ウルは頑固


 デモットが女性悪魔達の中でかなりの優良物件である事が判明し、恋する乙女となってしまったナレちゃんが大人になりつつある姿を見た後。


 俺達はウルに呼ばれてちょっとした手伝いをすることとなっていた。


 この村は、師匠がどっからか見つけてきた魔道具を使って周囲から姿を隠している。


 しかし、周囲から姿を隠しているだけで誰もが簡単に入れてしまうという欠点を抱えていた。


 そのため、村の周囲に本当にちょっとした防壁(木の柵)があったりするのだが、さすがにこれでは意味が無い。


 まぁ、侵入を妨げる目的と言うよりかは、侵入してきた際に音が鳴るようにして気づき易くするというのが目的なんだけどね。


 でも、安全では無いのは間違いない。せめて、小型の魔物たちが入って来れないぐらいの頑丈さは欲しいだろう。


「────というわけで、そろそろこの村にもちゃんとした防壁が欲しくてな。毎回私が対処するだけじゃ心もとないんだ。作って貰えないだろうか?」

「いいよ。この村が潰れたら俺達も困るしね。全力で作ってあげるよ」

「そうね。私達も随分とお世話になっているし、この程度は容易い御用よ」

「助かるよ。私にもそういう技術があればいいのだが、魔術でも能力でもどうしようもないからな。常に雨を振らせ続ければ感知もできるが、それでは植物が育たない」


 魔術を教えてあげたことにより、悪魔の村の生活は一変した。


 丸1日かけてやっていた仕事が午前中などに終わるため、多くの悪魔達が自分たちの時間を使えるようになったのだ。


 今までは生活だけのために生きてきたが、多少の娯楽も味わえるようになると今度は外敵からの恐怖に怯えることになる。


 この村はようやく原始的な生活から脱却しようとしているのだ。


「その、これは我儘なのだが、出来れば壊れたあとも修復しやすいものにして欲しい。今村に居るもの達でも直せるようにな。いつの日か、君達はここを離れて次なる冒険に行くのだろう?その時、城壁を直せないなんてことになったら困るからな」

「分かったよ。できる限り簡単な魔術で作れる防壁を作ってみるさ。それと、何人かの悪魔に教えてあげたいから、そっちで選んでくれると嬉しいかも」

「分かった。明日には選んでおこう。この村もようやく周囲の防衛に気を配れるようになったと思うと、嬉しいな」


 ウルはそう言うと、静かに笑う。


 目隠しをしているため表情が少し分かりにくいのだが、口元は結構表情が豊かだ。ウルの機嫌を見たければ、口元を見るといいと学んだ俺達は今日は機嫌が良さそうで何よりだとほっこりする。


 偶にマジで機嫌が悪い日とかあるんだよな。で、ガレンさんにこっそり理由を聞くと師匠が連絡に出てくれなかった事で怒っているんだとか。


 もう連れていくって。転移で会いに行こうよ。


 俺達に何かを望んでいるのは知っている。そして、それが終わるまでは会いに行かないと言うのも知っている。


 でも、俺達は結構ゆっくりと攻略をしているから気まづいんだよ。これじゃ、人の恋路を邪魔する悪役じゃん。


 しかし、本人は“気にするな”と言って決して師匠に会いに行こうとしない。


 もう面倒臭いよー!!サッサと師匠のところに行って、お袋と一緒に可愛がられてくれ。


 人類大陸が怖いのか?大丈夫、お袋が全部癒してくれるって。


 あの師匠すらも手懐けたお袋ならなんとでもしてくれるって。だからもう会いに行こう?毎回師匠絡みで機嫌を悪くされると、俺たちの責任みたいになるんだよー!!


 と、そんな心の叫びはウルには届かない。


 ウルって結構頑固なところがあるよな。約束事は絶対に守ると言う意思を感じる。


「今まではウルやガレンさんが対応していたんだっけ?」

「そうだ。最近はここら一帯が私達のナワバリだと魔物たちも理解して入り込むことは少なくなったが、昔は酷かったぞ。一日に大体四、五回は魔物がやってきて村を破壊して言ったからな。あのバカは“飯が自分からやってきた!!”と喜んでいたが、そもそもお前は骸骨で飯なんざ食えねぇだろと何度思ったことか........」

「それで折角使った畑が荒らされたりしたら最悪ね。私ならここにいる魔物を絶滅させてしまいそうだわ」

「それも考えたが、絶滅をさせても新たな魔物達がやってくる。それが強大な魔物だった場合、更に私達の仕事が増えると思ってな。上手く生態系に入り込めるように頑張ったんだ。結果としてら今の平和がある。が、まぁ、何事にも例外はあるということだ」


 ウルはそう言うと、結界の中に入り込んできた小型の魔物(パキケファロルス)に向かってデコピンをする。


 指すら当たってないデコピンだが、ウルの場合は当てずとも問題ない。


 何故ならば、空気を弾いて弾丸にしているからだ。


 やっている事はほぼ魔術。デコピンってすげー。


 デコピンによって放たれた風の弾丸が、魔物の心臓部に突き刺さり相手は即死する。


 不可視の一撃。魔力すら纏ってないから、肌の感覚と直感だけで避けなきゃいけないとか言うクソゲーでなのだ。


「こんな風に即座に対処出来ればいいが、時には私達が外に出かけた時に出てくる魔物もいる。ガレンと共に村を出た時に襲われたことがあったが、あれは酷かったな」

「そんなこともあったんだ」

「あぁ、川の汚染が酷くてな。その原因を探るために私達が出たんだ。結果としては近くに毒草が生えていた原因だったのだが、それどころじゃなかったよ。幸い、非常時に逃げ込む場所を作っていたから被害者は出なかったが、村は滅茶苦茶だったな。残った家も数少なく畑も全部ダメになってしまった」


 へぇ。そんなことがあったんだ。


 と言うか、川の汚染ってヤバくないか?毒草が原因なら、取り除いてもまた生えてきそうなものだけど。


「川は大丈夫なの?それ」

「手遅れになる前に何とか手を打ったから問題ない。その手に詳しいやつ曰く、毒草の種を何らかの方法で食したか体に付着してしまった魔物が、川で水を飲んで種が落ちてしまったことが原因らしい。だから、今生えている毒草を取り除き根までもやし着くせば落ち着くはずだと言っていた。実際、その通りにしたら問題なかったわけだしな」


 あぁ。あれか。鳥が種を食べて糞をしたらそこに木が生えたみたいなやつか。


 本来ではありえない場所に、知らない草とか生えている時とかあるもんな。この世界でもそういう事が起こりうるのか。


 という事は、犯人はプテラドンかな?遠くを移動できる魔物ってそれ以外に思いつかないし。


「大変なのね。村長も」

「戦争の頃に比べればマシだが、それでも大変だな。ここにいる全員の命を預かっているんだ。私の判断ミスひとつで全員を殺しかねないと思うと、何かを選択する時は慎重になってしまう。あいつが残した数少ないの物の一つだ。絶対に壊してはならないんだよ」


 ウルはそう言うと、少し口角を上げる。


 本当にこの人は師匠のことが好きなんだな。こんな面倒な役を押し付けられ、当の本人は一足先に家に帰ったというのに。


 やっぱり今すぐにでも連れていくべきなのでは?でも、怒られそうだしなぁ。


「........2年以内には王を倒すよ。絶対に」

「ハッハッハ!!私にそんな気を使わなくともいい。君たちに死なれた方が悲しいからな。多分あれだぞ。君達が死んだら、ノアが怒り狂って再び戦争を始めるぞ?しかも、今度はもっとえげつない手を使ってな。場合によっては、この村も飲み込まれる」

「それは怖いや。安全第一で頑張るよ」

「そうしてくれたまへ。どうせ私もまだまだ先は長いんだ。ゆっくりでいいんだよゆっくりで」


 ウルはそう言うと、笑いながら俺とエレノアの頭を優しく撫でるのであった。


 心做しか、肉が付いていないにも関わらず温かみのある手と同じ感触がしたのは気の所為だろう。

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