強みと弱み
ノリノリで踊りを披露してくれたメイドちゃんとちゃっかり自分もネタを用意していた執事君と遊んだりしながらも、俺達は悪魔の村に帰ってきた。
俺は放置ゲーの為に悪魔君達を解き放ち、以前と同じように悪魔の街を滅ぼしてもらう事をお願いしつつ心理顕現の修行に入る。
本当は魔術の研究や自分の肉体に関しての限界など調べたいことが山ほどあるが、今は手に入れた力の理解を深めるのが先決であった。
そのためにまず何をすればいいのか。
簡単だ。自分の強みと弱みを理解することである。
何ができて、何ができないのか。
どんな状況、相手に強くて弱いのか。
先ずはそれをしっかりと理解し、それを念頭に戦うのが重要である。
師匠も言ってた。自分の弱さを知ることが、強さに繋がると。
魔術も強みと弱みを理解しながら、覚えることで適切な状況下で使えるようになるのだ。
「限界まで力を絞るとここが限界だな。まだ力に慣れてないからここら辺までか」
「そうね。ここが限界ね。自分と同じ大きさぐらいまでしか縮小できないわ。ここからさらに頑張らないと行けないわね」
簡易顕現の取得。
まずはそれを目標に修行に励む訳だが、ウルの小さくして力を制御するという方法はかなり難しいことが分かる。
実践で見せてくれたウルの心理顕現は、手のひらの上だけに雨を降らせるというものだった。
俺達もそのレベルまでできるようにならなければ、お話にならないだろう。
しかし、今はどう頑張っても自分の大きさぐらいまでしか縮められない。
魔術圧縮と同じく、相当な練習が必要になるのは火を見るよりも明らかである。
「俺の心理顕現の強さは、どんな相手にもワンチャンス作れるって所かな?その手で掴んだ時点でほぼ勝ちだし。弱点と言えば、格上に対しては割と為す術がないって事と、顕現中は無の世界の中でしか動けないってことぐらいか。普通に攻撃できるからあまり弱点とは言えないけど」
「それはどれにでも言えることだとは思うけどね。私もほぼ同じ弱みだし。この領域を強引に突破できるような相手には弱いわ。ジークみたいに、世界から出られないと言うのは無いけどね」
「それはそう。ただ明確に俺とエレノアには強さの違いがある。エレノアの場合は面攻撃に強くて俺の場合はあまり強くない。代わりに、俺の方が手数が多い。エレノアは........手数というのか?世界を広げたら勝ちみたいなところあるしなぁ........」
あれ?エレノアの世界って真正面から破る事以外に勝ち方無くね?
俺の場合は幾多の手をすり抜け接近されるとワンチャンスが生まれてしまうが、エレノアはその世界に足を踏み入れた時点で常に攻撃を受け続ける事となる。
だって炎の世界だし。何をどうやっても逃げられない。
常に膨大な熱が攻撃となって襲いかかってくるとなると、相手は常に全身に防御を張らなくてはならないのだ。
クソゲーかな?
地形ダメージを常時与えてくる敵が1番厄介かもしれん。
「でもジークは自分の一定範囲内の攻撃に対して、威力が足りてない場合は絶対的な無力化が働くわよね?私からしたら結構ずるいと思うのだけれど」
「まぁ、それはそう。もし、俺の守りを貫通して殴ってきても生きてりゃ回復もできるしな。白魔術が使えるから」
「うわぁ........滅茶苦茶面倒ねそれ。戦いたくないわ。たとえ勝てたとしてもすっごいストレス溜まりそう」
俺と戦う想像でもしたのか、エレノアの顔がすごい嫌そうな顔になる。
一定の攻撃を全て無力化。そして、本体の回復。
俺も言うてクソゲーだな。
そりゃ対戦相手はストレスが溜まるだろう。。俺も俺を相手にしていたらストレスが溜まりそうだ。
そう考えると、やはり出力差が全てを決める力と言っても過言ではないように思える。
力こそ正義、力こそパワー。
ゴリ押しで強引に相手をねじ伏せることが心理顕現での戦い方に近いのかもしれない。
となれば、出力を引き上げる修行が大切になってきそうだな。その為の簡易顕現取得とも言える訳だが。
「結局はどちらの力が強いかの勝負って事になるわね。余計レベル上げが大切になってきそうだわ」
「そうだな。レベルが1番出力をあげるのに簡単な方法だし、レベル差が勝負を決める。やっぱこの世界はレベル社会という訳だ。レベルが高いやつほど強くて有利になる」
そして、結局ここに行き着く。
レベル。やはりレベルしか勝たん。
レベリングこそ至高であり、レベルを上げる事こそが正義である。
まぁ、あと単純に心理顕現での実験経験が少なすぎて自分の弱みが見えてないというのもあるだろうな。
魔術の時は師匠が答えを教えてくれていたが、今回は自分達で見つけなければならない。
心理顕現はその人に宿る独特な力だから、ウルも教えるに教えられないのだろう。
「最近少しサボってた手合わせでも再会するか。実践の中で気がつくこともあるだろうしな」
「そうね。それがいいと思うわ。今の私達は昔みたいに魔術を覚えたばかりの子羊。実践を経て、私達は竜をも喰らう狼となるのよ」
フェンリルじゃん。
伝説の魔物として名高いフェンリルだよそれ。
いつか会ってみたいなぁ。
白銀の狼にして、竜すらも喰らう絶対的な強者。俺もエレノアも狼が好きだから(闇狼君のせい)、仲良くなれたら1番楽しいだろう。
絶対もふもふしてる。あの毛皮の上で寝たい。
「魔界の攻略が終わったら、フェンリルとか伝説の魔物探しもいいかもな」
「ふふっ、そうね。大半は殺すことになるでしょうけど、仲良くなれる魔物もきっといると思うわよ」
こうして、俺とエレノアの修行は始まった。
力を手に入れてゴールじゃない。ここからがスタートだ。
【炎魔愛憎炎樹】
エレノアが使う心理顕現。愛と憎悪が入り交じった炎を作り出し、決して消えずその世界に踏み入ったものを焼き尽くす業火を常に放っている。単純な炎の世界だが、単純な故に強力。たとえ海の中でも燃え続けるこの炎は決して消えることは無い。
ジークの祖母(アン婆)が見た魂の世界と同じであり、その一部でもある。
中心地に近づくほどに熱は暑くなり、中心地で活動できる生命はほぼ居ない。もし、この炎の中でも動きたいなら同じく心理顕現やそれに対抗できるだけの出力を持った術が必要となるだろう。
現在の限界射程は半径15km程。力が増す毎にその射程は伸びる。
ジークとエレノアが修行を再開していた頃、一人で黙々と魔術の研究に勤しんでいたウルはついに第九級魔術である空間転移に成功した。
「やった!!これで私もノアのところに会いに行ける!!」
かつて惚れた1人の骸骨。
女だと聞いた時は驚いたし、その見た目もとても美人で可愛らしいものであったがウルはその見た目でノアの事を好きになった訳では無い。
むしろ、人らしい見た目を見て“お得じゃん!!”と思ったほどだ。
ウルのメンタルはとても強い。
「よし早速ジーク達にお願いしてポインターを........」
ウルはそこまで言って、言葉を止めた。
転移魔術にはポインターが必要。転移する座標を固定してそこに飛ぶというのがこの魔術。
そのため、1度も訪れたことがない場所には飛ぶことが出来ないし、そもそもノアがどこに住んでいるかすらもウルは分からない。
となれば、ウルはジーク達を頼るしかない。
しかし、ジーク達は今とても重要な時期だ。心理顕現を得た直後の修行は得るものが多い。
少しの時間すら惜しいのだ。
弟子のことも考えず師が私欲を出していいものか?
否、師は弟子の成長を待つのである。
「........はぁ。やめておくか。転移ができるようになったことを伝えれば2人は私を連れていってくれるだろうが、今はその時期じゃないだろうしな。それに、ノアとの約束はまだ果たせていない。ここは我慢するとしよう。約束が守れないやつは嫌われる」
ウルはそう言うと、会いに行きたい気持ちをグッと堪えて弟子達を見守ることを選んだ。
弟子を見守るのも悪くない。それに、ノアとかつて交わした約束もある。
それが果たされるまでは、お預け。
ウルはそう思うと、ノアとの思い出である一つの指輪を取り出して眺めるのであった。
後書き。
ぶっちゃけ心理顕現に弱点も強みもない。力が強い奴か相性勝負。正面から殴り合えがデフォ。
レッツ脳筋‼︎パワーイズジャスティス‼︎なのだ。
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