空き部屋


 遺跡探索系によくあるトラップ、岩が襲ってくるやつを難なく突破した俺達は、遺跡の地下二階へと足を踏み入れた。


 とは言っても、ここはダンジョンではない。


 階層が変わったからと言って景色が変わるようなことはなく、暗い道が続くだけである。


 また殺意の高いトラップが並んでるのかな?トラップの見本市みたいになってきたな。


「........(主人主人)」

「ん?どうした天魔くんちゃん」


 次はどんなトラップが用意されているのだろうか。そんなことを思いながら、先へと進もうとすると、天魔くんちゃんが俺を呼んでくる。


 どうしたんだい?急に甘えたくなったのか?


 いいよ!!天魔くんちゃんは可愛いから、何時でも甘えてきてOKさ!!


「........(狼達が、何かを見つけたって)」

「お、ここに来てようやく何かを見つけたのか。それじゃ、そこに行ってみようぜ」

「そうね。先に何があるのか分からないより道を歩くよりは、その何かがある道を歩いた方が楽しそうね」

「お、遂に手掛かりが見つかりそうですかね?楽しみです」


 先に探索をさせていた闇狼達が、何かを見つけたらしい。


 という事で、俺達はその闇狼が見つけた何かを目標に進んでいくことにした。


 案内役はもちろん天魔くんちゃん。


 俺達と一緒に冒険できるのが嬉しいのか、ずっとテンションが高い。


 天使ちゃんモードでも機嫌が分かりやすいんだよね。歩く時にちょっと跳ねてるから、スキップみたいになってるし。


「何を見つけたと思う?」

「んー、なにかの文字かしら?誰かが壁に言葉を書いたとかありそうじゃない?」

「確かにそれは有り得そうですね。言葉が書かれていたら大発見ですよ。その文から、何があったのかなどが察せますから」

「ものによるだろ。“俺様参上!!”とか書かれてたら意味わからんぞ」

「確かにそうね。それだけじゃ意味不明だわ」


 闇狼君たちが一体何を見つけたのか。俺達はその予想をしながら、先へと歩いていく。


 しばらく歩くと、どうやら目的地に到着したらしい。


 そこには、一枚の扉があった。


 土を固めて作られたであろうその扉。この先はおそらく誰かの部屋だ。


 だが、部屋の先に生命の気配を感じない。ということは、空き部屋だな。


「正解は部屋だったか。正確には空き部屋か?」

「中に生命の反応はないわね。それにしても随分とボロい扉ね。殴っら壊れそうだわ」

「エレノアさんが殴ったら大抵のものは壊れますよ........」


 遺跡に入って最初に見つけた空き部屋。もし、この遺跡に誰か住んでいたら不法侵入だが、その時は素直に謝ろう。


 俺はそう思いながら、ドアノブを掴んでゆっくりと開ける。


 古びた扉はパラパラと砂を落としながら、部屋の中に歓迎してくれた。


「これは........あまりにも質素だな。机と椅子はあるけど、それ以外は殆どない」

「椅子も机も土でできているわね。やはり、この山の中をくり抜いた時の土で作ったのかしら?」

「うーん、これだけじゃまだ何も分からないかもしれないですね........」


 部屋の中は、想像以上に質素な作りであった。


 六畳よりも少し広いぐらいのスペースに用意されていたのは机と椅子、そして元々は部屋を照らしていたであろうランプが壁に立てかけられているのみ。


 デモットが期待していた文字などがあるような雰囲気ではない。なんというか、刑務所という言葉がしっくりくる。


 天井はそこそこ高いが、それでも閉鎖感を感じさせる部屋だ。換気が悪そうだし、体調を崩しそう。


「悪魔が作るような椅子や机かしら?」

「地域によってはって感じですかね。俺も全部知っている訳では無いので、なんとも言えないです」

「これだけで何があったのかを推測するのは難しそうだな」


 俺達はそう言いながら、部屋の中をぐるっと一周する。


 本当に何も無い。もし、ここで生活している奴がいたとしたら、どんな生活をしていたのだろうか?


 食料の確保は外で行っていたのか?あー、解体所とかそういう線もありそうだな。


 ここに住んでいたやつも、好きで地下に血の匂いを散漫させたいとは思わないだろうし。


「んー........ん?ジークさん。これ、机の下にものが入れられるようになってますよ」

「あ、本当だ。普通に見落としてたな。何か入ってそうか?」


 デモットが机が引き出しになってくることに気がつき、引き出しを開ける。


 俺とエレノアは横からそれを除きこんだ。


 興味あるからね。もしかしたら、この場所がどんな場所だったのか分かるのかもしれないし。


「これは、ペンですかね?ものが書けそうな感じですけど........」

「まぁ、形状からしてそうだろうな。お、これは紙........と言うよりも土の板だな。どうやらこの遺跡に住んでいたやつは、土の板を削って言葉を書いていたようだ」

「随分と原始的ね。それで、なんて書いてあるの?」


 引き出しを開けると、そこにはペンと思わしき物と、何やら文字が書いてある土の板を発見する。


 古代の人々が使っていたような、削ってものを書くタイプの文明か。


 人間が存在していた頃には既に紙は開発されていたみたいな話も聞くし、それよりも前の遺産なのかもしれないな。


 そう考えると、実は結構スゴイ場所に今いるのでは?


 人類がこの世界に現れたのは今から約5万近くも前のことだと言われている。


 これは、世界最古の書物に書かれた年代がそれぐらい前のものだったのだとか。もちろん、何度も年号みたいなのが変わっているはずなので正確では無いのだが、5万年ほど前には人類が存在していたと言うのが今の学者の見解らしい。


 どっかのギルドで歴史好きがそんなことを言ってたからね。もちろん、全部間違っている可能性も全然あるけど。


 この歴史が事実だった場合、この建物は5万年以上も前に建てられたものだと考えられる。


 魔界に紙が生まれた時期を知らないので推測の域は出ないが。


 この世界に5万年近く前に実在した誰かの残した文字が、5万年後の未来の人類に読まれようとしているのだ。


 そう考えるとすげーな。5万年前にこの文字を残した人は、そんなことまるで想像しなかっただろう。


「えーと........大分削れているけど読める部分があるな。というか、文字が同じだ」

「それで、なんて書いてあるのかしら?」

「『────。今日も──────だ。────は───だが、─────レ─────。』って書いてある。多分日記か?“今日も”ってことはここにいたやつは昨日もここにいたらしいな」

「板はこれ1枚だけ?」

「いや、何枚かあるが、全部削れてて読めない。かろうじて読めるのがこれだけだ。重要な部分が全部抜け落ちてる」

「でも、これではひとつ前進ですよ!!誰かがかつてここに住んでいて、日記を書いていたというのは大きな進捗です!!少なくとも、あのトラップまみれの道を歩くよりかは意義がありますよ!!」


 それはそう。


 殺意が高いトラップの相手をするよりは楽しいし、考察のしがいもある。


 たぶん最初の一文は、その日の日付じゃないのかな?‪✕‬月〇日。今日も〜から始まる文だと思う。


 一応、引き出しに入っていた土の板を全部確認してみたが、結局マトモに読めたのは1番上に乗っていたこの1枚だけ。


 しかし、これらの情報だけでも想像できることは多い。


 かなり昔の文明である可能性が高いこと、彼らも同じ文字を用いていたこと。


 少なくとも、何らかの知能ある生命がここに住んでいたという事。そして日記をつけていたという事。


 この1枚の板だけでも、大きな進展である。


「次は石版集めか?」

「いいわね。もしかしたら、重要な情報が見つかるかもしれないわ」

「冒険っぽくなってきましたね!!」


 なんだか楽しくなってきたな。ワクワクしている自分がいるぜ。

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