不可解な魔物
探知阻害結界の中へと入り込んだ俺達は、またしてもトラップの嵐に見舞われていた。
特に多いのが矢のトラップ。とにかく矢を滅茶苦茶飛ばしてきて、殺意マシマシの毒矢(元)を放ってくる。
もちろん、この程度のトラップで俺達が傷つくことは無い。
俺達に傷をつけたければ、師匠クラスの一撃を放てるトラップを用意すんだな!!
なお、このトラップに襲われすぎて、何となくトラップがありそうな場所が分かるようになってきた。
よく見ると不自然な壁があるのだ。そして、大抵そういう時は矢が飛んでくる。
「........(ほい!!)」
「おー!!天魔くんちゃん流石!!」
「ふふっ、全部の矢を掴んでドヤ顔する天魔くんちゃんは可愛いわね」
「トラップがいつの間にか遊び場になってる........」
ただトラップを起動させて、矢が通りすぎる景色を見ていてもつまらない。
どうせならちょっと遊ぼうということで、俺達は矢のトラップを見つける度に変なゲームをしていた。
一本も矢に当たることなく避けるとか、全部掴むとか、全部切り落とす(又はたたき落とす)とか。
気がつけば、侵入者を排除するために作られたであろうトラップは俺達の遊び場となっていた。
まさかこのトラップを作った奴も、こんなふうに遊ばれるとは思ってなかっただろう。
だが、これだけ遅い矢を放ってくる方が悪い。やるなら反応できないレベルの速度で放ってこなきゃ。
この中ではいちばん弱いデモットですら、ノリノリで矢を避けたり掴んだりできるからね。
呆れてはいるが、デモットも俺達のノリについていけるのである。
悪魔くんのノリについていけるデモットだ。その気になれば、ダンスだって披露してくれる。
「矢のトラップは楽しいな。一番つまらんのは、床から串刺しにしてくるやつか。あれ、踏み潰すだけで楽しくないんだよなぁ」
「掴むとかできないものね。確かにつまらないわ」
「いや、そもそもトラップで遊ぼうとしないでくださいよ。危ないじゃないですか」
「そういう癖して、デモットも楽しんでただろう?ノリノリで矢を避けてたじゃないか」
「だ、だってあの矢、滅茶苦茶遅かったですし........」
左上を向きながら、人差し指を合わせてモジモジとするデモット。
これがそこら辺の野郎なら吐き気を催す光景だが、デモットがやると何故か可愛く見えてしまう。
弟子バカもここまで来ると重症だな。何をやってもデモットが可愛く見えるぞ。
俺は俺が思っている以上に弟子のことが好きすぎると思いつつ、照れるデモットの頭を撫でる。
俺達の初めての弟子。こんな師として足りない部分しかない俺達の後ろを着いてきてくれるデモットは、かけがえのない存在なのだ。
そんなほんわかとした空気を味わっていたその時、ドヤ顔で矢を掴んでいた天魔くんちゃんが真面目モードに戻って俺に話しかけてくる。
「........(主人、闇狼くんが生物を発見したって。恐らく魔物らしいよ)」
「お?遂に魔物が出てくるのか?楽しみだな。どんな魔物なのか」
「ここに来て魔物のおでましね。こんな遺跡の中に眠る魔物はどんな姿なのかしら?」
「おぉ!!楽しみですね!!」
ついに魔物を発見したということで、俺達は天魔くんちゃんの案内の元その魔物がいる場所へと向かう。
この遺跡の中にいる魔物がどんな姿をしているのだろうか?
外の魔物と同じく恐竜の見た目だとちょっと萎えるなーなんて思いながら、道を歩いていくと生物の気配を察知する。
この道の先にいる。感じたことの無い気配だ。
「居るわね。私がやってもいいかしら?」
「んー、ダメかな。エレノア、こういう時に加減を知らないから遺跡そのものをぶっ飛ばしそうで怖い」
「........そ、そんなことないわよ?」
「ちゃんと目を合わせて言おうね。自信が無いんだろ........」
私がやると立候補したエレノアだが、エレノアはこういう時の加減を間違えやすい。
山を吹っ飛ばされて遺跡がダメになっても困るので、ここは大人しくしてもらうことにした。
まぁ、自覚しているだけマシか。昔なら平然とした顔で“そんなことは無い”と否定していたし、これもまたひとつの成長か?
俺はそう思いながら、1歩前に出る。
デモットに任せてもいいのだが、初見の敵の可能性が高い。念の為、俺が対処するべきだろう。
静かに待っていると、感じていた気配が一気に動き出す。
速い。それも凄まじく。
この速度で突っ込んで来る魔物はそんなに多くない。北の魔境にいた、アロルスの子供ならこのぐらいの速度が出せそうだが。
「キィィィィ!!」
「パキケファロルス?」
暗闇の底から現れたのは、もう何度見たか覚えてないぐらい見たパキケファロルスであった。
こんなに足の早い個体もいるのか。
攻撃手段が全身を使った頭突きだし、足が早くなれば威力は増す。
それに気がついて走り回っていた個体なのかも。俺はそう思いながら、一瞬で目の前までやってきたパキケファロルスを縦に切り裂いた。
どれだけ早かろうが、所詮は弱い部類の魔物だ。
アダマンタイトの剣の前に為す術なし。ドワーフが作り上げた傑作の一振は、魔界の魔物すらも容易に切り裂く。
ズシャァァァァと、真っ二つに我ながら地面を滑っていくパキケファロルス。
ちょっと期待していただけに、残念だったな。
未知の場所で知っている魔物が出てくるとここまで萎えるとは。
「つまんねぇな。どうせなら全然知らない魔物が出てきて欲しかったよ」
「確かにつまらないわね。まだ矢を相手に遊んでいた方が楽しいわ」
「........」
剣に着いた血を払い、納刀した俺は死体を眺めることすらせずに先に進もうとする。
パキケファロルスの肉は在庫があまり余っているのだ。これ以上肉を取ったら、在庫過多で倉庫が膨れ上がっちゃうよ。
「ちょっと待ってくださいお二人とも。この魔物、なんか変ですよ」
俺もエレノアも若干萎えてしまいながら次へと進もうとすると、デモットが待ったをかける。
デモットがこう言うということは、多分既存のパキケファロルスとはなにか異なる点があるということ。
俺とエレノアは足を止めると、魔物の死体を調べるデモットの傍によった。
「何が変なんだ?」
「これ、頭はパキケファロルスですが、胴体がアロルスのものです。ほら、肌の色とか見た目がかなり違うでしょう?」
........確かに言われてみればよく見たことのあるパキケファロルスの胴体とは違う。
デモットの言う通り、アロルスの胴体と言われた方がしっくり来た。
「遺跡の中で特殊な進化を遂げた魔物ってことか?」
「その可能性はありそうね。ゴブリンも住む地域によっては姿が変わることもあるんだし、特殊な進化を果たした個体なのかもしれないわ」
「........いえ、パキケファロルスから派生した魔物では無いと思います」
遺跡の中で進化を遂げた個体なのかと話していると、デモットが否定してくる。
どういうことなんだ?新たな魔物なのか?
「ここ、首の部分に一度切られたような跡があります。しかも、肉の断面からして別個体の肉ですよこれ」
「........えーと、つまりどういう事だ?」
「分からないわね」
こういう時察しの悪い俺とエレノア。魔物の研究とかまるでしないので、デモットが何を言いたいのかが分からない。
デモットは、少し間を置いたあと、“あくまでも推測でしかありませんが”という前置きを入れてから推測を語った。
「これ、多分頭はパキケファロルス。胴体はアロルスのものです。つまり、頭と胴体を切り離して、繋ぎ合わせたんだと思います」
それは、本来では存在しえない魔物の存在を示唆するものであった。
後書き。
明日、新作を上げる予定です(火曜0時頃)。よかったら読んでね‼︎
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