雷の怒


 アダマンタイト級冒険者パーティーが追われていた魔物達は、呆気なく全滅した。


 久々に必要最低限の魔術を使っての狩りをしたが、以前よりも明らかに動きが良くなっているのが感じられる。


 やはり身体の使い方を学ぶと言う事がとても大事だな。


 俺はマリーに感謝をしつつ、後ろでへたり込む冒険者たちに声を掛けた。


「大丈夫でしたか?」

「........はい、ありがとうございます」


 大きな盾を砂漠に放り出し、膝を着いている大男はそう言うと何とか立ち上がる。


 フラフラとしていて見ているこっちが不安になるな。


「助かったぜ。ありがとう」

「九死に一生を得たな。ブルーノの運はまだ尽きなかったらしい。ありがとう」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。ところで、その頭から血を流している人、大丈夫ですか?」


 女の剣士に背負われた魔術師の格好をした女の人の頭からは、ポタポタと血が流れ続けている。


 このまま放置しておけば、彼女は近いうちに息絶えてしまうだろう。


 傷もそこまで浅くない。早めの処置が必要である。


「大丈夫........では無いな。助けて頂いた上にこのような事を申し上げるのは図々しいですが、ポーションを頂けないでしょうか。代金は相場の10倍で買い取りますので」

「はいコレ。上級の治癒ポーションよ。さっさと治してあげなさい。足りないなら追加で渡すわ」

「ありがとうございます」


 既にこうなる事を予想していたエレノアは、自分の腰にぶら下げた上級ポーションをブルーノと呼ばれた大男に渡す。


 恐らく、彼がこのパーティーのリーダーなのだろう。


 ブルーノは上級ポーションを受け取ると、傷を負った魔術師の傷を労りながら優しくポーションを掛けた。


「俺達はポーション使った事ないから知らないけど、あんな風に傷口が治っていくんだな」

「白魔術と余り変わらないわね。ジークが傷を治してくれる時と同じような光景だわ」

「だな。もしこれで治らなかったら俺が治療してやるか」


 そう思いながら処置が終わるのを待つ事数分。


 傷口は塞がり、何とか普通に話せるまで回復した魔術師は仲間に背負われながら俺達に頭を下げた。


「このような格好で失礼します。私達を助けて頂き、ありがとうございました」

「先程も言いましたが、困った時はお互い様ですよ。それで、何があったんですか?」

「実は──────────」


 話を纏めるとこんな感じ。


 第八階層を攻略していた彼らだったが、最上級魔物まで出てくる第八階層の攻略は困難で途中で撤退を決めたそうだ。


 しかし、その撤退途中で魔物の襲撃に逢い、持っていた貴重品やらを紛失。


 更に白魔術であるアイリスさんが魔物に襲われ、頭から血を流すこととなったそうだ。


 何とか第八階層から逃げてきたものの、第七階層も簡単に通れる訳では無い。


 案の定魔物に見つかり、何とか逃げているところで俺たちに助けられた。と言うのが結末である。


 少しでも俺達が気づくのが遅れていたら、もっと悲惨な目に会って居ただろうな。


 魔物に襲われた際に荷物を置いてきたそうだから、水や食料の確保ができずに死んでいた可能性は高い。


 実に運が良かったと言えるだろう。


「第八階層は最上級魔物も出てくるのか。楽しみだな」

「楽しみね。とは言っても、今回の狩りで第八階層に降りることは無さそうだけど」

「エレノアも俺も、今のレベル的に上級魔物を狩る方がいいもんな。自分のレベルに会ってない魔物でレベル上げすると、身を滅ぼす。それに、天使が最上級魔物に通用するかどうかも分からんし」

「そうね。通用しなかったら、また新たな魔術を作る羽目になるわよ」

「これ以上強い兵士を作らないとダメなのか........魔力消費量がとんでもない事になりそうだな」

「第八級魔術レベルまで行くかもね」

「勘弁してくれ。ただでさえ天使達のコストは重いってのに........」


 しかし、天使達の改良はいずれやる事になる。


 最上級魔物に勝てたとしても、破滅級魔物に勝てるとは到底思えないのだ。


 破滅級魔物相手に放置ゲーを始める時は、もっとコストの重い魔術を使うんだろうな。


 それこそ、エレノアの言う通り第八級魔術を。


 俺は、早めに魔術を作っておくかと思いつつ、一先ず彼らを安全な場所に移動させるのだった。



【ジャイアントワーム】

 ワームと呼ばれる、ミミズのような魔物の上位種。上級魔物の強さを持ちながら、その圧倒的な再生能力が特徴。しかし、頭を完全に潰されると再生が出来なくなるため、頭を細切れにするか叩き潰す事を意識して戦うと、割と勝てる。

 体長は平均で10~20m程。過去に観測された最大個体は150mを超えていた。



 質問したい事も程々に、俺達は周囲を警戒しながらオアシスのある場所まで戻ってきていた。


 ここは何故か近くに魔物が現れないので、ゆっくりと休む事が出来るだろう。


「改めて、ありがとうございます。俺達を助けて頂いた上に、貴重なポーションまで買い取らせて貰いまして」

「何度も言ってますけど、気にしないでください。ところで、お名前を聞いてませんでしたね。自己紹介と行きましょうか」


 よくよく思い出すと、自己紹介をしていない。これからどうなるかは分からないが、お互いの名前を知らないと何かと不便だろう。


 言い出しっぺの俺から自己紹介をしようかと思ったが、ブルーノが急に立ち上がった。


「アダマンタイト級冒険者パーティー“雷の怒”リーダー、ブルーノと申します。二つ名は“堅牢なる盾”。ブルーノとお呼びください」


“雷の怒”って言うパーティーなんだな。


 俺とエレノアもパーティーを組んでいるが、特にそう言うパーティー名は無い。


 考えるのも面倒だったしエレノアも特に気にしてなかったので、パーティー名を付けるという事など忘れていたのだ。


 まぁ、今後も付けることは無いだろう。パーティーと言うか、コンビだし。


 ブルーノの自己紹介が終わると、後ろで座っていた女剣士が座ったまま自己紹介をする。


「次はアタシの番だな。“雷の怒”所属、剣士のビルナだ。さっきは本当に助かった。ありがとう」

「“雷の怒”所属、魔術師のロックです。先程はありがとうございました」

「“雷の怒”所属、白魔術師のアイリスです。本当にありがとうございます」


 そう言って、全員が俺達に頭を下げてくる。


 さっきから何度も何度も感謝されると、少しうざったいな。


 もうええっちゅうねん。こっちは経験値貰えて素材回収出来ただけで十分なんよ。


 どちらかと言えば、彼らを助けるよりも魔物の経験値を回収する目的の方が強かったし。


 俺はそう思いつつも、彼らが本気で感謝しているのは分かっているので顔には出さない。


 俺はやればできる子なのだ。


「オリハルコン級冒険者“炎魔”エレノアよ。よろしく」

「オリハルコン級冒険者“天魔”ジークです」


 相手の自己紹介が終わったので、今度は自分達の番。


 サラッと告げた“オリハルコン級冒険者”の名に、雷の怒のパーティーは目を見開いて驚いていた。


「オリハルコン級冒険者........?新しく増えたのか?」

「俺達が半年近くダンジョンに潜っている間に、色々と変わったみたいだな」

「そりゃ、アレだけの上級魔物をバカスカ殺すんだから、疑いようがないわな。俺たちじゃ到底できない芸当だぞ」

「こんなにも可愛らしい子達がオリハルコン級冒険者ですか........今回のオリハルコン級冒険者は善き人ですね」


 ボソボソと仲間内で話し合う彼らが何を言っているのかは分からない。


 が、少なくとも疑われては居ないようだった。


 出会いが上級魔物を狩りまくって助けたと言うのが良かったな。お陰で疑いの目をつけられないで済む。


 そんなことを思いながら彼らの話し合いを待っていると、エレノアが服の裾を引っ張って耳元で囁いた。


「ねぇ、ジーク。そろそろ時間よ?」

「あ、もうそんな時間か。んじゃ、ちょっくら経験値稼ぎに行きますか」


 人助けも大事だが、経験値も大事。


 そろそろモンスタートラップが戻ってくるので、早速狩りに行くとしよう。


 ところで、ブルーノ達はどうやって帰るんだ?もしかして、それも面倒見ないとダメかな。


 ブッセルの街では力の強いアダマンタイト級冒険者に貸しが作れると考えれば、アリかもしれん........でもその間狩りができないんだよなぁ。


 俺は、狩りと人助けを天秤に掛けながらモンスタートラップに行く準備を始めるのだった。

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