ウルの依頼
この村に逃げ込んだ悪魔が居るということで、少しだけ騒ぎになりつつも俺とエレノアはウルに連れられて家までやってきた。
どうやらデモットの力も必要とされているようで、何やら面倒事の匂いがプンプンと漂ってきている。
とは言っても、余程ぶっ飛んだ内容では無い限りはウルの力になってあげようと思っていた。
俺もエレノアもデモットも、ウルにはものすごくお世話になっているし、この村の悪魔達にもかなり良くしてもらっている。
俺は恩を仇で返すような人間では無いので、余程のことがなければ断るつもりは無い。
流石に人類を滅ぼせとか言われたら断るけども。
俺達は腐っても冒険者。冒険者である以上は、人類の味方であり続けなければならないのだ。
「よし。準備が整ったな。それでは話に入ろう」
紅茶の準備を済ませたウルは、俺達にも紅茶を振る舞いながら席に着く。
俺は軽く頭を下げて頂きますと言う意を示すと、熱々の紅茶を口の中に含んだ。
うーん。美味しい。
流石に紅茶の街で取れる茶葉には劣るが、それでも十分に美味しい紅茶だ。入れる人も上手だからか、余計に美味しさが際立つな。
「それで、話とは何かしら。この村にやってきた悪魔関連の話だと言うのは何となく予想がつくけれども」
「流石はエレノア。察しがいいな。今から君たちに話すのは、その村にやってきた悪魔関連の話だ。しっかりとした報酬が用意できないから、お願いという形になるが断ってくれても構わないと言うのを先に行っておこう」
ウルはそう言って前置きをすると、紅茶を啜る。
そう言えば、師匠は骸骨の癖に紅茶を入れる趣味があったな。もしかしたら、ウルやガレンさんにも振舞っていたりしたのだろうか?
そんなことを思いながら、ウルの言葉を待つ。
「この村は、弱き悪魔や支配から逃れた悪魔達のために作られた村だ。もちろん、全てが救えるとは欠片も思ってないが、少なくとも手の届く範囲の悪魔は助けてやりたいと思っている」
「........」
「時として迷子の悪魔や子供まで保護した。しかし、中には支配から逃れようとしても逃れられない者と言うのもいてな。例えば、大きな権力を持つ悪魔に軟禁されているとかそういう場合だ」
あぁ、何となく話が見えたぞ。
要は、その支配から逃れようとしている悪魔を助けてやって欲しいという話か。
悪魔は実力主義であり、強いやつが権力を握る。そして、その権力者がその気になれば逃げ出せない状況を作ることも出来なくはないだろう。
権能の全てを知っているわけじゃないからなんとも言えないが、中には監禁用の権能を持った悪魔とか居そうだしな。
「今回逃げてきた悪魔には妹がいるらしい。普通の場合、街から離れる悪魔を追う様なことはしないのだが、どうも妹は領主の側近から猛烈なアプローチを受けていたそうだ」
「あー。つまり、自分に魅力がないからって実力行使で自分のものにしようとした訳ね。ダサすぎるわ。そりゃ、嫌がられるわよ」
「どこにでもいるんですよねぇ。そういう輩は。俺も昔街にいた頃、似たような場面を見ましたが、本当にダサいですよあれ。権力を持っているから、逆らえないし誰も止められない。俺もお爺さんに“下手に介入するな”と言われましたよ。男としてもプライドとかないんですかね?風上にも置けないですよ」
「そういう事だ。私から見ても、ソイツはあまりにもダサいな。ダサいというか、悪魔として終わっている。強さだけが全てだと思い込む悪魔は多いし、そういう勘違いも生まれやすいのが悪い所だ。なんで理解しないんだろうな?自分に魅力がないと気づけないものなのだろうか?」
これでもかと言うほどにボロカスに言われる、顔も知らない側近悪魔。
まぁ、確かにダサい。力に頼った求愛ほど、ダサいものもないのだ。
デモットの言う通り、男の風上にも置けないやつだな。
先ずは好かれる努力をしろよ。恋愛初心者だった俺ですら、ちゃんとそこら辺は考えてたぞ。
それとも、努力してもダメだったのか?いや、だとしても力技で自分のものにするのはダメだな。
そんなものは愛では無い。本当に相手を思うなら、身を引くことも覚えろ。
某FPSゲーマーだって言ってた。引くことを覚えろよカスゥ。
「それで、俺達にその妹さんを助けて欲しいと?」
「そういう事だ。昔も何度か似たようなことがあってな。その時はガレンに行かせていたんだが、せっかくの機会だ。この村以外の悪魔の街と言うのを、見てみるのもいいんじゃないかと思ってな。君たちは街を滅ぼすが、観光はしてないんだろう?」
確かに、俺とエレノアは悪魔の街を滅ぼしたりはしてきたが、観光をしたことは1度もない。
そもそも観光するほどのものがある街に行ってない。
準男爵、男爵級悪魔の街は街と言うかほぼ村なのだ。しかも、この村よりもボロくてみすぼらしいところばかり。
そんな田舎村にすら劣るような村で、何を見ればいいと言うのか。
よって、見つけ次第滅ぼす以外の選択肢がないのである。
「彼女達が住んでいた街は、どうやら伯爵級悪魔が領主を務める街らしくてな。伯爵級悪魔の街となると、他の街とは比べ物にならないぐらいに発展しているのだ。人類の街よりも凄いのかどうかは知らないが、少なくとも多少の見応えはあると思うぞ」
「つまり、観光ついでに人助け........もとい、悪魔助けをしてきて欲しいって事かな?」
「まぁ、そんなところだ。ノアにも言われていてな。弟子の見聞を深めるためにも、街の一つや二つぐらいは観光して欲しいと。もしかしたら、面白いものが見られるかもしれないし、悪魔が営む料理を食べる事も出来ると思うぞ。伯爵級悪魔の街からは娯楽に関しても力を入れている場合が多いからな」
そう言えば、伯爵級悪魔の街からは別物みたいなことをデモットも言ってたな。確かにちょっと観光してみたくなってきたかも。
それに、もっと悪魔について知るいい機会だ。この村には変わり者が多く普通の悪魔というのをあまりしっかりと見た事がないしな。
「あ、だから俺が付き添いで行くという訳ですね。案内人として」
「そういう事だ。君は男爵級悪魔の街出身らしいが、それ以上に常識や知識を持っている。案内役に適している人材もそうはいないだろう」
“案内人”という言葉を言ってから、急にデモットの目が輝き始めた。
そうだった。デモットは俺たちの解説役とか案内人であることに誇りとアイデンティティを持っている。
最近は魔術研究ばかりやっていたからその機会がなかったのだが、今になってその役割が回ってきて凄く嬉しそうだ。
うん。こんなに目をキラキラさせて“案内人やります!!”と言いたげな弟子を裏切らないわな。
俺もエレノアも観光自体はしてみたいし、デモットのためにもこのお願いは聞いてあげるとしよう。
正直、デモットが既にやる気満々なウッキウキだからと言うのが一番の理由なのだが。
「分かった。その妹さんを助け出してここに連れてくるよ。それと、仕事が終わったら滅ぼしてもいい?」
「あぁ、構わない。なんなら、変わり者を連れてきてもいいぞ。君達が大丈夫そうだと思った者なら、きっとこの村でもやって行けるだろう。魔術が普及してくれたおかげで、畑を増やせたしお陰で食料も増えた。二十人くらいなら受け入れ可能だぞ。それ以上来られると、畑の拡張とかをしなければならんが」
サラッと街を滅ぼす許可をくれるウル。
なら、観光を終えたら滅ぼそうかな。悪魔達の中にもいいやつはいるし、普通に生きているやつも多くいる。
しかし、俺とエレノアからすれば悪魔の多くは魔物と同じ扱いになるのだ。既にかなりの数の街を滅ぼしているのに、今更できませんなんてことは無い。
敵は敵。経験値は経験値。巡り合わせが悪かっただけなのだ。
こうして、俺達は伯爵級悪魔の街ヘ行くことが決定した。ちょっと楽しみだな。
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