息抜き


 新たな放置ゲーキャラを作るために色々と試行錯誤する毎日。


 あれがダメでこれもダメ。これは良くてあれも良し。


 そんな成功と失敗を繰り返しながら作る悪魔くんに変わる放置ゲーキャラの作成は、とても楽しい。


 やはり、魔術研究をしている時は全てを忘れて没頭できてしまうな。


 とっても楽しいし、何より面白さがある。


 レベリングは作業の末にレベルが上がった喜びが待っているが、魔術研究は過程から楽しいのだ。


 もちろん、頭を悩ませて何も思い浮かばず虚無の時間を使うこともあるが、レベリングしている時よりは楽しいだろう。


 しかし、ずっと魔術研究しているだけではダメだ。


 というわけで、俺とエレノアはデモットを連れて息抜きに来ていた。


「おぉ、プテラドンに似た魔物ですね」

「レッドドラゴンと呼ばれる魔物で、この大陸では破滅級魔物として扱われるな。トリケラプスと同じぐらいの強さと言っていい」

「ってことは、俺一人でもなんとかなるレベルなんですね。圧勝とは行きませんけど」

「そうだな」


 そんな息抜きの場所に選ばれたのは、人類大陸にある三大ダンジョンの一つ竜のダンジョン。


 第七階層に待ち受ける、破滅級魔物にして成体のドラゴン、レッドドラゴン君似合いに来た。


 久しぶりにちゃんとしたドラゴンを見たな。


 魔界はジュラ紀のオンパレードでロマンがあるが、これはこれでかっこいい。


 やはり、竜と名のつく魔物はビジュアルや強さからかっこよさを感じてしまう。


「戦ってみるか?」

「もちろんです。こちらの大陸の魔物にも俺がちゃんと戦えるのか、試してみたいですしね」


 既にやる気満々のデモットはそう言うと、翼を大きく広げて拳を構える。


 デモットは俺やエレノアのように武器を使った戦い方をしない。自分の体1つで戦うのだ。


 そういえば、未だに武器を持った悪魔に出会ってない気がするな。


 村の悪魔たちも基本的に自分の体1つで戦う傾向にあるし、まともな武器が農具とかになっている気がする。


 権能という便利な力をほぼ必ず授かるから、武器を使うという考えに至らないのだろうか?


 そこら辺も、人類とは違う文明を持っているよな。


「グヲォォォォォ!!」

「行くぞ!!」


 闘志を顕にするデモットを敵と見なしたのか、レッドドラゴンが大きく吠えながら口から炎のブレスを吐く。


 対するデモットは、そのブレスを闇の盾で受け止めると同時に素早く空中へと飛び上がり、レッドドラゴンの後ろに回った。


「フッ!!」


 ドガァン!!と、デモットの拳がレッドドラゴンの首元を捉える。


 毎日エレノアに指導されてきただけあって、空中での拳もかなりの威力となっていた。


 が、この程度ではレッドドラゴンは倒れない。伊達に破滅級魔物という分類をされている訳では無いのだ。


 レッドドラゴンは小さな悲鳴こそ上げつつも、素早く後ろを向いてデモットを尻尾ではたき落とそうとする。


 あ、それはダメですね。ちゃんと闇の盾にも行きしを向けてないと、奇襲されますよ?


「甘い」

「グギェ?!」


 振り返りざまに放たれたしっぽ攻撃だったが、その攻撃は虚しくももう1人のデモットに止められてしまう。


 デモットが作った悪魔君。俺の悪魔くんよりは性能がかなち落ちるが、それでも破滅級魔物の動きを止めるには十分な性能をしている。


「いやらしい戦い方をするわね。一体誰に似たのかしら?」

「間違いなく俺達だろうな。とにかく相手の意識の外からの攻撃を重要視してたから........」

「師匠が得意な戦法だったものね。私達に似るということは師匠にも似るということよ。可愛いデモットが汚くなってしまうわ」

「でも、戦いは汚い奴の方が勝つんだよなぁ」


 悲しきかな。あの可愛い弟子たるデモットでも、戦闘中は躊躇無く卑怯な戦い方を使ってくる。


 擬似的な二対一を作りあげたデモットは、とにかく相手がやりたいことをやらせずにレッドドラゴンを一方的にボコっていた。


 単純に魔術の威力が足りないだけで、戦い方はかなり上手いんだよな。もっとレベルが上がれば破滅級魔物も片手間にかれるようになりそうだ。


「これで、終わりだ!!」

「グギャァァァァ!!」


 一方的に殴っては魔術で攻撃し続けたデモットは、トドメの一撃をレッドドラゴンに打ち込む。


 何度も同じ場所を攻撃してもろくなった鱗に闇の剣を突き刺し、見事この戦いに勝利した。


「お、倒したな。今日の昼ごはんはデモットの倒したレッドドラゴンの肉で作るか」

「そうしましょう。最近はデモットばかりに料理を任せてしまっているし、私とジークで作りましょうかね」


 弟子の初討伐を見届け、喜んでいるデモットを見てほっこりしていると、俺たちの後ろにあった溶岩がせり上がりもう一体のレッドドラゴンが姿を現す。


 気配は感じていたけど、やはり出てきたか。


 デモットは結構魔力を消耗しているし、ここは俺が邪魔者を排除するとしよう。


「俺がやるよ」

「任せたわ」


 短いやり取りの後、俺はレッドドラゴンに向き合う。


 レッドドラゴンは一切の躊躇いなく俺に向かってブレスを吐くが、エレノア程の火力を伴ってなければ俺に傷をつけるのは不可能だ。


「やってみたかったんだよな。こういう防御」


 俺はそう言いながら、右手を前に出しブレスに飲まれた。


 俺を殺したと思ったのか、レッドドラゴンから喜びの感情が見える。


 悪いけど、その喜びはぬか喜びってやつだから。


「おい赤トカゲ。喜ぶのも結構だが、ブレスが当たってないぞ」


 俺はそう言いながら、一瞬でレッドドラゴンの頭の上に移動すると、簡易顕現を使いながら頭に手を置く。


 すると、レッドドラゴンはピタッと止まって俺が触れた部分から徐々に塵となって消え始めた。


 これが、俺の簡易顕現。エレノア相手だと普通に防御されてしまうが、破滅級魔物程度が相手なら問答無用で無に返す。


 うん。自分でも思うが、この能力理不尽過ぎだろ。


 格下絶対殺すマンじゃん。俺と戦いたければ、最低でも絶望級魔物レベルじゃないと意味が無い。


 これ、エレノア以外に耐えられる人間っているのか?


 その気になれば同じオリハルコン級冒険者ですら余裕で勝ってしまう。


「........なんですかあれ」

「触れた相手を殺す技よ。心理権限の力ね」

「なんですかそれ。理不尽すぎませんか?」

「滅茶苦茶理不尽よ。最低でもアルゼンチノルス以上の強さが必要になるわね。私ならあの力を弾けるわよ」

「あ、アルゼンチノルスレベルって........それ、辺境伯級以下の悪魔ほぼ全て殺せるじゃないですか」

「そうなのよ。そろそろ本格的に魔界の攻略を再開してもいいかもしれないわね。その前に魔術実験が先だけど」

「ちなみに、エレノアさんは同じようなことが........」

「もちろんできるわよ。私の場合は、触れた相手を強制的に燃やせるわね。しかも水の中に入っても消えない炎だから魔力や強引な力でかき消すしかないわ」

「どっちも理不尽じゃん........」


 消えゆくレッドドラゴンを眺めながら、デモットとエレノアの会話が聞こえてくる。


 そうなんだよ。心理顕現は理不尽なんだよ。


 同じステージに上がってないと、なす術がない力。


 それが心理顕現なのだ。


 デモットももっと強くなって悟りを開くといい。そうすれば、この理不尽を一方的に押し付ける側になるぞ。


 デモットはまだ悟りを開いていない。色々と考えているらしが、相談もしてこないので俺は何も言わないでいる。


 別に得られずとも落胆することは無い。何故ならば、俺達の可愛い弟子なのだから。


 大丈夫。最悪レベルで全部押しつぶせばええんや。レベルが全てを解決する。


 こうして、ちょっとした息抜きは続く。


 この日はデモットが様々なドラゴンと戦い、それを応援すると言う構図であった。


 頑張れデモット!!イケイケデモット!!





 後書き。

 やはりガチャは悪い文明。コメ欄から憎しみが溢れ出ている。

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