないわ」

「俺もそう思う。進化の過程は数あれど、あそこまで見た目が変化するのは稀だ。何者かの手が加わっているとしか思えない」

「キメラ........魔物の死体を繋ぎ合わせて作られた化け物。この遺跡に住んでいた者達は、私たちが思っているよりも高度な技術を持っていたかもしれないわね」

「そうだな」


 紙を作る文明はなくとも、死んだ魔物を蘇生し、新たな魔物を作り出す技術は持ってた。


 そう考えると、今の人類よりも高度な文明といえなくもない。


 特に、今回はその素材となった魔物の持つ特性まで使えるようになっている。


 それでいながら、アンデッドのような気味の悪い見た目をしていないと考えると、肉を腐らせないような技術すらあったような思える。


 そんなことが可能な種族、文明が存在していたのか?一体どこの誰がこんな魔物を作り出したんだ。


「魔界に存在する魔物がこの遺跡から作られていたとか、そういう風に考えることもできそうだな........」

「あら、そしたら最高じゃない。私たちがその作る技術を奪えば、経験値がウハウハよ。レベリングが捗るわ........とは言ってもその可能性は低いと思うけどね」

「なんでだ?」

「生命を作り出せるような存在が、それ以上の存在と争っていたとは思えないわ。兵士を作り出せるのよ?軍事力なら負けないと思うけれど」

「........なるほど。だが、相手も同じようなことが出来たら分からんぞ?」

「あーその線も考えれるのね。結局のところ、はっきりとした情報が分かるまではなんでもアリになってしまうというわけかしら」

「そうだな。なんでもありになる」


 こうして、俺達はデモットが満足するまでお互いにこの遺跡に着いての考察を繰り広げるのであった。


 魔物の生成所説、高度古代文明説、どっかのヤベー研究所説などなど、色々な説が浮かぶが、結局のところ真実は分からない。


 だが、一つだけ言えることがある。


 こういうの考察ってクソ楽しいな。俺と議論を繰り広げている間、エレノアもとても楽しそうであった。


 ........今度からもう少しこの世界の歴史についても知ってみるか。


 ひとつ趣味が増えそうだ。

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