レッツゴーダンジョン
ハンナギルドマスターからの依頼を断り、俺達は抑えきれないレベル上げ欲を何とか抑えながらダンジョンの中にやって来た。
ダンジョンに入るための検問(冒険者かどうかを確認するため)には数多くの冒険者がいたが、ランク別に分かれている上にギルドマスターから“また疑われるだろうから”という事で貰った身分証のお陰でかなりスムーズに中に入ることが出来た。
「現在第八階層まで攻略されているんだったかしら?このダンジョンは」
「正確には第八階層を攻略中だな。第六階層から上級魔物が姿を現し始めて、第七階層では上級魔物が溢れているらしい」
「となると、第七階層に向かうとこが最初の目的になりそうね。何日かかるのかしら」
冒険者ギルドで買った第一階層の地図を広げながらダンジョン内を歩くエレノアは、茂みの中から襲いかかるゴブリンを見向きもせずに蹴り飛ばして首をへし折る。
行く先々で見かけるゴブリンだが、彼らを見かける度に倒し方が雑になってるな。
無惨にも散り行くゴブリンの素材すら回収せず、サクサクと歩くエレノアと俺。
多くの冒険者が集まる第一階層は、若干長めの草が生い茂る草原だった。
青空の元爽やかな風が吹き抜ける爽快感あるこの階層は、今まで森やら渓谷やらジメジメとした雰囲気を歩いてきた俺達にとっては新鮮なものである。
「地図を見る限り、相当広いわね。普通に歩いていたら、第二階層に行くだけで数日かかりそうだわ」
「道理で大量の食料やら装備品を持ち込む冒険者が多かった訳だ。稼ぎのいい階層にまで行くだけで、かなりの資源を消費するんだからな」
「私達はあまりその点を気をつける必要は無いけどね。このカバンの中にある物だけで半年は生きられるだろうし、ダンジョン内でオークなんかを見つけらたら食料になるわ」
「これは数ヶ月はダンジョン内で生活することになりそうだ」
「ドンと来いよ。レベル上げのためなら、10年だってここに潜ってやるわ」
「それよりも先に、五大魔境に行くけどな」
この帝国のダンジョンに来た理由は、放置ゲーの効率を上げるため。
どれだけ魔物を狩っても枯渇することの無い狩場を求めて来たのである。
事前にエレノアとはどの程度狩りをしたら次の目的地へ向かうかを決めており、エレノアのレベルが70を超えたら移動する気であった。
ダンジョンの魔物は永遠に狩れるが、ダンジョンの外にある魔物達は死んだら復活しない。
誰かに貴重なで膨大な経験値を取られる前に、俺達が先に経験値を獲得するのだ。
「そうと決まれば、さっさと行きましょう。第三階層までの地図は買ったし、忘れ物は無いわよね?」
「んー、問題ないかな。旅に必要なものは壊れてもいいように複数買ってあるし。食料も水も問題なし。よし、なら第七階層に向けて出発するか」
俺はそう言うと、第六級黒魔術“
人目に付く場所ではあるが、別に誰かに迷惑をかける訳でもないので問題ないだろう。
街に降りる時とは状況が違うのだ。
「第七階層........楽しみね」
「天使達で狩れるかどうかが不安だな。上級魔物と言っても、相性差があるだろうし」
「その辺は大丈夫なんじゃない?使える魔術を組み変えればいいのよ。そこまで難しくはないでしょう?」
「確かにそうだな。エレノア天才か?」
「ふふん。私は何時でも天才よ」
俺に褒められて機嫌を良くするエレノア。
多くの冒険者の視線に晒される中、俺達は上級魔物が溢れているであろう第七階層に向けて出発するのだった。
【帝国のダンジョン】
ジュラール帝国内最大のダンジョン。その規模の大きさは全て合わせるとジュラール帝国を大きく上回ると言われており、万が一の時にはダンジョンで籠城することすらも考えられている。
尚、世界に散らばるダンジョンの中では中の下程度であるのだが、それを知る者は少ない。
大陸最大とまで言われるジュラール帝国。
2000年という長い歴史の中で、蔓延る悪も多い。
“
ジュラール帝国に拠点を置く彼らは、国内屈指の凶悪犯罪者の集団でありそれぞれの部門に別れて様々な悪事を働きながら世界に混沌をもたらそうとしている。
過去にレルベンのダンジョンで魔物を操ろうとしていたもの達も、ここに所属するものだ。
ジュラール帝国からかなり離れたシャールス王国にまでその手が伸びているとなれば、
「おい“妖蟲”。まだ計画は始まらんのか?」
「そう言うなよ“魂売”。シャールス王国でアタシの部下が捕まったんだ。既に人員を送り出して取り返したが、どうも実験は失敗したらしい」
「........ふむ。流石に無謀だったのでは?」
「いや、最初は上手くいった。報告によれば、モンスタートラップからある程度離れた地点で急に魔物達が死んだらしい。私たちがダンジョンの事を知らなすぎたのが原因だと思われるね」
「ダンジョンは未知な部分が多い。やはり、魔境を使った方がいいんじゃないか?」
「馬鹿言え。使える魔境は少ないし、相当な手間がかかるんだぞ。私の戦力だって殆どがダンジョン産だ」
ジュラール帝国の帝都。陽の光が当たらない闇の中で、定期的に開催される幹部会。
円卓を囲み話をする彼らだが、基本変人か頭の可笑しい者しか集まらない為空席も多かった。
その中でも律儀に会議に出席している5人は、混沌を世界にもたらす計画の一つについて話し合う。
議題は“ダンジョンを使った都市破壊計画”である。
紫と赤色を融合させた髪色と緑色の目をしたショートボブの女“妖蟲”は、シャールス王国のダンジョンで得られた資料を見ながら深くため息を着く。
「これは“発明家”に任せるしかねぇな。私はあくまでもサンプルを提供するだけ。それを実用的な魔道具に落とし込むのはアイツの仕事だ........ってか“発明家”は?」
「あの馬鹿なら来てませんよ。なんでも、“天啓か降ってきた!!私の脳内に素晴らしいアイディアが!!”とか言って、2日前から魔道具作りに励んでます」
「今回は私とアイツの仕事だろうに........何とかならんのか?あの奇行は」
「何とかなったら苦労してない。あの頭の可笑しさのお陰で、今の頭脳があるんだろ」
「だったら要らねぇよそんな頭脳。あぁはなりたくないもんだ」
混沌たる帝が使う魔道具全般を作る“道具屋”。その幹部である“発明家”と呼ばれる彼は、混沌たる帝の中でも頭ひとつ抜けて変人だった。
自分が緊急で開いた幹部会で、急に閃いたとか言ってドタキャンするような奴である。
その奇行に振り回される幹部達の身にもなって欲しいが、どれだけ苦情を言おうと彼が直る訳も無い。
「他の計画はどうなってる?」
「順調だが........まだまだ時間が掛かる。発明家次第な所はあるな」
「........チッ、なら暇つぶしに戦力集めしに行くか」
「ダンジョンに行くのか?」
「あそこに行けば間違いないからな。上級魔物も多いし、戦力としては十分だ。来る日のためにコツコツ頑張るさ」
“妖蟲”はそう言うと、席を立って部屋を出る。
その様子を見送った幹部の1人が、ポツリと呟いた。
「意外と努力家なんですよね。あの人」
「才能に溺れないいい例だ。道を踏み外したこと以外はな」
「それ、私達にも言えますよね?」
「言えるな。でも、ここ以外に居場所がなかったり純粋に“悪”だったり人それぞれだ。ともかく、俺達も解散しよう。この後仕事もあるしな」
彼らが惜しむべきは、この時“情報”を担当する者が幹部会に出ていなかった事だろう。
既に“妖蟲”が向かったダンジョンには、新たなるオリハルコン級冒険者が居ると知っていれば、ダンジョンに向かう彼女を止められたかもしれないと言うのに。
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