探索一日目終了


 遺跡で初めて見た魔物。


 その姿はパキケファロルスのものかと思われたが、デモット曰く、違うらしい。


 確かによく見ると俺達のよく知るパキケファロルスとは胴体が大きく異なる。


 北の魔境でよく見たアロルスの子供と同じような体をしているのがわかった。


 では、そういう個体なのか?


 魔物の進化は人類の想像を超えている。


 俺はまだ見た事がないが、砂漠地帯にいるゴブリンなんかは肌が茶色になっていたりするらしい。


 魔物の進化は無限大。その場所に適応した進化を遂げ、我々人類では想像もできないほどに大きな存在へと成り代わる。


 が、デモットはこれも否定した。


 パキケファロルスの頭をアロルスの胴体。そのつなぎ目には明らかに1度切り離された跡が存在し、肉の性質もかなり違っていることから進化した可能性は低いと言っているのだ。


 つまり、パキケファロルスの頭とアロルスの胴体を切り離して強引にくっつけた。


 そういうことなのだろう。


「........仮にデモットの推測が正しかったとして、それは可能なのか?」

「分かりません。俺もこんなのを見たのは初めてですし、進化の可能性は捨てきれませんが、進化しているなら頭と胴体の肉体がここまで異なることは無いかと。もしかしたら、この遺跡の文明は死んだ魔物を繋ぎ合わせて別の魔物に変化させることができるのかもそれません」

「何それすげぇ」


 現代の地球でもお目にかかれない技術を持ったやつが、かつてこの遺跡に存在していたかもしれないってことだろ?


 ロマンあるなぁ。もしそんな奴がいたのなら、是非とも会ってみたいものだ。


「既に死体となっている........アンデッドと同種と考えていいのかしらね?」

「いや、アンデッドにしては死体が新鮮すぎる。アンデッドの定義がどんなものかを知らないからなんとも言えないが、少なくともアンデッドらしい見た目の印象は受けないぞ」

「確かに肉が腐ったりとかしてなさそうだものね。パッと見かなり新鮮な肉に見えるわ。ちょっと食べたいとは思わないけど........お腹壊しそうだし」


 俺も食べたくない。


 1度死んで蘇生された可能性のある魔物の肉はさすがに食えんな。ちょっと怖いよ。


 呪われそうだし、お腹壊しそう。


「ジーク、経験値獲得はどうかしら?」

「一体だけじゃなんとも。獲得できているのか、そもそも獲得できていないのかもさっぱりだ」

「そう。アンデッドなら、獲得できるかどうかで人の手によって作られたのか自然発生なのかが分かるのにね」


 魔物を殺し、1度自分の手でアンデッドとして蘇生してもう一度殺したら経験値二倍じゃね?


 そう思った次期が俺にもあった。師匠の家でアンデッドに関する魔術実験をしていた時に思いついた事であり、もしそれが出来たら経験値二倍や!!と世紀の発見をしたのかと思ったのだが、世界はそういうズル技に対して何らかの対策をしている。


 結果から言えば、人の手または、何らかの外部からの介入によって生まれたアンデッドは経験値を持たないという事だ。


 アンデッドは人の手が入らなかった場合、その怨念や残った魔力に反応して自然とアンデッドとして蘇生する(例外もある)。


 これは経験値の獲得が可能だ。自然発生した、世界の理なのだから。


 しかし、そこに人の手を介入させて無理やりアンデッドを作り出した場合は、経験値が獲得できない。


 人の手によって作られた。つまり、世界の理から外れて生成された生命(死体)なので、経験値が付与されないのである。


 つまり、骨を集めてアンデッドを作って壊して作って壊してでは、レベリングができないのだ。


 こういう抜け道への対策が徹底されているから、俺は殺した魔物をアンデッドにしようとか欠片も思わないのである。


 くそう。天才的な発見だ!!と当時は喜んだのに........


「そもそもアンデッドに定義されるかもかなり怪しいよな。イメージだけで言えば、アンデッドって臭い汚いのイメージだし」

「魔物の分類はけっこう適当なこともあるものね。流石に一体だけのサンプルではどうしようもないわ」


 俺達がこの魔物はアンデッドに属するのか。という議論をしている間もデモットは興味深そうに魔物をあれこれ調べる。


 デモットを連れてきて良かった。


 俺とエレノアだけだったら、絶対こんなの気づかずにそこら辺に投げ捨ててたよ。


「うーん........一応持って帰りまりょう。魔物に詳しい悪魔もいるので、その人の意見も聞いてみたいです。お願いできますか?」

「分かった。この遺跡の謎を解明する上でもかなり重要そうな手がかりだしな」

「これで実はただの進化でしたなんてオチだったら笑えるわね」

「それはそれでいいじゃないか。パキケファロルスに似た魔物が存在した事実が楽しいんだからさ」

「それもそうね」


 こうして、死体は一旦持ち帰ることが決定した。


 後日デモットや魔物に詳しい悪魔たちによる調査が行われることだろう。


 俺は影の中に魔物を収納すると、さらに奥へと向かって歩いていく。


 もう一、二体サンプルが欲しいな。そうしたら、多少なりともなにか分かりそうだけど。


 俺はそう思いながら、謎が深まるこの遺跡を楽しく思うのであった。




【ドクダゾ】

 魔界に生えている毒草。薬草の時点ではそこまで毒性は強くないが、煮詰めて絞り出すと強力な毒となる。

 毒に耐性がない魔物は大抵かすっただけで死ねるレベルなのだが、乾燥してしまうと毒性が失われる。ちょっと使いづらい毒。




 しばらく地下三階層を歩いたが、結局これ以上めぼしいものを発見することは無かった。


 パキケファロルスの亜種が三体ほど追加で出てきたので、俺はできる限り傷つけずに三匹を確保。


 これでこの魔物に対する研究がしやすくなるだろう。


 デモットも喜んでいたしな。


「お、地下四階層へと続く道みっけ。今回は闇狼くん達の手を借りずに来れたな」

「あの魔物を探し回っていたものね。結果としてかなり歩いてきてしまったわ」

「すいません。俺がもう少し数が欲しいと言ったばかりに........」


 ちょっと申し訳なさそうにするデモット。しかし、デモットに非がある訳では無い。


 俺もエレノアもこの新種の魔物の正体が知りたいし、デモットの為に集めていたのだ。


 後、デモットがこうしておねだりするのは中々無いので、可愛くてついつい探してしまう。


 やはり俺もエレノアも弟子のことが好きすぎる。師匠の悪いた頃だけを見習っている気もしなくも無いが、弟子が好きなのは別に悪いことではない。


 今度からもう少し師匠に優しくしてあげようかな。


 そんなことを思いながら、俺とエレノアはデモットの頭を撫でてやる。


「んな事はない。俺達もこの魔物の正体が知りたいしな」

「期待しているわよデモット」

「は、はい!!頑張ります!!」

「んじゃ、一旦帰ろう。そろそろ日が暮れる時間だろうし、流石に遺跡の中で寝泊まりは気分が悪いからな」

「ベッド........とまでは行かなくとも、寝心地は悪いわよね。まだ土の上の方がいいわ。硬い石の上で寝るのはかなり体が痛くなるよの」


 三階層まで潜ってきた俺達だが、時間的にそろそろ日が暮れる。


 保管した魔物の死体を解析する時間もいるし、丸1日地下に潜っていては健康に悪いだろう。


 タダでさえ、毎日のようにダンジョンに潜っていたのだ。今日だって、リポップ時間になったら爆速で吹っ飛ばしてきてたからな。


「明日はここからスタートだ。朝早くから行くから、夜更かししないようにな」

「「はーい」」


 こうして、遺跡探索一日目が終了する。


 結構楽しかったな。明日も楽しみだ。





 後書き。

 新作を上げました。タイトルは『異世界ローグ〜異世界転移したらローグライクができるそうなので、上振れ理論値を出して気持ちよくなりたい〜』です。

 よかったら読んでね‼︎

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