また会ったね
第四階層でエレノアが海水を飲み盛大に噎せながらも第四階層を突破した俺達は、第五階層も難なく突破して第六階層に来ていた。
第五階層は吹雪が吹き荒れる雪山であり、一寸先は闇という言葉がピッタリな程前の見えない白い世界だったが魔術を駆使する俺達にとってはなんの障害にもなり得ない。
このダンジョンの特徴として、北に進めば必ず次への階層があるという事も相まって迷うことすらなかった。
魔術を使えなかったらと思うとゾッとするが、体温を維持する為の結界や周囲を把握出来る魔術が使えれば特に問題は無いな。
問題は、その魔術はどれも第五級魔術なのでごく一部の魔術師しか使えないという点だが。
そんな訳でやってきました第六階層。
新たなる未知の世界に心躍らせる俺達だったが、第六階層に来て直ぐにその顔は曇っていた。
「どこか見覚えのある地形ね」
「そうだな。ドルンにある魔の渓谷の様な地形だ。空は青いのに陽の光が入って来ない辺りとかそっくりだな」
高く聳え立つ岩肌と、真っ暗とは言わずとも暗い道。
第六階層は、深き渓谷がメインの場所だった。
つい数ヶ月前にもこのような場所で狩りをしまくっていた俺達からすると、新鮮味が薄れてしまう。
海や雪山はそれなりに楽しかったんだがなぁ........
見慣れた光景に少しガッカリする俺とエレノアは、黒鳥の背中に揺られながらサクサクと渓谷を飛んでいく。
渓谷のいい点は、基本一本道なので迷うことが無いぐらいであった。
「ここからは上級魔物もちらほら出てくるのよね?」
「そう聞いてるな。どんな魔物が出てくるかは知らんが、上級魔物が出てくるとは聞いているぞ」
「なら、少し体を動かしたいわ。ココ最近は移動ばかりで体が鈍ってるもの」
「確かにそうだな。少し降りて、魔物と戦うか。ここなら経験値も多少期待できるだろうし」
このダンジョンに来るまでの三ヶ月間と、ダンジョンに潜ってからの5日間。魔物と戦うことなく、日課の手合わせ程度しか動いていない為身体が鈍っている。
エレノアの言う通り、少し動いた方がいいだろう。
俺は魔術で明かりを展開しながら、黒鳥に命令を出して適当なところに着地する。
すると、直ぐに魔物が寄ってきた。
「さすがはダンジョンね。あっという間に魔物と出会えるわ........すごく見覚えのある魔物だけど」
「何となく予想はしてたけど、やっぱり出てくるんだな。ゴールドゴーレム」
魔術の光を反射させ、金色の輝きを放つは黄金のゴーレム。
魔の渓谷で少し相手にしたことのある中級上の魔物であり、その強さはアダマンタイト級冒険者に匹敵するとまで言われているはずなのだが、俺達からすると雑魚以外の何者でもなかった。
ゴーレム系統の魔物は闇狼に致命的に弱いのだ。魔石を砕くだけであっという間に死んでしまう。
エレノアはどこか懐かしそうな顔をしながらトンファーを取り出すと、クルクルと回しながら散歩をするような気軽さでゴールドゴーレムに近づいて行った。
「マリーから教わった体の使い方を復習するいい機会ね。少し遊んであげるわ」
「魔術を使わず、殴り倒すのか?」
「ゴーレムなら少しは耐えてくれるでしょ........多分」
エレノアはそう言うと、攻撃範囲内に入ってきて拳を振り上げるゴールドゴーレムに容赦の無い一撃を叩き込む。
ゴン!!(エレノアがゴーレムを殴る音)
ヒュー(殴られたゴーレムが吹っ飛び風を切る音)
ドガァァァァン!!(渓谷の壁に叩きつけれるゴーレムの音)
武神の手解きを受けたエレノアの一撃は以前よりも格段に威力と速さが上がっており、たった一撃でゴールドゴーレムの硬い装甲をベッコリと凹ませていた。
防御力に優れたゴールドゴーレムだから凹むだけで済んでいるが、並大抵の中級上の魔物が相手なら今の一撃で死に絶えるだろう。
それ程までに、エレノアの拳は重かったはずだ。
「うん。中々ね」
「ゴーレムって物理耐久が高いから魔術で倒すのがセオリーなんだがな。エレノアには当てはまらないみたいだ」
「ジークもこの程度はできる癖によく言うわ。その腰に提げた剣で一刀両断ぐらいできるでしょう?」
「多分。やった事ないから分からんけど」
ゴールドゴーレムを殴ったのが楽しかったのか、少し興奮気味のエレノアは俺と会話しつつもゴールドゴーレムにトドメを刺しに行く。
瞬間移動したのかと見間違うほどのスピードでゴーレムに近づいたエレノアは、ゴールドゴーレムの顔面に思いっきりトンファーを叩きつけてその顔を無慈悲にも叩き潰した。
ゴーレムと言えど、頭を潰されてしまえば生命活動は維持出来ない。頭と身体が繋がっているからこそ、ゴーレムは魔物として機能するのだ。
死に絶えたゴーレムは素材に変わり果て、金の延べ棒と魔石だけを残して消え去る。
久々にダンジョン特有の素材だけを落とす光景を見たが、いつ見ても不思議だな。
全く原理がわからん。
ダンジョンの多くが未だ解明されていない謎だらけのものだと俺は改めて感じながら、素材を持って帰ってくるエレノアを褒める。
ドヤ顔のエレノアの顔には“褒めろ”と書かれていた。
「凄いじゃないか。ゴールドゴーレムも魔術無しで倒せるまでに成長したな。レベル上げも重要だけど、こう言う技術も磨いていかないとな」
「そうね。技術だけでレベル1~2の差を覆せてしまうわ。もっと精進しないとね。さて、次はジークの番よ」
そう言って指を指す方向には、こちらに向かってくるゴールドゴーレム君の姿が1つ。
仲間がボコボコにされて素材へと変わったと言うのに、蛮勇にも死にに来たゴールドゴーレム君には斬撃をプレゼントしてあげよう。
「行ってくる」
「気をつけて」
腰に提げた剣を鞘から抜くことなく構え、居合いの体勢を取る。
武神から教わった体の動かした方を思い出しつつ、全身をだらりと脱力するとゴールドゴーレムが間合いに入ってくるのを待った。
後三歩、二、一........今。
解き放たれた閃光の斬撃は、的確にゴールドゴーレムの心臓部にある魔石を切り裂きながら身体ごと真っ二つに叩き切る。
アダマンタイトの剣を使っているというのもあるが、武神に教わった体の動かし方を駆使した斬撃は硬いはずのゴールドゴーレムを豆腐のように滑らかに斬り裂いた。
全身をバネのように使う事が、しっかりと出来るようになって来たな。
エレノアとの手合わせ中も意識しながらやっているが、徐々にスムーズにそして無意識に出来るようになってきている。
この調子で頑張るとするか。
「凄いわね。ゴーレムが真っ二つよ」
素材となったゴールドゴーレムを見たエレノアが素直に褒めてくれる。
個人的にはゴールドゴーレムを殴り殺せる方が凄いと思うが、人間誰しも自分に出来ないことが凄いと思ってしまう生き物である。
「流石にミスリルゴーレムをここまで綺麗に斬るのはまだ無理だろうけどな。それでも、少しは上達してるだろ」
「その内、斬撃を飛ばせるようになったりしてね」
「その時は、剣の腕だけでもオリハルコン級冒険者になれそうだな。次の目標は鉄剣を使ってゴールドゴーレムを斬ることにでもするか」
「........そういえば、剣聖は鉄剣でミスリルゴーレムを斬り裂いてたわね」
そうなんだよ。あの爺さんは、ただの鉄剣でミスリルゴーレムを真っ二つに切り裂いているのだ。
アダマンタイトの剣を使っている俺とは訳が違う。
あの領域に立つのは、まだまだ先になりそうだなと思いつつ俺達は準備運動がてらゴールドゴーレムを蹂躙するのだった。
ちなみに、ちょくちょく出てくる上級魔物は案の定ミスリルゴーレムだった。今回も彼らは俺達の経験値になってくれるらしい。
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