伯爵級悪魔領
ロザリーから妹の特徴や、監禁されていそうな場所などを聞き出した俺達は早速目的地へと向かった。
悪魔が全力で飛ぶよりも、黒鳥ちゃんが空間圧縮を用いて本気で飛んだ方が圧倒的に早い。
わずか数時間で伯爵級悪魔が治める街の上空へとやってきた俺達は、その大きな街を見下ろしていた。
「本当に伯爵級悪魔の街ともなると、他とは比べ物にならない規模になるんだな。人間の街と何ら遜色がない」
「子爵級以下の街は人間の街で言えば村だものね。ここからがようやく街と言った感じだわ」
「おー、やっぱり伯爵級悪魔の街は大きいですね。昔何度か街を見かけたことがありますが、俺が住んでいた街とは比べ物にならないですよ」
伯爵級悪魔の街は、人間の街と何ら変わらないほどに立派なものであった。
男爵級悪魔の街などは、正直街と呼べたものではないほどみすぼらしく、街を守る城壁すらもロクに建設させれないような街であったが、ここは違う。
石でできた城壁が街を囲み、それなりに大きな街として君臨している。
大きさだけで言えば、多分俺の故郷と同じぐらいの大きさだ。人間の街で言えばそこまで立派な街とは言えない田舎町だが、この魔界基準で言えば都会と言えるだろう。
「城壁の中だけじゃ生活できないのか、外に畑みたいなのもあるな。農業の文化があるのか?」
「中には畜産のような施設もあるわね。子爵級以下の街は原始的な生活が目立っていたけど、ここに来て一気に文明的な街になっているわ。面白いわね。悪魔の街は」
「こうして他種族の文化を見れるのも旅の醍醐味だよな。さて、それじゃ潜入してみるとしよう。第1目標はロザリーの妹カーリーさんの救出。先に救出を済ませて村に送り届けてから、街の観光をしてみるか」
「そうね。悪魔王の伝統を守っていたとしても、怖い思いをしていることに違いはないわ。できる限り目立たず、そして迅速に動きましょう。この移動の間に、見た目だけは帰られるようになったのだしね」
エレノアはそう言うと、パチンと指を鳴らして幻術を行使。
悪魔の象徴とも言える二本の角と尻尾が生え、悪魔らしい姿へと形を変えた。
うーん。可愛い。
エレノアはクール系の美人なのだが、角と尻尾を生やすと一気に小悪魔的な可愛さが出てくる。
その燃え盛る炎に目を瞑れば、両手を叩いて褒めたいぐらいには可愛かった。
道中で襲ってきたプテラドン君の群れが灰になってなければ、“悪魔が本物の悪魔になっちまった”とか思わ無かったんだがなぁ........
俺はそう思いつつ、自分も変装の為に魔術を行使する。
二本の角と尻尾。デモット曰く、とりあえずこれさえあれば即バレすることは無いらしい。
気配で違いが分かる者もいるが、少なくとも普通の悪魔は騙せるはずだ。
「ふふっ、ふふふ........ジーク可愛い。とっても可愛いわ」
「おいエレノア。今から降りるんだから抱きつくな。そんなに可愛いもんでもないだろ。角と尻尾が生えただけだぞ?」
「いいえ。これだけで随分と違うのよ。そうでしょう?デモット」
「え、あ、はい。ソウデスネ。ジークサンメチャクチャカワイイデス」
「ほら、デモットもジークを賞賛しているわ。かっこいいジークもいいけど、やっぱり可愛いジークも最高なのよ!!」
悪魔の姿となった俺が余程気に入ったのか、即座に俺の後ろに回り込んでは抱きつくエレノア。
角と尻尾が生えただけでそこまで可愛くなるか?エレノアも印象は少し変わったが、ここまで喜ぶものなのか?
それと、デモットに圧をかけて無理やり言わせてるだろ。
滅茶苦茶棒読みだったぞ今のセリフ。言葉が全部カタカナだった気がするぞ今の。
おい、デモット、俺の目を見てもう一度同じことを言ってみろ。言えるものならなぁ!!
角と尻尾を生やしただけでテンションが爆上がりしているエレノアを何とか落ち着かせ(どうせ止めても無駄なので、満足するまでなされるがまま)ると、俺達は下に広がる街を見下ろす。
「さて、それじゃ行くとするか。伯爵級悪魔の街。目標は妹さんの救出。んで、後は観光。面白い悪魔がいたりするのかちょっと楽しみだな」
「デモットのような子がいるといいわね。連れて行ってもきっと仲良くできるわ」
「案内は俺がします。初めての街ではありますが、少なくともお二人よりは知識がありますので。後、間違っても暴れないでくださいよ。目をつけられると面倒になりますから」
「分かってるって。観光したいし、暫くは大人しくしてるさ」
「そうね。飽きたら滅ぼすわ」
「はぁ........ちょっと不安だ........」
こうして、俺達は黒鳥ちゃんから飛び降りて伯爵級悪魔の街へと潜入を開始した。
空から降ってくる悪魔は流石に目立つので、ちゃんと魔術で自分達を隠しながら。
【伯爵級悪魔の街】
伯爵級悪魔が治める町。伯爵級悪魔以上の悪魔が治める街は、人間の街とそう変わらない。規模は街にもよるが、大体ジークの故郷ほど。
農業や畜産にも手を出しており、子爵級以下の街と比べてかなり文明的な街となっている。
空から街に侵入した俺達は、無事に着地すると素早く身を隠す。
悪魔の街は基本的に人の出入りが少ない。せいぜい狩りをする時に街の外に出る時ぐらいで、よそ者がやっくることは無かった。
と言うか、余所者を受け入れていない。
デモットからも聞いたが、悪魔の一生は基本的に生まれた街で朽ち果てる。
そのため、あまり見ない顔の悪魔がいると侵入したのかと怪しまれるらしい。
最悪の場合、兵士達を呼ばれて拘束され奴隷のように扱われる可能性があるのだ。
当たり前だが、旅人を歓迎する宿などあるわけもない。
暫くはどこかの空き家とかを借りることになりそうだな。
「潜入成功ね。気付かれた様子は無いと思うわ」
「だな。ここからは顔を隠して動くとしよう。フードを被る悪魔は少ないだろうが、それでもゼロってわけじゃないだろうし」
「そうですね。その方がいいと思います」
俺はフードを被り、顔を隠しつつも道の脇から見える悪魔達を眺めた。
家は割と普通な家。人間が建てている家とそう変わりはなく、これだけを見たらここは人間の街ですよと言われても信じてしまうほど。
しかし、その横に目を向けらば、多くの悪魔たちが街の中を歩いていた。
「すごい数の悪魔ですね。これが伯爵級悪魔の街。まさか、生きている間に来れるとは思っていませんでした」
「あまりキョロキョロしすぎるなよデモット。不自然な動きでバレちまうかもしれないからな。まぁ、流石にそこまで注意深く相手を見ているとは思えないけども」
「ふふっ、私達が田舎町から都会に出た時を思い出すわね。大きな街に圧倒されて、田舎感丸出しでさまよっていたわ」
初めての街らしい街にキョロキョロとするデモットを見て、微笑ましそうに笑うエレノア。
そう言えば、俺達も初めて大きな街に訪れた時は田舎感丸出しでキョロキョロしてたな。
特に故郷から飛び出してダンジョンの街レルベンに着いた時なんかは、冒険者と人の多さに驚いたものである。
後は、帝都に行った時とかも結構感動してたかも。
その頃には人混みに慣れていたが、やはり大きな都市にやってきた時はどうしても周囲の景色を見てしまいたいものだ。
「........少し、デモットにこの景色を見させてやるか」
「賛成よ。こういう経験も、修行のひとつだもの」
昔の俺たちを見ている気がした俺は、少しだけデモットにこの景色や感動に浸ってもらおうと声をかけずのんびりとするのであった。
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