魔術バカ
あっという間にエレノアがリエリーを圧倒し、第三級魔術の応酬だけで決着がついてしまう。
お互いに殺す気でやっていないので、軽い手合わせ程度だが、それでも実力差はハッキリと現れただろう。
リエリーもオリハルコン級冒険者であり、彼女は相手との実力差をしっかりと理解したはずだ。
「エレノアの勝ちだな。良かった。楽しくなる前に終わって」
「楽しくなってたら、このダンジョンが吹き飛んできたかもと考えるとおぞましいな。ジーク、間違ってもエレノアを暴れさせるなよ?」
「大丈夫大丈夫。流石に第九級魔術とかは使わないだろうから」
「........第九級魔術って人種が扱える魔術だったか?俺の記憶では、御伽噺の魔術のはずなんだが........」
人種が扱える魔術だよ。なんなら数百年前に師匠が使ってるから。
人間の頃の師匠も第九級魔術を使っていたと言っていたし、今世に生きる人間が使えない道理は無い。
1人で行使するのは難しいかもしれんが、どこかの国では最後の切り札として持っている国もあるかもしれん。
........あれ?もしかして師匠が盗み出てきた魔術関連の本ってどこかの国の禁術だったりする?
確か、書庫からこっそり抜き出してきたとか言ってたよな。
一撃で戦争が終わるような魔術。多くの犠牲を払ってやっと使える魔術となれば、禁術に指定されていてもおかしくは無い。
師匠に魔導書を盗まれた国は、とんでもない騒ぎになっていたかもしれん。
国を滅ぼしうる禁術を盗まれたとなれば、その禁術の渡り先によっては自国が滅ぶからな。
師匠のせいで被害を被った人も多いんだろうなと思いつつ、俺は少しつまらなさそうに帰ってくるエレノアを出迎える。
第三級魔術を軽く撃っただけで勝敗が決したので、消化不良なのだろう。
「ちょっと物足りないわ」
「おつかれエレノア。オリハルコン級冒険者の中でも魔術に優れていると言われる“炎の魔女”を圧倒するなんて凄いじゃないか」
「決して弱くは無いけれど、それよりも強い存在を知っているとね........ジークや師匠と比べるとどうしても見劣りしてしまうわ」
「冒険者の中では“魔術師”と言えばリエリーと言われるぐらいなんだが、その歴史を覆したな。流石は“炎魔”と呼ばれるだけはある」
「まぁ、私よりも魔術に関してはジークの方が上なのだけれどね。純粋な魔術勝負ならジークにどうやっても勝てないわ」
エレノアはそう言うと、褒めろと言わんばかりに俺の後ろに回って手を回してくる。
俺も拒否する理由は無いので、大人しくエレノアから回された手を握ってあげた。
頭一個分の身長差があるから、エレノアにとって俺はいい頭の置き場になるんだよな。
長時間やられると、頭が痛くなってくるから勘弁して欲しいけど。
エレノアに負けたリエリーは、下を向きながらドボドボとこちらへ戻ってくる。
もしかして泣いているのか?自分の魔術に絶対的な自信を持っているらしいし、そのプライドがへし折られたら泣きたくもなるだろう。ちょっとプルプル震えてるし。
割と精神年齢も子どもっぽしいな........
「お疲れ様リエリーちゃん。エレノアちゃんとの勝負はどうだったかしらん?」
「す........凄かった!!私の魔術とは比べ物にならない生成速度!!それに魔力ロスも私よりも圧倒的に少なく、その魔力分を威力に変換できるだけの魔力操作!!思考力の高さだけじゃなくて、何度も何度も実践で磨いてきただけの風格がある!!しかも、それだけじゃなくて、魔術媒介を使わずとも私の魔術よりも高い威力を出せるだけの練度は最早神の領域!!魔法陣を構築するにはまず魔力を操作する必要があるから、その際に見える魔力のゆらぎで何となく相手のやりたいことが見えるけどエレノア
「そ、そう。それは良かったわねん」
物凄い長文+早口で捲し立てるリエリー。
見ろよ、あのマリーが軽く引いてるぞ。
負けて落ち込んでいたのかと思えば、エレノアの魔術に感動して震えていたのか。
その目の輝き方からしてよく分かる。彼女は魔術が心の底から好きなのだろう。
俺やエレノアは魔術はあくまでもレベルを上げる手段であって、魔術を極めるのが目的ではない。
しかし、彼女の場合はレベル上げは魔術を効率的に使うための手段であって、レベルを上げるのが目的ではないのだ。
目指す目的が違うとはいえど、彼女と俺は割と同類かもしれん。
「ジークみたいに目を輝かせるわね。魔王を見つけて楽しそうに経験値量産機を作っていたジークの目は、あんな感じだったわよ」
「マジか。あんなに純粋でキラキラと太陽のように輝く目をしていたのか。俺の心もまだまだ純粋だな」
「ふふっ、ジークの輝く目を見る度、私は“あぁ、魔物達は運がない”と思ってるわよ。事実、ジークが目を輝かせた時はその場から魔物が一匹残らず消え去るからね」
「そうか。ところで、エレノア
「あそこまで純粋で可愛い妹なら、構ってあげてもいいかもしれないわね。問題は、魔術の話しかされないということだけれど」
戦う前はエレノアの事を目の敵にしていたリエリーだったが、エレノアとの勝負でその実力を認めたのかエレノアの事を“お姉ちゃん”呼びしている。
エルフだから人間を下に見ているのかとも最初は思ったが、そんなこと無かったな。
ただ単純に二つ名が、被ってるから勝負しに来ただけのようだし。
エレノアも自分を“お姉ちゃん”と呼んでくれる存在が出来て少し嬉しそうだ。
構ってあげれば、魔術の話しかされないのは目に見えているが。
「........随分と懐かれたな。あの魔術バカを手懐けるのは難しいのに」
「魔術を極めたら多分行けるんじゃないか?第九級魔術まで使えるようになれば、“お兄ちゃん”って呼んでくれるだろ」
「無理に決まってんだろ。俺が使えるのは第四級魔術までだ。それに、俺は
グランドマスターは少しだけエレノアを羨ましそうに見ながらも、腰に刺した剣を軽く叩く。
そういえば、グランドマスターは剣士だったな。
現役時代はかなり強い剣士として、名を馳せていたんだとか。
そんなグランドマスターの過去について思い出していると、目をキラキラと輝かせたリエリーがとある魔法陣を持ってやってくる。
んー、魔法陣からして、第八級炎魔術っぽいけど少し違和感があるな。その右上の図式違ってない?
「ねぇ、エレノアお姉ちゃん!!この魔術についてなんだけど──────」
「魔術に関して言えば、私よりもジークの方が圧倒的に上よ。この“天魔”とも手合わせしてみたらどうかしら?」
「ん?そうなのか?」
「まぁ、魔術に関して言えば俺の方が上だろうな」
体術はエレノアの方が圧倒的に上だけど。
「そうなのか!!エレノアお姉ちゃんよりも凄い魔術の使い手となれば、是非とも見てみたいぞ!!私と勝負してくれ!!」
素直でいい子なんだろうけど、このまま行くと魔術の話を永遠とされそうな気もする。
魔術バカのリエリー。彼女もオリハルコン級冒険者なんだなと俺は思いつつ、その勝負を受けてやるのだった。
尚、エレノアにも勝てなかったリエリーが俺に勝てる訳もなく、軽く小手調べしただけで終わってしまった。
何故かエレノアの時のように“お兄ちゃん”とは呼ばれなかったものの、その日から彼女は魔術に関して俺たちをよく訪ねるようになる。
もちろんタダではなく、交換条件としてエルフの秘術とやらを教えてもらう約束を取り付けて。
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