伯爵級悪魔領
第十級魔術
心理顕現の修行が一段落し、遂に俺とエレノアは魔術についても手を出し始めた。
進化したということは、新たな力を手に入れたということ。
今まで第九級魔術が限界だった俺達が、新たな力を手に入れる日が来たのかもしれない。
進化することで新たな技を獲得するのは、どんなゲームでもあること。
俺達も、進化したことにより、1つの壁を越えられる可能性があるのだ。
心理顕現の修行中も、滅茶苦茶魔術の実験がやりたかった。
理論だけできていて、あとは実験するだけだったのだが先ずは心理顕現をしっかりと使えるようにすることを優先した為封印していたのだ。
途中で我慢できなくなって、何度ダンジョンの中でブッパなそうかと思った事か。
万物の根源を悟り、虚無が魂に宿ったとしても尚、心を無にする事が難しかったぐらいには実験したくてうずうずしていたのである。
「やっと魔術実験ができるな!!すっごく楽しみだ」
「ふふっ、ジークったらずっと我慢していたものね。そんなに魔術を試したかったの?」
「だってここ数年間立ち止まっていたんだぞ?ようやくその壁を越えられたかもしれないってのに、実験できなかったんだからそりゃウズウズしちゃうさ。心理顕現の修行を先にしていたから特にな」
「休憩中とかにダメせばよかったじゃない........あ、いや、ジークの場合は楽しくなっちゃってずっと研究を始めちゃうからダメね」
流石エレノア。俺のことがよく分かっている。
そう。俺は一度熱が入ると辞められない性格なのだ。特に魔術実験は俺の天敵である。
帝国のダンジョンでいろいろと魔術の実験をしていた時も何気にやばかったしな。
狩り以外の時間はほぼ全て実験と研究に使ってたし。
魔術って楽しいんだよ。やろうと思えばなんでも出来るから、どうしてもあれを試したいこれを試したいと案が浮かんできて魔法陣を構築してしまう。
サンドボックス系のゲームは人生が終わると思って手を出してなかったのだが、やはりやらなくて正解だった。
魔術は一種のサンドボックスゲーだよ。某四角い世界のゲームとか始めた日には、生活の全てを捨てて熱中する自信がある。
「進化したことによって、私達の魔力操作や魔力量が劇的に向上したわ。これで第十級魔術の壁を越えられるのかしらね?」
「それを今から試すのさ。もし出来なかったら、ほかの要因があるってことだからな。進化じゃない俺達が見落としているなにかが、必要になるだろうよ」
というわけで、やってきましたはいつもの実験場である草食恐竜のダンジョン。
この9ヶ月で何度滅ぼされたのか分からないほどには滅ぼされたこのダンジョンくんに、今日もお世話になりに来ました。
多分、俺の人生の中で1番は被害を被っているダンジョンである。
絶望級魔物が通常ポップで湧いてくれるから貴重なレベリング場所だし、更には耐久力お化けのボスアルゼンチノルス君もいるから実験体には事欠かさない。
全てを兼ね備えたパーフェクトな狩場が、このダンジョンなのである。
多分、もう暫くはお世話になります。これからもよろしくね!!
「デモットは第ニ階層でレベリングしてるし、俺達は第三階層で実験。このダンジョンは魔界のオアシスだな」
「ちょっと何を言っているのか分からないわ。それにしても、このダンジョンは不幸ものね。こんな頭の狂った人に見つかってしまったのが運の尽きだわ」
「有効活用してあげているだけさ。さて、早速実験を始めるとしよう。理論はいっぱいあるんだ。理論上はできるはずの魔術を色々と試してみようぜ」
「そうね。第十級魔術の1番の要素、複合魔術は特に重要ね。特に相反する属性の魔術を組み合わせるということが出来るのかどうか。これがほかの魔術との大きな違いだわ」
かつて幽霊達と共に研究した相反する属性の複合魔術。
これが出来るのと出来ないのとでは大きな差が生まれるのは間違いない。
火力が上がる落ちるの話ではなく、できるかできないかでやれる事が大きく変わってくる。
昔作ったなんちゃって複合魔術とは違う、本物の複合魔術が作れればもっと面白い魔術を作れるはずだ。
「分かりやすいのは火と水の複合魔術だな。昔は失敗したけど今はどうなることやら」
「念の為に下がっておくわ。ジークの予想では大爆発が起こるらしいからね」
エレノアはそう言うと、大人しく下がって俺から距離をとる。
それを確認した俺は、早速理論上は可能な第十級魔術を行使した。
進化前に使ったことがあるのだが、その時はうんともすんとも言わなかった魔術。
まだ使い慣い上に第九級魔術とは比べ物にならないほど複雑な魔法陣なので、少々形成に時間がかかってしまう。
それでも、進化前よりはスムーズだ。
魔法陣が形成され、その効果が現れるかどうか固唾を飲んで見守る。
次の瞬間、ドォォォォォォン!!という爆音をダンジョンの中に響かせながら凄まじい爆発と熱風が周囲を破壊し尽くした。
できた!!
出来た出来た出来た!!
第十級魔術の行使に成功した!!
第十級魔術を扱う条件は、進化だったのか!!幽霊達が泣いて喜びそうな情報ばかりだな。
魔界を攻略し終えたら、彼らにこの話をしに行ってあげるとしよう。
きっと、嬉しすぎて昇天するぞ。
ちなみに、この魔術は水蒸気爆発を引き起こす魔術だ。
上への破壊力が凄まじい代わりに、横への破壊力がほかの魔術と比べてかなり少ない。
水を一気に気化させて、その膨れ上がった空気が逃げないように筒状の結界を張っているから、上への破壊力が凄いんだよな。
ただ、改善点も多そうだ。
やはり、魔術は実際に使ってみないと問題点が分からない。だから実験は重要なのだ。
あの魔術大好きリエリーだって、失敗を重ね続けて新たな魔術を作るのである。
「できたぞエレノア!!これで第十級魔術の研究も捗る!!」
「ふふっ、子供みたいにはしゃいじゃって可愛いわね。おめでとうジーク。私も使えるか試してみるわ」
エレノアはそう言うと、俺と同じ魔術を行使する。
ドォォォォォォン!!
二度目の爆発。
ダンジョンに生い茂る木々は跡形もなく吹き飛び、魔術の効果範囲だけが綺麗に禿げ上がる。
でも、全階層焦土の山となるよりはマシだよね!!やったねダンジョン君!!これなら余裕で再生できるよ!!
ダンジョンにも気を使ったなんと素晴らしい魔術なのだろうか。後でアルゼチノルス君にも見せてあげよう。
吹っ飛ぶかどうかは知らないが、少なくともダメージは与えられそうだ。
個人的には空の彼方まで吹っ飛んで欲しい。アルゼンチノルスロケット、見たくない?
「私も出来たわね。これで魔術の幅が広がるわ」
「おめでとうエレノア。これで俺達はまた1つ大きな壁を越えた訳だ。楽しくなるぞ」
「そうね。単属性の魔術はちょっと作り飽きていたし、もっと面白そうな魔術が作れそうね。複雑で応用がいくらでも効くだろうし、純粋に数を増やしてひとつの魔法陣に収めるなんてこともできそうだわ」
「確かに。魔術を連発するよりも、一回で終わってくれた方が楽だしな。魔術待機とか使わずに、数による面攻撃が可能になったわけだ」
「可能性の塊ね。しかも、属性を選ばないからなんでも出来るわ。唯一欠点を上げるなら、魔法陣があまりにも複雑になりすぎて開発が難しいところかしらね?」
「それは慣れだよエレノア。初めてやることに、苦行はつきものさ」
「ふふっそうね」
静かに笑いながらも、どこか楽しそうなエレノア。
エレノアも魔術が好きだからな。止まっていた魔術研究が新たに動き出して、嬉しいのだろう。
こうして、この日から俺とエレノアは魔術研究に没頭するようになるのであった。
後書き。
もちろん条件は進化。進化してないと使えません。
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