ちょっぴり観光


 ネズミくんを送り出した俺は、一旦暇ということで悪魔の街の観光を始めることにした。


 既に数え切れないほど滅ぼしている悪魔の街をじっくりと眺める機会など無かったので、こうして街の中を歩くだけでも新鮮さがある。


 綺麗に整えられた道に、石造りの家。そして周囲を覆う城壁。


 見れば見るほど、人間の街と何ら変わりない。


 伯爵級悪魔の街ともなれば、かなりの文明を感じる。


 おそらく、他の街との交流がないから発展しない街はとことん発展しないんだろうな。


 文明の進歩は、新たな文化が入ってきた時に起こる。


 江戸時代から明治に変わった時も西洋の文化が入ってきて変わったし、なにか新しい革新的なものがなければ停滞したままになるのだろう。


 他の街に行ったら、また違う姿の街が見られるかもしれない。


 そう思うと、魔界は観光地が多いな。人間の街の場合は、国によって姿を変えるが魔界の場合は街によって姿を変えるのだから。


「屋台みたいなのもあるな。何を売ってるんだろう?」

「んー、あれはパキケファロルスの串焼きですかね?多分、ジークさんが作ってくれる串焼きの方が美味しいですよ」

「それは当たり前よ。ジークの料理は世界一なんだから。でも、ちょっと気になるわよね。あの村の食事はウルがいた為かかなり人間が作る料理に近かったし」

「師匠からアレコレ聞いたって言ってたな。師匠、骸骨のくせに料理が滅茶苦茶上手なんだよ。俺たちが修行していた頃も、普通に宮廷料理とか作ってたからな」

「自分は食べられないのに、私たちのために作ってくれるなんて優しい師匠だったわよね。何故か素直に喜べなかったけど........」


 俺も素直に喜べなかったな。優しさを見せても、普段の言動が酷いと感謝の気持ちが薄れてしまう。


 日頃から優しい人なら、心の底から感謝を言えるというのに........


 師匠、骸骨になる前からあんな性格だろうから、結構もったいないことをしているよな。


 そりゃ、あれだけ美人でも結婚の話とか来ないわけだ。最初の頃は来ていただろうが、師匠の性格が顕になっていく内に“あいつはやべぇ”となっていたに違いない。


 そんな師匠の過去を想像しつつ、俺はどうやったらあの串焼きが買えるのか悩んでいた。


 困った。悪魔の街のルールを知らないから、もの一つを買うことすら出来ない。


 そんな時は、助けてデモット。


 我らが生きる辞書に聞けば、あっという間に解決である。


 チラッとデモットを見ると、質問してくるのを心待ちにしているしな。


“早く聞いて!!”と言わんばかりに、スタンばってる。お前、本当に可愛いな。


「デモット、あの串焼きはどうやったら買えるんだ?」

「悪魔の街での買い物は幾つかの方法があります。一つは、物々交換。これは、小さな街........大体男爵級悪魔以下の街でよく見られる方法ですね。相手が納得するものを提示して、物同士を交換するんです。村でも似たような感じでしたよね」

「原始的だなとは思ってたけど、小さなコミュニティの中なら態々金を作る意味もないからな。魔界だと他の街に旅行に行くとかないだろうし、共通の通貨を作る意味が無い」

「そう言われるとたしかにそうね。お金を作る資源があるなら、その資源を別のものに回すわ」


 古来より使われてきた売買の方法、物々交換。昔は肉と野菜を交換したり、米が金の代わりになったりとしていたのだ。


 人間とは違った文明を築く悪魔の街では、物々交換の方が都合が良かったりするのだろう。


「他には?」

「他には、その街で発行されている引換券のようなものを使うということですかね。これはお金とほぼ同じです。俺が住んでいた街は男爵級悪魔の街でしたがこっちを採用してました。住民のトラブルが少ないですからね」

「物々交換だと、お互いが納得できる物の物量ってのが違うからな。金の方が楽と言えば楽か」

「人によって値段も変えられてしまうし、トラブルの元にはなりやすいわね」

「ただし、基本的にはその街でしか使えないお金です。おじいさんの話では、街によってお金の形や種類が違うので、別の街では使えないそうです」


 へぇ。やっぱり、悪魔の街は1つの国として考えた方が良さそうだな。


 人類大陸も、国が変わると使えなくなるお金がある。銀貨まではどこの国が発行してようが関係ないが、金貨以上になると大帝国と大王国と大皇国が発行する金貨以外は他の国では価値が変わっちまうからな。


 この三大国は他の小国たちと違って信頼がある。だから、他の国でも使えるのだ。


 ちなみに、世界各地で依頼を受けてきた俺たちの場合はあまり気にしてなかったりする。


 もう使い切れないぐらいの金はあるしな。昔は旅の資金として色々と考えていたが、今となっては金はおまけ程度にしか考えていない。


 あれだ。ゲームをやりすぎてゲーム内マネーが余りまくっている感じだ。


 ゲームにもよるが、あるあるだよね。最初は全く足らなかったゲーム内マネーが途中からアホみたいに余る現象。


 大抵のソシャゲは、馬鹿みたいに金が余るか、馬鹿みたいに金が足らないかのどちらかである。


 理性36使って1万とか舐めてんのか。キャラ一体育てるのに100万以上金が吹っ飛ぶんだぞ。


 とまぁらそんな訳で、装備更新とかほぼしない俺たちはもう金を気にしないほどに金がある。


 そういえば、まだオリハルコン残ってんだけどいつ使おう。


「この街の場合は、後者のようだな。なんかお金っぽいの払ってるし」

「あれは魔物の骨から作られたお金ですね。魔物の骨はものによっては鉄よりも頑丈ですから、狩などで手に入る骨は意外と使い道が多いんですよ」

「偽装できてしまいそうね」

「そんなことをする人はいませんよ。お金を偽装したことがバレれば、あっという間に死刑ですから。人類大陸では分かりませんが、悪魔の街でしか使われないお金を偽装したとしても得られるメリットはとても少ないんです。バレやすいですし。今まで羽振りが悪かった人が、急にお金を使い始めたら怪しまれるでしょう?」

「いや、そこはバレない程度に使えよ........とは言っても、労力には見合わないだろうな」

「そういう事です。無駄な時間を過ごすぐらいなら、魔物を一匹でも飼ったほうがマシですよ」


 頑張って金を作る暇があるなら、強くなって稼げという訳だ。


 人類大陸でも言えることなんだがな........なぜ人は楽に見える道に進もうとするのやら。


 貨幣の偽装だってかなりの労力だろうに。


「それで、デモット。一体どうやったら私達はお金を手にすることが出来るのかしら?」

「基本的には、どこかの店に売りに行くのが簡単ですが、この狭いコミュニティの中だと大抵の人たちは顔見知りです。新参者は足元を見られますし、何より目立ちます。こういう時は、少し安くなろうとも客を選ばない買取をしてくれる店を選ぶべきでしょう」

「人の........悪魔の流れがないからな。見ない顔ってだけで目立つのか」

「はい。したがって、俺達はこの大通りに店を構えるようなところではなく、もっと薄暗い誰の目にも届かないような場所に行かなくてはなりません。先ずは、換金出来る店を見つけるところからですね」


 観光するにも金はいる。そしてその金を手に入れるためには、まずよそ者にも金を出してくれるような店を探さなくてはならない。


 結構面倒だな。悪魔の街の観光は。


 人間の街なら、銀貨握りしめていればそれなりに楽しめるというのに。


 海外に来た気分だ。海外、行ったことないからよく知らんけど。


 こうして俺達は、悪魔の街を楽しむために先ずはお金を調達するところから始めるのであった。

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