半年後


 心理顕現を取得し、修行を初めてから半年が経過した。


 悪魔の村には既に9ヶ月近くも滞在し、第2の故郷とも呼べるほどに多くの思い出が出来た。


 ガレンさんとの厨二病会話や、村の悪魔達との日常。


 毎日頑張ってレベル上げを続けるデモットに、それはもうデモットにベッタリくっついて離れないナレちゃん。


 悪魔達からは“先生”と呼ばれ、いつしか俺とエレノアは悪魔の村の教師になり、悪魔の出産にも立ち会った。


 流石にその様子を見ることは無かったが、新たな生命が生まれる瞬間を悪魔の村のみんなで見守る経験は世界広しと言えど俺たちぐらいだろ。


 もちろん、人間の中ではという話だが。


 悪魔の赤ちゃんって可愛いね。特に俺たちと仲の良かった悪魔が産んだこともあり、俺とエレノアも赤ん坊を抱っこさせてもらったが、それはもう可愛かった。


 赤ん坊の頃のピィーちゃんを思い出す。


 エレノアは母性全開で、悪魔の赤ん坊は結構懐いていたっけ。


 なお、俺はギャン泣きされた模様。みんなには苦笑いされたが、俺は割と傷ついた。


 ところで、ピィーちゃん家族は元気にしてるかなぁ。


 また会いたいよピィーちゃん。


 悪魔の村は魔術を得たことによりさらなる発展を遂げ、今となってはありとあらゆるものに魔術を使う。


 戦いのためではなく、生きるために。


 大賢者マーリンがかつて作った魔術は、彼が思い描いた通りの使われ方をしていた。


 村は豊かになったし、今も尚発展を続けている。


 生活に余裕が出てきたからか、文化も発展し始めている。


 人間が辿ったであろうその道筋を、この村も辿っているのだ。


「行くわよ」

「来い」


 そんな長いような短いような修行期間。


 俺とエレノアはいつものようにダンジョンに入ると、手始めに魔物を全滅させてから手合わせをする。


 もう6年以上の付き合いだ。何度やったか分からない、手合わせは毎回エレノアの先手で始まる。


「フッ!!」


 俺が瞬きをしたと同時に視界から消えたエレノア。そして、一瞬の間に懐に潜り込むと、拳を叩きつけてくる。


 進化したこともあって、その速さは以前のエレノアとは比べ物にならない。


 早すぎやろ。対応するので手一杯だよ。


「グッ、相変わらず重いな」

「あら、女の子に重いだなんて、ジークも失礼になったものね。その重みに押しつぶされたいのかしら?」

「そういう意味で言ってないんだよなぁ........」


 エレノアの拳をしっかりとガードする俺。


 一応、簡易顕現で威力はかなり殺されているはずなんですがねぇ。


 俺はそんなことを思いながら、反撃とばかりにガードしていない手でエレノアに拳を叩きつける。


 が、エレノアはこれを回避。


 流石に俺の“手”に触れるような真似はしないか。


「ジークの簡易顕現は危険すぎるわ。一定範囲内の攻撃の無力化と無を纏った手の攻撃。当たったら即死ものね」

「エレノアなら耐えられるだろ?」

「耐えられるけど、かなり痛いのよ?それに私も強引に振りほどかなければならないから体力の消耗が激しすぎるわ」


 エレノアはそう言うと、今度は自分の番だと言わんばかりに両手に炎を纏う。


 魔術による炎ではない。


 全てを燃やし尽くし、決して消えることの無い絶対的な炎。即ち、魂の炎だ。


 あれは俺の手でしっかりとガードしないと熱いし燃える。エレノアの簡易顕現も相当理不尽なんだよな。


 しかも、俺とは違って足にも炎を出せるし。


 あれ?俺の魂、弱すぎ........?


「フッ!!」

「ほっ!!」


 爆速で接近し拳を振るうエレノア攻撃を、手の平で器用に受け流す。


 炎を無に返しているのはずなのだが、エレノアの炎が消えることは無い。


 正確には、触れた部分の炎は消えているがあっという間に炎を補充されてしまうから意味が無い。


 ずっと手に触れていれば無力化できるが、それをさせてくれるほど甘い相手ではない。


「ちょこまかと........!!」

「そりゃそうだろ。俺は焼肉になる趣味はないんでな」


 エレノアの拳をひょいひょいと避けながら、反撃の機会を伺う。


 しかし、進化したとしても肉弾戦はエレノアの方が上。俺が反撃できる隙を全く与えてくれない。


「「心理顕現」」


 お互いに攻め手に欠けると判断したのか、ほぼ同時に心理顕現を行使。


 お互いの世界を顕現させ、力押しの脳筋勝負が始まる。


「我、炎の真髄を悟ったもの也」

「我、万物の根源を悟ったもの也」

「炎魔愛憎炎樹」

「天魔白黒観音像」


 顕現するは、大木を焼き焦がす炎と白と黒の観音像。


 エレノアの炎を爆速で観音像が手で消し去るも、その炎は耐えることなく降り注ぐ。


「見ているだけで暑いな」

「ふふっ、私の炎をそう簡単に消せるとは思わない事ね」

「それは分かっているさ。だが、俺にだってやりようはあるんだよ」


 俺はそう言うと、観音像の口を大きく開かせる。


 この修行期間で得た観音像の必殺技。ちょっと某会長のパクリだなとは思ったが、強いので俺は普通に使わせて貰うぞ。


「げっ........それ使ったらここら一帯が消し飛ぶわよ」

「何を今更。それに、加減はするさ。万物の根源に還れ。虚無一閃」


 俺がやろうとしていることを察したエレノアが嫌そうな顔をしながら、大きく距離を取って逃げる。


 対する俺は、楽しくなりすぎて加減を間違えないようにしつつ一撃を食らわせに行った。


 ゴウ!!と、放たれる虚無の一閃。


 口からレーザービームのように出たその一撃は、エレノアの炎を全て無力化して真っ直ぐに突き進む。


 が、残念なことにエレノアには当たらない。


 まぁ、そもそも当たるとは思ってないんだけどね。


「相変わらずとんでもない威力ね。加減してこれなんだから」

「エレノアの切り札も似たようなもんだろ。あれは加減できるとは思えないけどね」

「無理ね。加減なんてできやしないわ。ジークがダンジョンの外に出た余波を止めてくれなかったら、全て吹き飛んで何もかもが無くなってたわよ。下手をしたら、森が無くなっていたかもしれないわね」

「いつ使うんだよそんな環境破壊攻撃........」


 と、ここで俺達は手合わせを終える。


 これはあくまでも、自分たちの力が自分たちの思う通りに使えているのかを確かめるだけの手合わせだ。


 別に勝ち負けを決めたいわけじゃない。俺達の手合せは大抵やりたいことを終えたら辞めるのである。


「ふぅ。それにしても、半年間ずっと心理顕現の修行ばかりしていたから随分と慣れたわね。簡易顕現も取得できたし、次のステップに言ってもいいかもしれないわ」

「ウルから合格点も出されたしな。もう教えることはないって。簡易顕現の修行は疲れた........観音像をずっと肩の上に置いてたからな」

「ふふっ、あれはちょっと面白かったわよ。後、意外とお茶目よね?話しかけると反応してくれるから、悪魔くんやメイドちゃん達みたいな匂いを感じるわ」

「それは俺も思った。と言うか、なんで言葉を理解して反応するんだ。観音様なんだからじっとしてようぜ」

「きっと主人に似て優しい性格になったのね。狩りの時は容赦ないし」

「まぁ、新しい友人ができたと思えばいいか」


 観音像、意外とフレンドリーなんだよな。


 最初の頃は全く動かなかったくせに、ある時から急に自我を持ち始めたというか........


 あれ?なんか同じような経験があるな。天使ちゃんと堕天使くんの時が同じだったような........


 自己判断して自我を持つ。観音ちゃんって今度から呼ぶか。行動や仕草が男よりは女の子よりっぽかったしな。


 俺はそんなことを思いながらも、心理顕現の修行が一旦の終わりを迎えたと思うのであった。


 次は魔術だな。






 後書き。

 ジーク「俺より弱い奴は、手に触れた瞬間無になって死にます」

 エレノア「私より弱い奴は、手に触れた瞬間燃えて死にます(消化不可)」

 クソゲーかな?

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