モンスタートラップ、最高‼︎


 魔物の効率のいい狩り方を確立してから更に一週間後、俺とエレノアは景色が一向に変わらない砂漠を今日も歩く。


 魔の渓谷の時のように決まった拠点を持つ訳ではなく、適当に歩いて魔物を狩っては日が暮れたら野営の準備をする。


 これが俺達のルーティーンとなっていた。


 砂しかないこの階層には洞窟の様な雨風を凌げるような場所もないし、そもそも昼は暑くて夜は寒いこと以外は割と過ごしやすい気候である。


 突然雨が降ってくることも無いので、狩場としては最適そのものであった。


「この階層、砂以外何も無いから資源も集められないし、魔物は砂の中に潜っていて奇襲を仕掛けられるしで最悪ね。私達からすると最高の環境なのだけれど」

「しかも魔物との戦闘の余波で更に魔物が目覚めるからな。昼の暑さと夜の寒さまで加わるとなると、ほかの階層よりも厄介極まりない。ジャイアントワームとか、でかい上に暴れ回るから他の魔物まで呼び寄せるぞ」

「私達からすれば素晴らしい魔物だけれど、普通の冒険者からしたら会いたくない魔物ね。肉を落としてくれるから、食料としても優れてるのに........」

「意外と美味いんだよな。あの見た目さえどうにかなれば、もう少し美味く食えるんだが........」


 第七階層は俺達にとっては天国のような狩場ではあるが、単純に攻略や金を目的にする冒険者からすれば全く旨みの無い階層と言えた。


 だだっ広い砂漠に採取できる物が生えている訳でも無く、更に出てくる魔物は上級魔物のみ。


 見晴らしがいいため魔物に直ぐに気づけるかと思いきや、その全てが砂の中に潜っているため強引に叩き起すか地中を探知できる魔術が必要となる。


 もし上手く魔物を避けながらこの階層を歩いたとしても、全てを避けることは出来ない。そして、1度でも魔物と戦闘になれば、その振動で他の魔物も目を覚ますとなれば最悪と言える。


 普通に稼ぐだけなら、もっと上の階層で魔物を狩る方が圧倒的に良いだろう。


 このダンジョンは第七階層まで攻略され現在第八階層を攻略しているらしいが、その攻略している冒険者達は余程の物好きだ。


 狩りをして金を稼ぐだけなら、もっと効率が良くて命の危険に晒される可能性も低い手段があるのだから。


「ふふっ、ビッグセンティピードを初めて見た時のジークは酷かったわね。その気持ち悪さが余程嫌だったのか、即第八級魔術で消し飛ばしていたわ」

「あれは生理的に無理だ。思い出しただけで全身に鳥肌が立つよ」

「ただの百足なのに、ジークも可愛い所があるのね」


 エレノアはそう言いながら、俺の頬をつんつんと突いておちょくる。


 俺は抵抗しようか悩んだが、どうせ抵抗しても無駄だと悟りされるがままにする。


 普通の百足なら問題ないのだが、アレが巨大化したビッグセンティピードはどうも俺には無理だった。


 あの何百もある足がウジャウジャ動いている姿を見るととてつもない悪寒に晒されて虫唾が走る。


 エレノアも俺がガチでビッグセンティピードが無理だと悟ったのか、狩りの際は優先的にビッグセンティピードに向かって隕石を落とすようになっていた。


 こう言うさり気ない気遣いができる辺り、エレノアはできる相棒である。


 そんなこと話しながら次の狩場に向かって歩いていると、“カチッ”と何か音が聞こえる。


 俺だけではなくエレノアにもこの音は聞こえたようで、頬をつつくのを辞めて警戒態勢を取った。


「なんの音かしら?」

「周囲に人影は無いし、下から魔物が出てくる気配もない。となると、考えられるのは1つだろ」


 俺がそう言うと、砂の中から大量のクリスタルスコーピオンが姿を現し始める。


 その数は俺達が普段狩りをしている時よりも圧倒的に多く、ざっと見ただけで1000は軽く超えていた。


「囲まれたわね。いつもの事だけど」

「こんな所にあったんだな。モンスタートラップ。このダンジョンでは初めてか」


 人間を喰らう為にダンジョンが作り出した罠。


 以前、レルベンのダンジョンでも大変お世話になったモンスタートラップがここに来て帰ってきたのである。


 いつも以上に経験値が取れるな。これは楽しみだ。


 魔物に囲まれ、逃げ場もないというのにウキウキし始める俺とエレノア。


 俺もエレノアも、生粋のレベル上げ狂いなのだ。


「久々ね。これだけ数がいるなら、レベルが1つぐらい上がりそうだわ」

「今はレベル64だったか?これなら65に行けそうだな」

「ジークってレベル幾つだったかしら?」

「今は1つ上がってレベル72だな」

「........ジークに追いつく日はまだまだ遠そうね」


 エレノアはそう言うと、こちらに向かって行進を始めるクリスタルスコーピオン達に向けて第八級土魔術“隕石墜落フォールンメテオ”を容赦なく放つ。


 このダンジョンのいい所は、魔物が沢山出てきてくれる事よりもこうして周囲への被害を全く考えずに暴れられる事の方が大きいかもな。


 地形を変えてもいつの間にか元に戻っているし、周囲に人も居ないので誰かを巻き込むこともない。


 たった一撃で戦争を終わらせるとも言われる第八級魔術を、バカスカ使えるという点はかなり狩りの効率を高めてくれるのだ。


 空から舞い落ちる隕石が、鋼鉄よりも固い水晶を砕き潰していく。


 数こそ多いが、所詮は上級魔物。第八級魔術の前では、まな板の上の鯉に等しい。


「数が多いからまだまだ行くわよ」

「俺も同じようにやるか」


 エレノアの魔術行使に合わせて俺も隕石墜落を使用。


 豪雨の如く降り注ぐ隕石の雨は、クリスタルスコーピオン達を始末するまで止むことは無かった。


 モンスタートラップを踏んで僅か二分。気づけば、あれ程居たクリスタルスコーピオンは全て消え去り素材へと姿を変えている。


 やはり、圧倒的火力と範囲は全てを解決してくれるな。


「こんなもんね。ジークと合わせると凄まじい破壊力だわ」

「うわぁ、砂漠がベッコベコだ。あちこちにクレーターが出来上がってるな........そして、隕石に巻き込まれた水晶と魔石も壊れてる」

「第八級魔術の数少ない弱点ね。素材回収が難しいわ........それでもかなりの数が残ってるから、金にはなるわよ。掃いて捨てるほど持ってるけど」

「金はどれだけあっても困るもんじゃないさ。問題は、この大量の素材を持ち込んだ時に査定するギルド職員に恨まれそうって事だけど」

「........差し入れは買っておいた方が良さそうね」

「だな」


 エレノアがレベル70になれば一旦狩りをやめて魔境に行くつもりだが、その前に素材の換金がある。


 既にとんでもない程の数の素材が影の中に溜まっているが、一体どれだけの量になるんだろうな。


 下手をしたら、査定に一ヶ月とかかかりそうだ。


 もし膨大な時間がかかるのであれば、またダンジョンに潜るか。そして回収した素材を売って........あれ?ループしてね?


 恐ろしいことに気づいてしまった俺は、もし換金が長引きそうなら次来た時に金を受け取れるようにするかと思いつつ光狼に素材の回収を任せる。


 今日も陽の光に照らされた光狼君は、元気に砂漠を駆け回っていた。


「第八級魔術を連発しても特に疲れない程には成長したわね。まだまだ余裕があるわ」

「それは良かった。見た感じ闇狼も回収してないし、魔力はかなり上がったな」

「ジーク程では無いけどね。それでも、魔力回復も魔力の総量も昔に比べれば遥かに上がったわよ」

「俺も天使を展開しながら第八級魔術を使えるぐらいにはなったもんな」

「それだけ成長してるって事よ。さて、素材回収が終わったら行きましょう。ここには毎日来ることになりそうね」

「そうだな。と言うか、ここら周辺をぐるぐる回ることになりそうだ」


 こうして、この日からモンスタートラップを踏んでは、モンスタートラップが戻るまでの間砂漠で狩りと言う新たなルーティーンが生まれるのだった。


 モンスタートラップ、最高!!

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