修行は続くよどこまでも


 一旦、心理顕現における修行はここらで辞めてしまっても大丈夫だろう。


 もちろん、毎日訓練は続けるつもりだが、新しい事に挑戦することは無い。


 まだやるべき事が沢山あるからな。


 魔術の開発に悪魔王への挑戦。そして、悪魔王に挑む前に魔界に存在する爵位を持った悪魔達に勝たなくてはならない。


 挑戦を見送っていた、伯爵級悪魔から順に戦ってみるとしよう。


 今の俺たちならば圧勝できるはずだ。


「悟りを開いてから、随分と様になったな。教えていた私も誇らしいよ」

「まさか、師匠以外に二人目の師匠を持つとは思ってなかったけどね。でも、ウルと出会えてとても良かった。進化もできたし、更なる高みへ行けたと思っているよ」

「そうね。師匠と違って滅茶苦茶な事を言ってくる事も無かったし、師匠のよりも優しかったわ。実践的な魔術訓練をしていた時はものすごく性格が悪かったもの」

「ハッハッハ!!やつの性格の悪さは一級品だ。それこそ、あの悪魔王ですら顔を顰めるほどにな。それで、君達はこれからどうするんだ?この村を去るのか?」

「いや、暫くはここを拠点に色んな悪魔に喧嘩を売ってこようかと思ってるよ。魔術の研究とか伯爵級悪魔への挑戦とか。せっかくむらの人たちとも仲良くなれたし、離れるのはもったいないと思ってね。迷惑なら出ていくよ」

「迷惑だなんて思ってないさ。寧ろ、皆が歓迎している。魔術を覚えたお陰で、この村も随分と豊かになった。私が君たちに授けた力よりも、君達から貰ったものの方が多いよ」


 ウルはそう言うと、ニッコリと笑う。


 本当に師匠と違っていい人だな。唯一理解できない点は、師匠に惚れてしまった事ぐらいだ。


 いつの日か、ウルと師匠の馴れ初めなんかも聞いてみたい。


 昔の師匠はどんな人だったのか、そしてどれだけ非常識で滅茶苦茶だったのか。


 あまり過去を語らない師匠の面白い一面が見られるかもしれない。


 そんなことを思いながらウルと話していると、デモットがやってくる。


 どうやらナレちゃんは連れていないらしい。


「あ、ジークさんエレノアさん。帰ってきていたんですね」

「ただいまデモット。どうだ?調子は」

「第七級魔術をようやく覚えて、今は第八級魔術に挑戦しています。もちろん、課題である自分だけの魔術もしっかりとやってますし、レベル上げもしていますよ」

「デモットのレベルももう82だものね。そろそろ悟りを開いてもいい頃なんじゃないのかしら?」

「あはは。それよりも先に基礎をしっかりとできるようにならないとダメじゃないですか。俺は今日じゃないので、一つづつ確実に強くなりますよ」


 俺達の弟子にして、可愛い弟分デモットはコツコツと努力を続け遂に第七級魔術という大きな壁を越えた。


 正直、第八級魔術からは教えることがあまりないので俺はデモットに魔術の理解度を測るための課題を出している。


 それが、オリジナル魔術の作成だ。


 俺とエレノアが師匠に教えられた時と同じく、俺達もデモットに一つ自分の魔術を作ってもらうようにしている。


 自分だけの必殺技と言うのは愛着が湧くし、何よりその魔術に関しての理解度は世界で1番高くなる。


 理解度が高いということは、その状況で使えるかどうかの判断が早くなるという事。


 教えられた魔術だけを取捨選択するよりも、早い判断が可能となるのだ。


 これは俺達が旅をする中で何となく感じ取ったことである。師匠に教えられた訳ではなく、自分達で気がついたことをデモットにも気づいてもらおうという試みもあるのだ。


 少しだけだが、師匠らしいことが出来ているのかもしれない。


 これが正しいのかどうかは分からないが。


 悩みながら弟子を育成する。師匠も、この難しく楽しい経験をしていたのだろうか。


「私達も魔術の研究を再開するし、何かわからなかったことがあったら聞きなさい。どんな悩みでも聞いてあげるわよ?」

「........あー、それなら一つありますね」


 相談を聞くと言ったエレノアの言葉に、デモットは早速相談を始める。


「なんだ?」

「最近、ナレちゃんのスキンシップが激しくてちょっと困ってるんです。ほら、ナレちゃんは女の子ですが、立派な女性な訳ですしあまり俺にベタベタしすぎるのもどうかなと思うんですよ」

「「「........」」」


 今、俺達の心の中では“なんだよ惚気かよ”と言う思いで一致していることだろう。


 デモット大好きナレちゃんが、デモットにベタベタする。


 うん。当たり前だよね。好きな人が目の前にいたら、そりゃ触れたくもなるさ。


 特に子供の頃は。


 ナレちゃん、デモットガチ勢だからな。ロリっ子ヤンデレとか言う刺さる人にはぶっ刺さるキャラクターしてるからな。


 デモットが他の子供達と遊んでいるとヤキモチを焼くし、ウルに泣きついたこともあったそうだ。


 ウルからその話を聞いた時は、思わず苦笑いが出てしまったよね。


 なんと罪深き男デモット。これが俺達の弟子とは、俺達の評価にまで影響が出そうだ。


 自分の評価とか気にしたことないけど。


「ふむ。まぁ、いいんじゃないか?なんなら、デモットが抱きしめてやるぐらいしてやってもいいと思うぞ?子供は意外と素直じゃないからな」

「ウルの言う通りだな。デモットが嫌じゃなければ、いいんじゃないか?」

「そうね。ナレちゃんに構ってあげてもいいと思うわよ」


 そして、こういう時何気にウルは容赦がない。


 真面目な顔をして話しているが、内心すごく面白がっているはずだ。


 師匠も同じようなことを絶対するだろうし、ここら辺の性格は師匠から影響を受けてそうだよな。


 そして、そんな師匠に教えられた俺達も真面目な顔をしながら内心楽しんでいる。


 個人的に結構お似合いだと思うんだよ。デモットとナレちゃん。


 年の差40とか言う犯罪臭しかしない年齢差だが、悪魔は見た目が若いままで止まる時期が長いからナレちゃんがある程度成長すれば気にならなくもなるだろう。


 頑張れナレちゃん。デモットを落としてしまえ!!


「そうですか?うーん。じゃぁそうしてみます」

「うんうんその方がいいだろう。乙女心とは分かりにくいものだ」


 一応俺たちへの相談なのに、ウルが率先して答えていやがる。


 師匠の役を完全に奪ってしまっているよこの人。


「ウルも悪い人ね。この状況を楽しんでいる私達もそうだけど」

「だな。俺達も人のことは言えないさ。デモットにはこのまま頑張って強くなってもらいつつ、ナレちゃんと幸せになってくれ」

「ふふっ、当分先になりそうだけれどね。デモット、私達に似ているし」

「ハハッ。それは言えてる」


 こうして、俺達の修行は続く。


 修行は続くよどこまでも。世界最強になるその日まで、俺は努力を辞める時はない。


 次は魔術。そして、伯爵級悪魔との対決。


 魔界の制覇まで頑張るぞい!!




天魔白黒観音像てんまびゃっこくかんのんぞう

 全ての始まりは無から始まり、全ての終わりは無で終わる事を悟ったジークの魂が悟った姿。

 左半身は純白、右半身は漆黒になっており、無数の手を持つ観音像が具現化される。

 能力は一定範囲内の攻撃無効化(威力が強すぎるものは不可)と、観音像の手に触れたものは全て消す事(全身を膨大な魔力で覆うことで防御可能。なお、どちらもエレノアやウルレベルでないと無理)。

 弱点は自分の世界から出られない事。

 観音像は自己判断し相手を追い詰めるため、経験が積み重なるにつれて厄介な攻撃方法が増える。更に自我の獲得も可能。

 能力を使わずとも、普通にパンチするだけで大抵の敵は死ぬとかいう火力お化けだったりする。

 ジークの祖母(アン婆)が見た魂の世界の一部であり、ありとあらゆるものを無に還す。





 後書き。

 これにてこの章はおしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 今回はジークエレノア強化回でした。ようやく、お婆ちゃんの世界の伏線を一つ回収できたぜ。

 ちなみに、質問の多かったジークの心理顕現はこれ一つです。ただし、まだ先がある。ジークはまだ自分達を理解していない。

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