新たな力

村の手伝い


 師匠が人類の大陸に帰り、俺達は悪魔の村へと帰る。


 心理顕現という新たな力を身につけるまで、俺達はこの大陸から離れることは無いだろう。


 未だによく分かってない力だが、その強さが絶大だということは理解している。


 たかが雨粒に完封負けするのだ。もし、身に付けられれば、俺達はさらに強くなる。


「おー、お前さん達が村長が言っていた客人か。悪いな。畑の手伝いをしてもらって」

「気にしないでくれ。客人と言うか、しばらくの間は世話になるだろうからな。手伝いの一つや二つはするさ。じゃないと気まずい」

「ハッハッハ!!うちの息子も見習って欲しいものだよ!!俺は、アレックス。よろしくなジークさん、エレノアさん」

「よろしくアレックス。ジークでいいよ」

「よろしくお願いするわ。よろしくねアレックス」


 師匠が帰り、新たな修行が始まる事となった翌日。


 俺達は村の手伝いに来ていた。


 しばらくの間は家にもかえらず、この村に滞在するつもりだ。


 ウルは客人として俺たちを扱っているが、かなり長居する事になると思われるので村の人たちとの交流をある程度深めておきたい。


 特に、俺とエレノアは人間でありその姿は悪魔とは異なる。


 少しでも警戒心を解いてもらうため、信頼してもらい魔術を教えやすくする為に畑仕事を手伝うのだ。


 ガレンさんに許可はとってあるから問題は無いし、既に俺達のことはウルが村人達に伝えてくれているから不審者だとは思われない。


 ちなみに、デモットは昨日ナレちゃんを途中で放置してしまってその埋め合わせをさせられている。


 幾らデモットとは言えど、子供には弱いようだ。


 デモットは優しいからな。良い奴すぎて、逆に心配になるよ。


「オメーさん達。人間なんだってな?本で読んだことしかなかったが、本当に角や尻尾が無いんだな。こうしてみると不思議だぜ」

「種族が違うからね。俺達からすれば、悪魔の見た目の方が違和感を感じるさ」

「どうせ慣れるわ」

「ハッハッハ!!そりゃいつの日かは慣れるだろうな!!それじゃ、早速種を植えよう。この時期は種植えの時期なんだ。畑を耕すのは権能を使えばある程度楽なんだが、ここからが大変でな........村の池から水を持ってきては撒かなきゃならんし、疲れるんだよ」

「水の権能が使える悪魔はいないのかい?」

「いるにはいるんだが、この広大な畑全部に水を撒くのは難しいな。村にいる水の権能持ちの悪魔も少ないし、そいつらは支配に耐えきれず逃げ出してやってきたヤツらだから、権能の使い方がなってないんだよ。まぁ、俺にも言えることだがな!!」


 胸を張って言うことでは無いことを言うアレックス。


 この村は変わり者や支配から逃げてきた悪魔が集まる村。権能が使えるからと言っても、限界があるのだろう。


 強いやつはそもそも逃げ出さずに上を目指すだろうしな。悪魔という種族的に、


「権能の制御が上手くいかないのか?」

「と言うよりも、権能自体が弱い。多少なりとも戦える強さを持った悪魔ならともかく、この村にやってくるような奴は大体ロクな権能を持ってないのさ。酷い奴だと、指先から水がちょろちょろ出る権能しか持ってない奴もいる。そんな奴が街で生きていけると思うか?」

「悪魔は強さこそが正義。肉体的に優れてなければ、厳しいでしょうね」

「そういう事だ。そんな訳で、結局は肉体労働になるわけさ」


 今まで出会ってきた悪魔は、最低限戦えるだけの権能を持っていた。


 まだ魔術を覚える前のデモットですら、それなりに戦えるほどに。


 が、世の中にはほんとうに恵まれない力を持った悪魔もいるんだな。そこら辺は人間と変わらないのかもしれない。


 結局は、才能次第というわけだ。この大陸は、レベルを上げるにも最初の壁が大きいからな。


 悪魔も悪魔で大変そうだ。


「種植えをやったことはあるか?」

「ない。教えてくれると助かるよ」

「おうよ!!とは言っても、くそ簡単だぞ。土を指先でちょっと押して種を入れる。そして、優しく土をかければ終わりだ。本当は3人でやるつもりだったんだが、二人風邪をひいて困っていたんだ。本当に助かるよ」


 うーん。前世で見た種植えのやり方だな。


 これなら、あっという間に終わらせられるだろう。


 次いでに、魔術のすばらしさについて教えてあげるか。


「どのぐらい植えるんだ?」

「この田んぼ全部に。大体千粒ぐらいか?感覚はこのぐらい開けてくれ」

「なるほど。わかった。それじゃ、その種を全部こっちに寄越してくれ」

「........?俺もやるさ。自分の畑なんだし」


 アレックスは、俺達がその仕事そのものを引き受けてくれると勘違いしてしまったようだ。


 気持ちは分かる。彼らはまだ、俺の魔術を知らない。


 違うんだよ。俺一人の方が早いから、種を渡してくれと言っているのだ。


「悪魔には権能があるだろ?」

「ん?そりゃそうだが、どうしたんだ急に」

「俺達人間には魔術という力がある。村長から聞いたことは無いか?」

「あるぞ。昔からよく呟いてた。“魔術があればもっと楽になったものを”と言っていたな」

「そう。魔術とは本来生活を豊かにするために作られたものだ。いつしかその魔術は戦争に使われ、戦いに使われるようになってしまったけどな」


 俺はそう言うと、普段は全く使わない魔術を展開する。


 戦闘ではまるで役に立たず、それでいながら難易度がかなり高い魔術のため廃れてしまった田植えの魔術。


 どこで使うんだよと思いながらも覚えた魔術が、こんなところで役に立つとはな。


 師匠の元で頑張って修行した甲斐があったというものだ。


「“田植えの穴開けグラウンドオープン”」


 第四級土魔術“田植えの穴開けグラウンドオープン”。


 この魔術はかなり昔に使われた、田植えのための魔術だ。


 きっと魔術が使える農家の人が考えたのだろう。効果は、人の指先ほどの穴を均等な間隔で地面に開けるというもの。


 割と精密な魔力操作が必要なため、この魔術は第四級魔術に属している。


 千粒以上の種を植える場合にはかなり便利な魔術だが、使いどころがあまりにも限定的過ぎるのと第四級魔術が使えるやつならそもそも農家にならず、宮廷魔術師になると言う特大の欠陥を抱えている。


 考えたやつは馬鹿だ。農家がそんな魔術を使えるわけないだろ。


「へ?」

「ほら、次は種蒔だ。借りるぞ」


 俺は、一瞬にして穴の空いた畑に呆けるアレックスから種の入った麻袋を取り上げると、空に向かって投げながら魔術を行使する。


 隣では既にエレノアがその後の魔術を準備していた。


「これ程までスムーズに行かずとも、魔術はありとあらゆる場面で役に立つ。覚えておいて損は無いぞ。“田植えの風グラウンドウィード”」


 第四級風魔術“田植えの風グラウンドウィード”。


 この魔術も同じ本に乗っていた、種を植えるための魔術だ。


 風で種を浮かせて、指定の場所に落とすだけの魔術だがこうして使ってみると意外と便利だな。


 尚、先程の魔術と同じように、難易度が高すぎる上に限定的な場面でしか使い道がないので歴史の中に消えてしまった魔術だが。


 千粒以上の種が全て穴に収まり、さらに魔術で優しつ土を被せる。


 そしてエレノアが最後の仕上げをしてくれた。


「晴天の中、恵みの雨を降らせましょう。“田植えの雨グラウンドレイン”」


 大きな水弾が空に打ち上げられ、パン!!とはじける。


 そして、弾けた水しぶきが均等に地面を濡らし新たな種達の喉を潤した。


 もちろん、これも第四級魔術。


 これを考えついた農家の魔術師は天才だが、彼は凡人の気持ちを理解できないタイプだな。


 本来の魔術の使い方としては正しいが。


「これで種植えはおしまいだ。不安なら確認してくれ」

「え、もう終わったのか?俺達が午前中全部を使ってやったことがもう........?」

「これが魔術さ。便利だろう?」


 こうして、俺とエレノアは悪魔に魔術の素晴らしさの普及を始めるのであった。





 後書き。

 ムキムキオネェは単純にバグってるだけで、心理顕現は得てないゾ。アレは、なんかおかしいだけだ。

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