ストォォォォォップ‼︎


 観光するにも金がいる。


 という訳で、俺達は有り余っている肉を換金してくれそうな場所を探していた。


 肉の出処を聞かず、それでいてそこそこの支払いをしてくれそうな場所。


 俺達の正体にも疑問を持たないやつが好ましい。


 とは言えど、そんな都合のいい場所が簡単に見つかれば苦労は無い。


 デモットと言う最強の先生を連れていたとしても、こればかりはどうしようもなかった。


「後ろめたい事を請け負ってくれる奴は、大抵こういう場所に住んでいると思うんだが........どうなんだろうな?」

「人間ならそうでしょうけど、悪魔となると分からないわね。私達は別に悪魔について詳しい訳じゃないんだし」

「正直、俺も分からないですね。ですが、少なくとも大通りよりは見つかり易いと思いますよ」


 ここは悪魔の街の中心地から離れた、スラム街にも似たような場所。


 ちょっとガラの悪さが出ているこの場所は、治安の悪さを感じる。


 別に襲われたとかそういう訳では無いのだが、雰囲気がワルって感じだからね。これでもいい人達しか住んでなかったらごめんなさい。


「最悪、絡んできたやつかは巻き上げるか?どうせ最後は滅ぼすんだし」

「それは本当の最終手段ね。できる限り面倒ごとは避けるべきよ」


 本当にどうしようも無くなったら、ちょっと鴨っぽい雰囲気を出して絡まれに行くか。


 絡まれれば、正当防衛になるし金だって巻き上げられる。ガッツリ犯罪行為だろうが、ここは悪魔の町であり俺たちからすれば魔物の巣窟だ。


 魔物のルールなんで知ったこっちゃないと言うのが持論である。


 敵は敵。それ以上でも以下でもない。


 最終的に全部滅ぼすしな。中には仲良くなれたはずの悪魔もいるだろうが、それは魔物にも言えること。


 そこまで気にし始めたら、冒険者なんてやってられない。


 言葉を話せるというのは、一種の防衛策だよな。話が通じると分かるだけで人は急に生物を殺すことを意識する。


 そこら辺のアリを殺す事と人間を殺す事。どちらも世界から見れば生物を殺しているだけに過ぎないというのに、人は何故か後者を悪と感じる。


 なんて不便な生き物なんだ。だが、その本能に刻まれた感情が人を強くしている。


 一長一短。生物の進化は、摩訶不思議である。


「ぶっちゃけ、どうせ滅ぼすならそこら辺のやつを捕まえて金を巻き上げるのが1番楽ではあるんですけどね。今回のような状況じゃなければ、その案をおすすめするつもりでしたし」

「騒ぎになるんじゃないのか?」

「永住するわけじゃないんですから、死体を隠滅すれば一日二日は騒ぎになりませんよ。その間に観光すればいいじゃないですか」


 ケロッと同族殺しを薦めて来ようとしているデモット。


 やはり、悪魔と人間では価値観が大きく異なるんだろうな。このような状況じゃなければ、デモットは普通に殺人強盗を薦めていたらしい。


 赤の他人に対してはとことん冷たい。それが、悪魔という種族である。


 デモットもまだ悪魔の中では情が深い方なのだろう。なんやかんや子供の面倒を見てくれるような優しいやつだし、強さに固執しないしな。


「価値観の違いって面白いわね。普通に殺して金を奪うやり方はあまり好きに離れないもの。盗賊とかはそもそも人じゃないからなんとも思わないけど」

「まぁ、悪魔を虐殺している時点で今更感はあるけどな。そう考えると、俺達も随分と変な感性を持っているもんだ。レベリングのための殺しは何も感じないのに、金を奪う殺しは若干の抵抗があるだなんて」

「きっと真面目に育ってきたせいね」

「どの口が言ってんだか。結局、必要になれば躊躇わずやるくせに」


 そんなことを話しながら街の中を歩いていると、角から1人の悪魔が飛び出てきてすっ転ぶ。


 すごい綺麗な転び方だ。走っていて角を曲がりきれずに転んでいたが、そこまで綺麗に転ぶかね。


 ズテーン!!と言う効果音が似合いそうなほど綺麗にコケた悪魔は“いてて”と言いながら、散らばった紙を集め始める。


 そして、ここで日本人としての気質が出てしまった俺は、自然とその紙拾いを手伝っていた。


 流石は日本人の心。落し物を拾ってあげるその心は、転生したとしても受け継がれているらしい。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。ありがとうございま........あれ?」


 紙を拾い、そのズッコケた悪魔に紙を渡そうとしたその時、その悪魔はポツリと呟いた。


 今最も聞きたくない、その言葉を。


「悪魔じゃない。あなたと、そこのあなた」


 一瞬、時が止まる。


 油断した。


 こんな丸メガネをし、白衣を着た変な悪魔が俺たちの正体を見抜くとは。


 ここで俺達が人間だとバレれば、どこからか噂が広まるかもしれない。


 俺とエレノアの判断は早かった。


 即座に簡易顕現を発動させた俺達は、確実にこの悪魔を殺すように動き始める。


 俺は手に持っていた紙を再び落とし、この悪魔の頭を。エレノアはその両手に炎を宿して胴体を灰にしようとする。


 口を封じろ。ここで俺たちの正体がバレるのは不味い。


 後、数cmで手が届く。


「ちょ、ストォォォォプ!!待ってください!!お二人とも!!」


 確実な口封じを選んだ俺とエレノアだったが、デモットの一声によって俺とエレノアの動きが止まった。


 あとコンマ数秒声を出すのが遅れていたら、この悪魔は俺達に殺されていただろう。


 当の本人は三途の川に使っていたというのに頭の上に?マークを浮かべている。


「先程までの会話はなんだったんですか。思いっきり殺そうとしてるじゃないですか」

「こいつは俺達が悪魔じゃない事に気が付いた。下手に騒がれる前に殺すべきだろ?」

「そうよ。まだ依頼されたことも終わってないのにバレるのは面倒だわ」

「はぁ........そうだった。この人達、1度敵と味方の区別をハッキリさせるととことん容赦のない人だった」


 デモットは頭を抱えつつも、俺達に手を下ろすように指示を出す。


 ここで殺すべきかと俺は思うんだが、デモットがそう言うなら攻撃を一旦中断するとしよう。


 悪魔のことについては、デモットの方が圧倒的に詳しいしな。


「大丈夫でしたか?お怪我は?」

「え?あー大丈夫大丈夫」

「それは良かった。所で、失礼ながらこの紙の内容が見えてしまったのですが、なにかご研究を?」


 デモットはそう言うと、ヒラヒラと落ちてお紙を拾い上げる。


 一体なんの話しをしているのかと、俺とエレノアは首を傾げた。


「うん。私は気になったことや思いついたことは調べなきゃ落ち着かない質でね。それで、今は権能を誰でも使える技術に落とし込めないのかっていう研究をしてる」

「それは興味深いですね。例えば........こんな感じですか?」


 デモットはそういうと、闇狼を行使する。


 こいつ、今わざと魔法陣が見えるように魔術を使ったぞ。


「........ん?なにこれ。権能とはまた違った力に見えるけど」

「魔術というものですよ。俺もこの研究には非常に興味があるんです。よろしければ、お話を聞かせていただけませんか?」

「いいよ。1人での研究だけじゃ限界があるからね。誰かに聞いてもらうのも大切さ。所で、その魔術って何?!」

「それは後でお話しましょう。ここは少し、目立ってしまいますので」

「分かった。付いてきて」


 なんか、トントン拍子でこの悪魔の家に行くことになったぞおい。


 デモット、もしかしなくともこの悪魔が権能についての研究をしていると分かってたな?


 権能に似た力である魔術。それをダシにして、この悪魔から情報を抜き取ろうとしてやがる。


「ジークさん、エレノアさん。もし、彼女が少しでも変な真似をすれば始末してください。上手く行けば、色々な情報とお金が手に入るかもしれないですよ」

「お、おう。分かった」

「........デモットって結構えげつないやり方をするのね」


 要はあれだろ?家には確実に金があるから、家を特定したあとで殺すなら殺せという事だろ?


 えっぐいこと考えるなデモットは。


 誰に似たんだこの弟子は。

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