オアシス


 モンスタートラップを見つけ、さらに狩りの効率が上がった俺達のレベル上げは加速した。


 レルベンのダンジョンと同じく二時間に一度復活するモンスタートラップは、復活した瞬間に踏む。


 傍から見れば頭のイカれた自殺志願者だと思われるだろうが、俺達は大量に現れる魔物を殺しまくる事こそ生き甲斐なのだ。


 正確には、大量の魔物を下ろした後にレベルアップする事が生き甲斐だが。


「本当にダンジョンって効率がいいわね。超楽しいわ」

「このままダンジョンに住みたいぐらいだな」

「魔境に行かなくてもいいんじゃないのかしら?多分圧倒的に効率はこっちの方がいいわよ」

「知ってるし、ちょっと揺らいでる。魔境がどれ程の魔物と効率を叩き出せるか分からないから、このままダンジョンを攻略してからでもいいんじゃないか思い始めてるよ」


 クリスタルスコーピオンの亡骸を集める光狼を待ちつつ、俺達は狩りの間の休息を楽しんでいた。


 第八級魔術二発で大体終わるこの狩りは、信じられないほど効率が良かった。


 もうこれだけでいいんじゃないかなと思うほどである。


 魔境に行くよりも絶対に効率がいいし、周囲への被害を気にしなくても問題ない。俺はエレノアの言葉に揺らぎまくっていた。


「どうする?このままダンジョンに潜り続ける?」

「んー、そうしてもいいけど、魔境は一応グランドマスターから依頼として出されてるからなぁ........」


 五大魔境の場所を教えられたあの日、グランドマスターはちゃっかり俺達に魔境の調査と魔物の排除を依頼している。


 狩場が無ければ扱いづらいが、狩場さえ用意してやれば嬉々として狩りに行くと思われてんだろうな。


 事実だけど。


「魔境の調査と可能な限りの魔物の排除ね。魔境には有用な薬草や鉱石、まだ見ぬ素材の宝庫だから出来れば安全にして欲しいと言ってた気がするわ」

「そうなんだよ。期限を決められてないからいつ行くかは俺達の自由なんだけど、出来れば魔物の経験値が効率的に貰える時に行きたいな」

「それはそうね。狩る価値の無い魔物を狩っても楽しくないわ」

「ゴブリンだろうが貴重な経験値だから狩れる時は狩るけど、楽しさはないよな」


 となると、放置ゲーで効率のいいダンジョンに天使達だけを置いて魔境に行くのがベストである。


 しまった、エグゼの街で狩場がなくて頭がどうかしてたな。


 冷静になれば、ダンジョンの方が圧倒的に効率がいい(真偽は不明だが)のに。依頼を受けてしまった為、魔境に足を運ばなくてはならない。


 とはいえ、まだ魔境をこの目で見た訳では無い。


 もしかしたらダンジョンよりも魔境の方が効率がいいかもしれないし、何より冒険者として旅をする二つ目の目的の“世界を見て回る”と言う事はできる。


 しかも、まだ人類が見たことも無い景色を見ることができると考えれば悪くないのかもしれない。


 俺もエレノアも観光は直ぐに飽きるタイプだけれどね。


「非常に名残惜しいけど、当初の計画通りに行こう。五大魔境も魔物が多いらしいし、破滅級魔物も居ると聞く。ダンジョンと比べるとどうかは知らないけど、悪くは無いだろ」

「そう。ジークの事だから依頼をブッチするかと思ったわ」

「........それも考えたけど、剣聖やマリーと同列に扱われるのが嫌だ」

「あぁ、それは嫌ね」


 心底嫌そうな顔をするエレノア。


 エレノアもあの自由人とオカマと同列に扱われるのは嫌らしい。


 俺達は常識人。受けた依頼をブッチする程、身勝手ではない。


「それじゃ、私がレベル70になるまではここでレベリングしましょう。さっさと上げで五大魔境をぶっ潰すわよ」

「いいね。それが終わればダンジョンに戻ってレベリングだ。次いでにここよりも難易度の高いダンジョンがあるかも聞いておくか」

「そうね。第一階層から上級魔物が出てくるような素晴らしいダンジョンがあると楽しいわね」

「いいなそれ。ダンジョンボスが絶望級魔物だったりしたら楽しそうだ。勝てるかどうかは分からんが」


 未だに見たことの無い“絶望級”。


 本でしか読んだことがないが、当時の人類がよく討伐できたなと思うような者達ばかりである。


 今の俺達でも多分勝てないんだろうなと思いつつ、俺は素材回収を終えた光狼に労いを込めて下顎を撫でてやるのだった。



【AoE】

「Area of Effect」の略語であり、「範囲攻撃」や「範囲効果」を意味する言葉。ゲームをやっている人なら多分聞いたことがあるはず。範囲攻撃は偉大なり。



 モンスタートラップを始末し終え、普段とは少し違ったルートを歩く。


 ココ最近はモンスタートラップから北に向かい、ある程度行ったあと西から回って帰ってくると言うルートで狩りをしていたのだが、たまには逆で行こうという事で南下しながらグルっと1周するルートを取っていた。


「特に南に移動したからと言って魔物の数が変わるわけじゃなさそうね」

「やっぱりモンスタートラップ以外の場所は均等に魔物が配置されているっぽいな。これならどこを回っても同じだな」

「砂だらけで景色も変わらないし、そこだけだ少し退屈ね」


 エレノアはそう言いつつ、砂の中から現れたクリスタルスコーピオンを第七級土魔術で粉々に砕く。


 地面の種類によって若干威力が変わる土魔法だが、エレノア程熟練していると大して威力が変わることは無かった。


 正しく弘法筆を選ばず。エレノアは、剣と白魔術以外は基本なんでもできる天才ちゃんだ。


「お見事」

「この程度はもうどうとでもなるわよ。多分、殴っても殺せるわ。疲れそうだし、戦闘の余波で他の魔物まで巻き込みそうだからやらないけど」

「別に魔物が出てきても狩るだけだからいいんだぞ?」

「やるなら纏めて一気に狩りたいじゃない」


 エレノアも纏め狩りの良さに気づいてしまったか。


 ザコ敵を纏めて一掃するのってすごい楽しいんだよな。


 昔やっていたmmoで金策の為だけにキャラ作って装備整えて、レベル上げしてザコ敵を纏めて一撃で狩れる様になった時はとても嬉しかったし楽しかった覚えがある。


 あれは一度覚えると中々抜け出せない快感だ。


 そんな事話しながら狩りを進めていると、視線の先に緑が見えてきた。


 最初は見間違いかと思ったが、どうも違う。


 僅かに緑色と青色が混ざるその景色は、砂漠ならではのアレであった。


「オアシスだ。このダンジョンにもあるんだな」

「オアシス........確か砂漠中で、水がわき樹木のはえている緑地だったわね。この代わり映えのしない景色の中だと、とても神秘的に見えるわ」


 砂の中から魔物が襲って来ないかを警戒しつつ、オアシスまで足を運ぶとそこは地獄の中にある天国だった。


 澄んだ青水と僅かな木々。これが砂漠の中でなければしょぼい湖としてしか見えないが、砂漠に囲まれたこの地だからこそエレノアの言った通り神秘的に見える。


 地面も固く、ここは野営地に向いてそうだ。


「砂しかないと思ってたけど、いい場所を見つけたな。てっきりモンスタートラップかと思ったけど違うみたいだし」

「残念ね。モンスタートラップだったら、二つを行き来してレベリングが捗ったのに」

「それはちょっと期待した」


 砂漠の中に不自然に広がる緑。


 かつてレルベンのダンジョンに潜った時は、このような不自然な場所にモンスタートラップがあったので期待してしまっていた。


 ダンジョン、失望したぞ。


 お前はもっと出来る子だろ。モンスタートラップ量を増やしやがれ。


「どうする?ここを拠点にする?」

「モンスタートラップの地点ともさほど離れてないし、いいんじゃないか?狩りを終えるまではここで寝泊まりするとしよう」


 少しの失望はあれど、オアシスは確かに安らぎをくれる。


 俺達はこの地点を拠点にする事に決め、狩りを続けるのだった。

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