空間魔術
アダマンタイト級冒険者パーティー“雷の怒”を助け出し、ブルーノおすすめの飯屋に行く。
ブルーノ達がオススメしてくれた店はかなり美味い料理を提供してくれ、俺もエレノアもかなり満足だったと言えるだろう。
しかも、代金は向こう持ちとなればさらに美味さは増す。
“人の金で食う焼肉は美味い”と言うが、正しくその通りであった。
そして次の日は観光。
この街に来てから即ダンジョンに潜ったので、一切この街の観光をしていなかったのを思い出し色々な所を見て回った。
個人的にはかなり楽しかったが、観光するついでに毎回探している魔術の本はあまり集められなかった。
数冊ある程度で残りは全部知っている魔術しか乗っていなかったり、そもそも魔法陣がガバガバ過ぎて魔術の本と言えないものだったり。
やはり、魔術関連の本は貴重なのかあまり出回らないな。
そんなこんなで楽しい観光を終えた俺たちは、また数日掛けて第六階層に戻っていていた。
「ここで実験するのかしら?」
「あぁ、第七階層は魔物を呼び起こすし、下手すると迷子になるからな。他の階層に関しても、迷子になりやすいしそもそも環境が悪すぎる」
「そう。一本道で迷いにくいこの階層が実験に適しているというわけね」
「そういう事だ」
何故第七階層に降りないかと言うと、今から魔術の実験をするためである。
俺達は普段、移動をするにあたって第六級黒魔術である“
普通に歩いたり馬車を使うよりかは圧倒的に早いのだが、空を飛んでも限界はある。
飛行機程の速さを出せれば良いのだが、今俺達の知っている魔術では無理だ。
という訳で、新たな移動手段の先駆けとして魔術を作ったのである。
「空間魔術。師匠が得意とする魔術ね」
「アレ、マジで理不尽な魔術だからな。目に見えない不可視の攻撃とか避けれねぇよ」
「黒騎士達をねじ切っていた時も、何をされたか全く分からなかったものね。魔術で空間に干渉して断裂を起こすとか言われてもピンと来ないし」
「想像しにくいよな。他の魔術と違って理論も全く違うから、空間魔術を新たに作るのは大変だったよ」
我らが師であるエルダーリッチが最も得意とする魔術である“空間魔術”は、その名の通り空間に作用する魔術だ。
詳しいことは省くが、要は空間と言う見えない概念に干渉して何らかの事象を起こすのである。
この空間魔術は他の魔術とは全く違う理論を持っており、新たに魔術を作るのはかなり難しい。
あまり開拓されていない分野という事もあって、情報も少ないのだ。
それでも、頑張って魔術を作った俺を褒めて欲しいぐらいである。
「それじゃ、早速使ってみましょう。私は何もしなくていいのよね?」
「大丈夫な筈だ。一応、闇狼を使って簡単な実験をした時は問題なかったしな」
「そう」
新たな魔術にワクワクするエレノア。
その顔は、初めて某夢の国のパレードを見る子供のように見える。
最近はレベル上げに毒されてきたエレノアだが、やはり魔術が好きなんだな。
暇な時は魔術の研究を一緒にしたりするし、その時もかなり楽しそうにしていた記憶がある。
俺は、あまりエレノアを待たせるのも悪いなと思い、魔術を行使する。
「“
俺の足元から魔法陣が浮かび上がり、前以外の空間が歪む。
歪んだ空間は目の悪い人が見ている景色のようにボヤけており、外がどうなっているかハッキリと見ることは出来ない。
しかも、グニャグニャに曲がっているから、外の様子を確認するのは無理だった。
「これが新たな魔術........視界が悪くなった事以外は特に変わらないわね」
「本領はここからさ。動くなよエレノア。下手に動くとどうなるか俺にも分からん」
「分かったわ。ジークの隣で大人しくしてる」
コクリと頷き静かにするエレノアを確認した後、俺は普通に歩き始める。
次の瞬間、一気に視界は移り変わり第六階層の入口付近に立っていたはずの俺たちは100メール程移動していた。
「凄いわね。一歩歩いただけでかなりの距離を稼いだわ」
「これが“
「でも、移動手段としては最適じゃないかしら?これに
感心するエレノアだが、俺はいったん魔術を解除してその場に座る。
やはり、初めて使う魔術は精神的に来るな。
「いや、まだ問題がいくつかあってな。今初めて試して分かったが、コントロールが滅茶苦茶難しい。普通に歩くだけで神経を擦り減らすぞこれ。障害物を避けながら歩くのが大変だ」
「それは大変ね。でも、空の旅なら問題ないんじゃないかしら?」
「多分移動が速すぎて、高い山があるとぶつかるぞ。歩いてこれなら、黒鳥に乗ってた時はもっと早いだろうしな」
「確かにそれはありそうね。黒鳥の方向転換は術者が指示を出さないとダメだから、しくじると怪我をするわ」
今はかなり慎重に歩いたから問題ないが、空の旅で使う時は更に気をつける必要があるだろう。
特に、山や急に出てくる空飛ぶ魔物なんかは警戒し続けないといけない。
そして、もうひとつ大きな問題点がある。
「後、これ多分酔う」
「........そうかしら?酔いそうには見えなかったけど」
「長時間使ってると多分酔うぞ。エレノアは別だろうけど、間違いなく俺は酔うな」
「あの私達の試験官を務めたギルド職員の様に?」
「あぁ、今日食ったもん全部吐き出すだろうな」
どうやら空間を強引に圧縮してその中を歩くという行為は、俺の身体が耐えきれないようだ。
これに関しては慣れるしかないが、慣れるまでが物凄く大変である。
まだ全く気持ち悪くないが、長年の経験が言っている。
これは酔うと。
「まぁ、両方とも慣れれば解決できる問題だ。最初はゆっくり行こう」
「そうね。とは言っても、私は何もしてないから頑張れとしか言えないけど」
「........俺が酔った時の介抱を頼むよ」
「ふふっ、任せなさい。吐くぐらいで引いたりしないわ」
エレノアの回答を頼もしく思いながら、俺は再度魔術を発動。
この空間魔術の最終到達点は“転移”である。1度行った場所に、簡単に転移できるようになれば今後の移動も楽になるだろう。
しかし、今の技術を知識では“転移”の魔術を作るのは不可能だ。
先ずは出来ることからコツコツと。
ズルしてレベル上げ出来るようになったとしても、こう言う所は努力が必要だな。
俺はそう思いながら、第六階層を高速で歩く。
「早いわね。景色が全く見えないわ」
「一応エレノアも注意しておけよ。大袈裟に避けてはいるけど、もしかしたら障害物が現れるかもしれん」
「了解よ」
尚、俺の予想は的中し、道半ばで死ぬほど酔って体調が悪くなった。
しかも、俺だけでなくエレノアも体調が悪くなり、2人で仲良く渓谷の隅で朝食を吐くはめになる。
良かった。体調まで直せる白魔術を習得しておいて。これで無理やり治しては、移動を続けることが出来るぞ。
結局、この日は俺もエレノアもグロッキーとなり、気分悪く第七階層へ降りる手前で夜を越すこととなのだった。
暫くはこんな日々が続きそうだな。しかも、この後黒鳥に乗ってこれをやると思うと嫌になる。
でもやらなければならない。俺は転移の魔術を作ろうとしたことを軽く後悔しながら、俺を抱き枕代わりにしてくるエレノアの手を握って眠るのだった。
【
空間を圧縮して移動速度を上げる、第七級空間魔術。
その速さはとてつもなく速く、外から見ていると瞬間移動をしているように見える程。しかし、扱いがとても難しく、空間酔いを起こすため慣れるのは物凄く時間がかかる。
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