新たな修行


 デモットと師匠の模擬戦は、当たり前ながら師匠がデモットをフルボッコにしていた。


 大公級悪魔ですらも屠る化け物じみた骸骨だ。デモットが師匠に敵うはずもない。


 さすがに本を使用することは無かったが、それでも実力差は歴然。師匠はとにかく対人戦の経験が豊富で、相手がどのようなことをしたいのか、どうすれば相手を封じられるのかを熟知している。


 まだ修行を初めて二ヶ月ちょっとのデモットには、苦しい戦いになってしまうのは必然であった。


 それでも、頑張ってしがみついた方だろう。


 何度か師匠の喉元まで迫り、多少なりとも師匠を動かしたのだから。


 俺達と出会った時に戦っていたら、その場から1歩も動かすことすら出来ずボコられていたはずだ。


「つ、強すぎる。これが大師匠の力........」

「フハハ。デモットと言ったな。確か、ジーク達と出会った時はチンピラのような悪魔だったとか。それにしては綺麗に戦う。教える者が基礎に忠実だったのだろうな。動きが読みやすい」

「まだ修行を初めて二ヶ月ちょっとのデモットに何を求めてるんだよ師匠。基礎ができなきゃ応用に意味は無いと言ったのは、師匠でしょ?高度な駆け引きや小細工は後になってからだよ」

「フハハハハ!!確かにそんなことも教えたな!!という事は、デモットは私の教えを受けていることにもなる訳だ。いやぁ、孫弟子は可愛いな!!私もつい楽しくなってしまったよ」


 デモットをフルボッコにし、高らかな笑い声を上げる師匠。


 どうやらデモットの事が相当気に入ったらしく、既に頭を撫でている。


 師匠、お袋の癖が移ってないか?可愛い子の頭を撫でる癖が。


 デモットは可愛いよりもカッコイイよりの顔ではあるが、その内面は純粋な青年と何ら変わりない。


 だから可愛く思えるし、見ていて和む。


 真面目で努力家。それでいながらコミュニケーションも取れて、冗談を交えて話すことだってお手の物。


 あれ?この中で1番まともなのデモットじゃね?


 頭のイカれたエルダーリッチや、そんなエルダーリッチに恋する乙女よりも断然まともだ。


 もし本当にオリハルコン級冒険者になったら、悪魔なのに1番まともなオリハルコン級冒険者となってしまう。


「デモットよ。これからもジークとエレノアの元で鍛錬に励むといい。あの二人はちょっと頭がどうかしてしまっているが、戦闘に関しては天才的だ。学べることも多いと思うぞ」

「は、はい!!頑張ります!!」


 師匠に応援され、ちょっと嬉しそうに返事をするデモット。


 師匠はその姿を満足そうに眺めたあと、俺達に話しかけた。


「ジーク、エレノア。ウルから色々と学ぶといい。私では教えることの出来ない技術や考えを奴は持っているのでな。心理顕現。私にはなしえなかった己が答えを見つけ新たな舞台に立つのだ」

「頑張るよ........というか、心理顕現心理顕現って言うけど、結局なんなの?」

「そうね。詳しい話が聞けてないわ」


 魔術やスキル、そして権能とも違った力。


 己が悟りを開き、その魂を世界に顕現させるだのなんだと言っていたが、全くわからん。


 魔法陣を描いて、はいズガドーン!!という訳では無いのは何となくわかるが。


「フハハ。それは私が教えることでは無い。ウルよ。私の弟子を頼んだぞ。あの傲慢なる悪魔王を倒すのは、きっとこの子達だ」

「お前がそこまで言うのは珍しいな。そんなにも弟子が可愛いか?」

「フハハ。可愛くなければ、私は今こうしてここにはいない。ウル、お前も教えて見ればわかる。その圧倒的な才覚に驕らず、ひたむきに努力を続ける姿の美しさにな」

「ふん。まぁ、他ならぬノアの頼みだ。引き受けてやろう。その対価として、魔術を彼らから教わってもいいか?」

「構わんよ。ジークとエレノアが魔界に来た時点で、私の懸念する事象は消え去った。悪魔が魔術を覚え、再び人の世界に足を踏み入れることを恐れたが、そもそも悪魔が滅んでしまっては攻め込めないだろう?」

「........私も殺すということか?」


 ピリッと、僅かに空気が重くなる。


 しかし、師匠はそんな圧をものともせずに笑顔を作ったままだった。


「安心したまえ。ジークとエレノアは興味のないものはただの餌としてしか見ていないが、身内にはとてつもなく優しい。この村が悪魔最後の生き残り達が集まる場所になるだろうよ」

「........そうか。それならいい。いい加減、あのふざけた王とそれを盲信する悪魔共が邪魔になっていたのだ。お前の弟子に全てを託してやろう。どちらに転んだとしても、この村が滅びることは無い」

「フハハハハ!!そういう事だ。そして、私の弟子達はこの程度では死なん」


 随分と信頼されているな俺達は。


 そう易々と死ぬつもりは無いが、俺とエレノアはどこまで行ってもただの人間だ。ひょんなことからあっさり死ぬかもしれないというのに。


 俺とエレノアは顔を見合わせると、肩をすくめる。


 師匠の期待が大きすぎると、弟子の苦労が大きいよ。デモットには期待しているが、それが重荷にならないように気をつけないとな。


「では、私は帰る。見たいものは見たし、久々に友とも再会できた。ウル、ガレン、もしお前達がジークの家に訪れる時が来れば、私が案内してやろう。私が昔語っていた人間の街を見ることが出来るぞ?」

「お前こそ、暇な時はこっちに顔を出せ。もうやるべきことは無いんだろう?」

「フハハ。気が向いたらな。が、暫くは来ないつもりだ。私が長いしすぎると、王に存在が見つかるかもしれんのでな。やつの性格からして、遊びに来られても困る」

「それには同意だ。そろそろ傷も言えている頃だろうしな」

「ノア様。お会いできて楽しかったです。また顔を出してください」

「フハハハハ!!私の気分次第だな!!」


 師匠はそう言うと、足元に転移魔法陣を作り出して家へと帰る。


 滞在時間、約半日足らず。忙しい人だ。


 多分、帰って店の手伝いに行ったぞあれは。


「さて、我々も帰るとしよう。久々にノアの顔が見れて楽しかったしな。まさかあんなにも美形の顔をしていたとは思わなかったが」

「俺達も真実を知った時は驚いたよ。そもそも俺も男だと思ってたし」

「だよな?思うよな?男と女で骨格が違うとか言われるが、その違いを調べたことなどないし、何よりやつの体の大部分はローブによって隠されている。分かるわけが無い」

「私は気づいていたわよ。お茶の入れ方や仕草から、女性らしさが出ていたわ」

「あれのどこが女性らしいのか全くわからん。まぁ、今も昔もどうでもいい話だがな」


 ウルはそう言うと、ガシッと俺の肩を掴む。


 そして、今までに見ないほど真剣な顔(目は見えない)で俺を睨みつけた。


 なんだろう。すごいオーラが見えるんだけど。見えてないはずなのに、なんか赤いオーラが見えるんだけど。


「ノアが言っていたように、心理顕現について教えてやろう。習得出来るかどうかは君たち次第だが、その根底となるものは教えてやる。代わりに魔術を教えてくれ。具体的には転移魔術とかいうものを今すぐにでも教えて欲しい!!」

「お、教えはするけど、習得出来るかどうかは分からないよ。魔術も才能が必要だからね」

「構わん。最悪、どんな手を使ってでも再現してみせる。転移魔術を覚えられれば、何時でもノアに会いに行けるのだろう?絶対に、なんとしてでも覚えてやる........!!」


 恋する乙女の熱意はあまりにも熱く、雨を降らせた時とは思えないほど熱意に満ちている。


 師匠も罪作りな女だ。1人の女性悪魔をこんなにも狂わせてしまったのだから。


 ........いや、骸骨か。


 俺はそう思いながら、新たな修行の始まりを実感するのであった。





 後書き。

 これにてこの章はおしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 今回は骸骨に恋する悪魔のお話でした。新しい力が出てきたね。大体みんなが予想している通りだよ。

 ちなみに、呼び方が違うけど既に人類大陸で心理顕現を獲得している人がいます。ぜひ探してみよう‼︎

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