事情聴取


 ウルから悪魔の救助を依頼された俺達は翌日、この村に逃げ込んできた悪魔に話を聞くことにした。


 さすがに事前情報も何もなしに悪魔の街に潜入するほど馬鹿ではない。それに、俺とエレノアは人間だ。


 普通に悪魔の街に入るとあまりにも目立ち過ぎるので、姿を変える必要がある。


 師匠に幻術の魔術は教わったし、それを色々と改良して悪魔に近い姿を得ることもやらないとな。


 そんなことを思つつ、逃げてきた悪魔が寝ている部屋の扉をノックする。


 朝早くの訪問だった為起きてない可能性もあったが、部屋の中から“どうぞ”と返事が返ってきた。


「昨日はありがとうごさ........え?」

「人間を見るのは初めてか?まぁ、そうだろうな。この大陸にやってくる人間なんてほとんど居ないだろうし、有名な人間は骸骨だったし」

「おはよう。いい朝ね」

「おはようございます」


 部屋に入ってきた俺達を見るなり、石像のように固まる悪魔。


 そりゃ、こんな辺鄙な村に人間がいるとは思わないだろう。いや、そもそも、この魔界に人間がいるとは普通思わない。


 何百年生きているのかも分からないウルですら、“骸骨では無い人間は初めて見た”という程だ。


 この大陸にいる人間はおそらく俺達ぐらいである。


「先ずは自己紹介から入ろう。俺はジーク。見てのとおり、人間だ」

「エレノアよ。私はハーフエルフと呼ばれる人間とエルフの混血だけれど、まぁ人間とそう変わりないわ」

「デモットです。俺は普通に悪魔ですよ」

「あ、えと、ロザリーです。よろしくお願いします。私は悪魔です」


 うん。見ればわかる。自分の種族を言う自己紹介は何気に初めてかもな。


 ピンク色のショートヘアに、可愛らしい顔。悪魔の象徴とも言える2本の角と尻尾はもちろんあるが、それ以上に目を引くのがその大きな胸であった。


 デカイ。普通にロザリーを見ているだけで、視線が胸に吸い寄せられてしまう程には大きい。


 しかも、スタイル抜群。そりゃ、あのおっちゃん悪魔が“すげぇ美人”という訳だ。


 若干天然そうな見た目をしているが、刺さる人にはぶっ刺さるだろう。


 残念ながら、俺の心には刺さらないが。


「ジーク........」

「不可抗力だ。それと、正直興味は無い」

「........そう」


 俺の頭の中を覗き見たのか、エレノアが“これだから男は........”と言いたげな表情をする。


 仕方がないだろ。俺だって別に好きで見ているわけじゃない。あと、エレノアもガッツリ見てたよね?


 エレノアは自分の胸があまりない事をちょっと気にしてるからな。俺は気にしてないのだが、こういうのは本人がかなり気にしてしまうものなのである。


 俺の言葉が本心なのを察したのか、エレノアは俺の後ろに回ると抱きついて顎を頭の上に乗せる。


 俺はそんなエレノアの頬を撫でながら、会話を続けた。


 ちなみに、デモットもガッツリ胸は見てた。しょうがないね。男の子だからね。


「ウル村長から大体の話は聞いた。妹さんを助けて欲しいんだって?」

「あ、はい........カーリーが領主様の側近に言い寄られていたのですが、ずっと断っていたのです。暫くは普通に話しかけてきていたのですが、やがて暴力的な手段を取るようになりまして........私は何とかカーリーと街の外に出ようとしたのですが、カーリーは捕まってしまいました」


 妹がとても大事なのか、今にも泣きそうな声で事情を説明してくれるロザリー。


 聞いていた話と大体同じだな。


 しかし、何度聞いてもその側近とやらはクズだな。なぜお前に魅力がないと気づかない。


 妹さんは、単純にお前が嫌いなんだよ。


「クズね。女の敵よ」

「全くだ。野郎の俺ですら無いなと思うよ」

「悪魔は実力主義ですからね。こういう無理やりな方法で伴侶を手に入れるやり方も少なくないですよ。特に、権力を持っていると酷いです。お爺さんの話では、見た目が麗しい悪魔は全員囲いこんだ領主もいるって話ですからね」


 ハーレム悪魔か。俺には理解できないタイプのやつだな。


 日本人としての気質がまだ残る俺にとって、生涯を共にする伴侶は1人だけとえ考えが強く残っている。


 ハーレムものは創作だけで十分だ。と言うか、歳をとるとハーレムものもキツくなってくる。


 一夫多妻制が許されている国とかもあるから全てを否定する訳では無いが、俺は苦手な部類であった。


「理解できないわね。生涯を共にする伴侶は1人で十分じゃない」

「もちろんそう言う悪魔もいますよ。有名な話だと、悪魔王はたった一人の伴侶を愛し続けたという話もありますから。既に故人となってしまった今でも、その人のことだけは忘れず墓参りもする........らしいです」

「へぇ。悪魔王に対する評価がバク上がりだな。それが事実ならという話だけど」

「中々にかっこいいじゃない。ちょっと見直したわ」


 そんな噂が流れるということは、それだけ伴侶を大切にしていたのだろう。


 と言うか、悪魔王は男やもめだったのか。ウルから男とは聞いていたが、嫁さんがいるとは知らなかった。


 ええやん悪魔王。正直あまりいいイメージは無かったのだが、その話だけでかなり好感が持てるぞ。


「話が逸れたな。妹さんを助ける話だったのに」

「カーリーを助けてもらえるのですか?」

「ウルのお願いだからね。それに、俺達に経験もさせたいみたいだし。色々とお世話になってるから、これぐらいのことは断らないよ。でも、俺達はそのカーリーさんのことを何も知らない。だから、こうして見た目の特徴やら伯爵領の特徴を聞きに来た訳さ」

「あ........ありがとうございます!!」


 ポロポロと涙を流しながら、頭を下げるロザリー。その言葉は、妹さんを助け出してから言って欲しいものだ。


 まだ、何も始まってないのだから。


「でも、大丈夫なのかしら?実力行使してきたということは........」

「エレノア。それ以上は言うな。希望はあった方がいい」


 無理矢理にでも伴侶にしたと言うことは、それ即ち既にカーリーの純血は消え去っている可能性があるということ。


 俺もそれは考えたが、口には出さないようにしていた。


 もしかしたら、その側近君が超絶童貞の奥手君かもしれないじゃないか。


 ほら、頑張って自分のものにしたはいいけど、手の出し方が分からず困るみたいなウブな子かもしれないじゃん。


 希望は限りなく低いが、希望がない訳では無い。


 これは、観光する時間はあまりないのかもしれんなぁ。カーリーのことを考えると、時間との勝負になると思う。


「デモット。可能性は有るか?」

「ないとは言いませんが、時間が過ぎるほどに厳しくなるのは間違いありません。ロザリーさん。ここに来るまでに何日かかりましたか?」

「えーと、全力で飛んで大体5日ほどです」

「悪魔の伝統として、夫婦になってから7日間は行為をしないというものがあります。彼が伝統的な悪魔であることを祈るしかなさそうですね」

「そうか........ちなみに、なんで7日間なの?」

「確か、悪魔王と王妃が結ばれてから初夜を迎えたのがその日だからと言われていたはずです。あまたの悪魔たちを従え、絶対的な強者たる彼でも臆するものはあったということですね」


 なんだよ悪魔王可愛いかよ。


 なんか一気に親しみ感じてきたぞ。お前のお陰で、望まない婚約を阻止出来るかもしれないと思うと、実によくやったと言いたくなる。


「意外と奥手だったのかしら?」

「かもしれんな。とにかく、カーリーさんの特徴と場所を聞いたらすぐに飛び立とう。希望はあるぞ」


 こうして、俺達は悪魔の妹救出に向かう為村を出るのであった。






 後書き。

 ロザリー(なんか急に来て、目の前でイチャイチャしてるヤベー奴がきた......)

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