ガチャは悪い文明
第十級魔術の行使に成功した。
これは、俺たちが考えている以上に大きな成長であり、またさらなる可能性を秘めている。
単純に第九級魔術以上に複雑で強力な魔術を放てるようになったことはもちろん、相反する属性を複合して新たな可能性を生み出すことすらできるのだ。
今はまだ2種類の属性しか混ぜられないが、さらにその上へと昇っていけば冗談抜きに惑星そのものを作ることだってできるだろう。
緑豊かで自然に溢れた世界を作り出す。
一説ではこの世界は魔術によって作り出されたと考えられているし、その証明が可能になるのかもしれない。
まぁ、魔術を作り出したと言われる大賢者マーリンがこの世界にいる時点でその可能性は限りなく低いのだが。
この世界では天文学があまり発展していない。空を見るよりも、目の前にある魔術を研究した方が為にもなるし金にもなるので仕方がないと言えば仕方がない。
俺も別にこの世界の空に広がる宇宙については興味が無いので、どうでもいい話である。
第十級魔術を習得した俺とエレノアはその後もダンジョンで様々な実験を行った。
仮説だけ立てて実験していなかったことばかりをやり続けた結果、気づけば真夜中になりデモットに怒られるということもありつつも実験は成功したと言えるだろう。
失敗したものも多いが、失敗もまた一つの成功。何がダメだったのか、何が足りなかったのかを考えながら構築していく魔術はやはりとても楽しいものである。
「ご飯出来ましたよ」
「ありがとうデモット。ちょっといい所だから、そこに置いてくれないか?」
「分かりました........はぁ。俺が居なかったら飯を食うのも忘れそうな勢いですね」
「大丈夫。その時はメイドちゃんを出して生活を支えてもらうから」
「そんなドヤ顔で言わないで下さい。引きこもり宣言しているようなものですよ?」
昼ご飯を作ってくれたデモットが、あきらながらも昼食を持ってきてくれる。
研究の片手間に食べられるようにサンドイッチを用意してくれているあたり、デモットは本当にできる悪魔だ。
流石は俺とエレノアの弟子。俺達には勿体ないぐらいの可愛い弟子である。
弟子というか、もうこれ家政婦だろ。いや、ちゃんとデモットの修行には付き合っているし、相談とかも聞いてあげているんだけださ。
研究することも大切だが、時には休息も必要。こうして何気ない会話をしてくれるデモットは、結構貴重な存在だったりする。
「何を作ってるんですか?」
「悪魔くん達をさらに強化しようと思ってね。今は破滅級魔物を相手にするのが精一杯だし、ここから更に強い敵もなぎ倒せるだけのパワーを持たせようと思って」
「あそこからさらに強くなるんですか........爵位持ちの悪魔にすら単体で勝てるだけの強さをしてますよあれ」
現在おれが研究しているのは、悪魔君の上位互換となる新たな放置ゲー用キャラだ。
放置ゲーは全キャラちゃんと育てれば強いみたいなところがあるが、やはりキャラ性能差と言うのは着いて回る。
仕方がないよね。配布キャラがぶっ壊れでめちゃくちゃ強いなんてことがあったら、商売にならないから。
一応、配布キャラだけでもクリアはできるけど育成が難しいみたいなゲーム神ゲー。
ただし、対人戦があるゲーム(ソシャゲ)はクソなのだ。
レアリティが高いキャラが基本強いし、課金した方が強い。
当たり前と言えば当たり前だが、ソシャゲの悪いところだよマジで。
人権キャラとか実装するんじゃねぇ。ソロゲーならまだしも、ランキング形式で報酬にも差が出るゲームに必須キャラを出さないで。
毎回持ち物検査させられている気分なのだ。あぁ。ガチャは悪い文明。今すぐに滅ぼせ。
「........ジークさん?なんか顔が怖いんですけど」
「すまん。ちょっと昔を思い出してな」
おっといかんいかん。ガチャとか言う悪い文明を思い出してちょっとイラッとしてしまった。
5万もかけて出した人権キャラが、2ヶ月後に産廃になったなんて記憶はないんや。そんなの知らない。思い出してはならない。
とまぁ、そんなわけで俺は久々に放置ゲーに使う魔術を新たに作っている。
この世界はいいな。命のかかった対戦こそあれど、自分の手でキャラを生み出せるんだから。
悪魔君では若干火力や防御力が足りない。目指すは、アルゼンチノルス君をしばき倒せるぐらいの強さである。
デモットが作ってくれたサンドイッチをつまみながら、魔術研究を進めているとデモットが横から作りかけの魔法陣を眺めていた。
「うわぁ........複雑すぎる魔法陣ですね。何が何だかさっぱりですよ」
「第八級魔術と比べたら情報量が倍以上あるからな。でも、一つ一つ切り取るとそこまで難しくはない。基本的に魔術は基盤となる魔法陣の組み合わせだ。ほら、こことか第七級魔術ではよく見る連結魔法陣が使われているだろ?」
「あ、たしかに。俺もよく見る魔法陣ですね。他の魔術が干渉し合わないように、繋がりを強める魔法陣でしたっけ?」
「そうだ。よく勉強しているな。偉いぞ」
「えへへ」
俺が自然にデモットの頭を撫でると、デモットは嬉しそうに笑う。
デモットは俺とエレノアに褒められるのが凄く好きなのか、こうして褒めてやるといつも嬉しいオーラが体から溢れる。
本当に1年ほど前とは比べ物にならないぐらいに可愛くなったものだ。
........そうか。もうデモットと出会って1年近く経つんだな。時の流れって早いねぇ。
「この魔法陣もよく見かけますね」
「そうだな。こういう基本となるパーツを組み合わせて魔術は複雑なものになっていくんだ。だから、分解していくと単純なものしか残らない。デモットも今は自分の魔術を作ってるんだしそれを意識してみるといいぞ。後、魔術を安定させる魔法陣や補助をする魔法陣が多めになる。もし、攻撃的な魔法陣が多い場合は間違ってるから気をつけた方がいい。大抵、それで実験すると酷い目にあう」
「まるで実体験かのような言い草ですね」
「実体験だからな。まだ師匠な元で修行していた時に、ミスをして思いっきり自爆した。俺は白魔術が使えたから直ぐに怪我を治せたけど、白魔術が使えなかったら怪我の治療で数ヶ月はマトモに動けなかっただろうよ」
数年ほど前から魔術の作り方を理解してそういう失敗は減ったが、初心者の頃は本当に様々な失敗をしたものだ。
自爆して全身大火傷した時は流石に泣きそうになったね。
髪が燃えなかったのは奇跡に近い。毛根まで死滅していたら、俺は今頃ツルテカになっていた事だろう。
「うへぇ。そうはなりたくないですね。気をつけます」
「最悪死ななきゃ俺が治してやれるが、痛いことに変わりは無いからな。失敗することで学べるものも多いけど、自分を傷つけるような失敗はなるべくしないことだ」
「分かりました。ところで、これはどんな魔術になるんですか?悪魔君さんみたいに、また悪魔の形をした魔術になるんですかね?」
「それは見てからのお楽しみさ。今までの集大成とも言えるような、かっこいい奴に仕上げるつもりだよ」
「おぉー!!それは楽しみです!!俺も頑張らないとなー!!」
デモットはそう言うと、“エレノアさんの分も運ばないと”と言って部屋を後にする。
デモット、自分から“二人の世話は俺がやります!!”と名乗り出てくれたので任せているが、自分の研究の時間も考えるとやはりメイドちゃん辺りに任せた方がいいかもな。
なんというか、弟子の時間を奪っているような気がして申し訳なくなる。
俺は、今日の晩御飯はメイドちゃんにお願いしようと思うと研究を続けるのであった。
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