やっぱりAOEは正義
第七階層に足を踏み入れてから一週間が経過し、ダンジョンでのレベル上げは順調その物だった。
最初こそ砂の中から現れる魔物を効率良く倒す方法を模索する毎日だったが、一度狩り方を確立してしまえば後はそれの繰り返し。
今では、容易に魔物を蹴散らすだけの簡単なお仕事となっている。
「それじゃ、行くわよ」
「おう」
砂漠のど真ん中、砂以外何も無い場所でエレノアは軽く足を上げて地面を踏みつける。
とても軽そうに見えるが、その威力は絶大。
大地は揺れて砂漠の砂が崩れ落ち始めた。
「最初は魔物探しも手間だと思っていたけど、やり方を考えれば普通のダンジョンよりも効率がいいかもしれないわね。大量の魔物を呼び寄せれるわ」
「擬似的なモンスタートラップを引き起こせるからな。ある意味俺達には合ったやり方だ」
砂漠のダンジョンに出てくる魔物達の種類は様々だが、そのどれもがある特徴を持っている。
それは、“砂の中に潜っている”事と“振動を受けると姿を現す”という事だ。
エレノアが巨大な揺れを起こした事により、砂の中で眠っていた魔物達は目を覚ます。
次から次へと砂の中から魔物が現れ、あっという間に俺達の周囲には魔物が集まっていた。
「それじゃ、抜け出したのは任せるわよ」
「任せろ。エレノアもデカイのを頼むぞ。ここの魔物は、一定距離離れてると砂の中に潜るからな」
「もちろん逃がさないわよ。折角の経験値が無駄になっちゃうわ」
エレノアはそう言うと、手を天に掲げる。
空に浮かび上がる巨大な魔法陣は、膨大な魔力を持ちながらも繊細にその効力を発揮した。
「砕け散れ“
師匠から教わった数少ない第八級魔術の1つ、第八級土魔術“
この魔術はその名の通り、隕石を墜落させる魔術である。
しかも、一つだけではない。小さな隕石が流星群のように降り注ぐのだ。
エレノアの切り札“
とてつもなく速いスピードで落ちてくる隕石の数々は、砂の中から目覚めて出てきた魔物達を脳天から叩き潰した。
舞い散る砂埃と鼓膜を破るのでは無いかと錯覚する程の爆音。更に、魔物と衝突した衝撃で襲いかかる衝撃は正しく隕石が墜落してきたと思わせる。
以前エレノアによって砕かれたクリスタルスコーピオンや、砂漠の捕食者と呼ばれるミミズのようなキモイ魔物である“ジャイアントワーム”、でかいムカデの“ビッグセンティピード”等様々な魔物がこの隕石によって死に絶える。
もしかしたら、恐竜もこんな感じで絶滅したのかもしれないと思いつつも俺は運良く生き残った魔物達に狙いを定めて魔術を放った。
「残りは貰うぞ“
闇の手に囚われ、闇の中で死に絶える魔物達。
どれほど大きくとも、力がなければこの手から逃れられるこそは出来ない。
この魔術から逃げたければ、師匠並の機動力と筋力を手に入れてくるんだな。
........師匠、骨だから筋肉無いけど。
「この魔術、第八級魔術の割には魔力消費量も少ないし、ある程度範囲指定もできるから便利だけどこう言う取り漏らしがあるのが不便ね。降らせられる隕石にも限りがあるから痒いところに手が届かないわ」
「それは仕方がないさ。これだけの広範囲を攻撃できて、更に対象指定を完璧にできるようになったら第八級魔術の領域を超えるぞ」
「第八級魔術も何かしら欠点があるものね。全てを理想通りにやってくれる魔術なんて、それこそ伝説に謳われる第十五級魔術になっちゃうかしら?」
視界に入る魔物全てを消し飛ばしたエレノアは、第八級土魔術に文句を言いつつ落ちていた素材と魔石を拾う。
俺も全く出番のない“
今回素材回収に光狼を使っている理由としては、闇狼がこの太陽の日元だとあまり元気が無いように見えたからである。
魔術的には一切影響が無いはずなのだが、心做しか元気が無さそうに見えたので昼間の間は光狼君達に頑張ってもらうことにしたのだ。
「やっぱりこの狼系統の魔術は最高ね。この子も可愛いわ」
「夜は明かりにもなるし、強化を施せばそれなりに戦える。影の中に入れないって点がネックだが、そこさえ除けば便利な魔術だよな。普通に可愛いし」
「闇狼もいいけど、光狼もいいわね。私も白魔術が使えたらいいのに」
エレノアは素材回収に向かおうとした光狼の一体を捕まえると、愛犬を溺愛する主人のように光狼を撫でる。
光狼は素材回収に行こうとするが、それをエレノアが止め続ける為困った表情でこちらを見てきた。
........この子には指示を変えてエレノアの相手をさせるか。
エレノアの可愛い笑顔を頑張って引き出してくれ。
素材回収が終わる暫くの間、光狼はエレノアの相手をする。
年相応の可愛らしいエレノアが見られるのは、この狼達と戯れている時が1番多い気がするな。
「それにしても、この狩り方は便利でいいわね。
「基本一撃で全てが終わるし、素材を回収し終えて魔物が湧いてくるまでの間は別の場所で同じ事をやればいいだけだしな。やっぱりAoEは正義だよ」
「........えーおーいー?」
おっといけない。ついゲーム用語を使ってしまった。
俺は慌てて適当な言い訳を考える。最近よく使う言い訳は“本で読んだ”だ。
これが多分1番丸い。下手に作ると面倒というのもあるが。
「範囲攻撃の別称だ。本に書いてあった」
「へぇー、変な呼び方ね。でも、ちょっとかっこいいかも」
「分かってるじゃないかエレノア。呼び方はカッコイイ方が良いよな」
「そうね。ところで、天使達はどうなの?上級魔物相手にも問題無く勝てているのかしら?」
「今の所は問題ないよ。流石に俺達のような狩り方は難しいけど、地面をぶっ叩いて砂の中の魔物を起こしたら、後は切りまくってお終いだ。単純に能力が優れているからか、特に苦戦している訳でもないな」
俺のもう一つの切り札である天使と堕天使は、既に第七階層に解き放たれて四六時中狩りをしてもらっている。
元々上級魔物に負けるようなステータスはしてない上に、砂漠の魔物はフィジカル強者が多くて単純な殴り合いが多い為天使達にとっては狩りやすい環境と言えた。
天使にとっては、魔術を駆使して戦ってくる魔物の方が厄介なんだよな。単純な殴り合いの方が圧倒的に強いのが、今の天使である。
まだ数があまり用意できていないので効率は少し悪いが、エレノアがレベル70に到達する前には、それなりの効率をたたき出せるようになっているだろう。
少しづつ効率を良くしていくこの感覚、昔を思い出すな。
まだ闇人形を使っていた頃、レベルが上がる事にかるスピードが早まっていくのを見て楽しかった記憶がある。
「叩き起される魔物からしたらたまったもんじゃないわね。急に殴られて起きてみれば、自分を狩り殺す天使にボコボコにされるのよ?」
「俺が魔物の立場ならブチギレるな。安眠を邪魔される時ほどイラつくものも無いぞ」
「そうね........もしかして、抱き枕代わりにしてるの邪魔だったりするかしら?」
上目遣いで不安そうにこちらを見つめるエレノア。
俺は肩をすくめると、光狼を撫でるためにしゃがんでいたエレノアの頭を撫でた。
「馬鹿言え、嫌ならそう言ってるよ........まぁ、トイレに行きたいのに離してくれない時はあるけど」
「ふふっ、できる限り気をつけるわ。寝てるからどうしようもないけど」
「どうにかしてくれ。この年でお漏らしは恥ずかしすぎて死ねる」
精神年齢50に近い俺がお漏らしは、流石に恥ずかしすぎて自殺を決意してしまう。
エレノアは“善処するわ”とだけ言って、微笑むのだった。
それ、“無理”と同意義だからね。
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