ブッセルの冒険者ギルド
ジュラール帝国のダンジョンのある街ブッセルにやってきた俺達は、検問に引っかかると言うアクシデントがありながらも無事に宿を取って翌日を迎えた。
何時もならば目的地に着いた翌日は観光になるのだが、ここ暫くレベル上げができていなかった俺とエレノアは我慢ができず今日からダンジョンに潜るつもりである。
やはりレベル上げの魔力には勝てなかった。
現在の俺のレベルは71。魔の渓谷で頑張ってくれている闇狼から得られる経験値と、ゴブリンだろうが経験値を寄越せと言う強欲な俺の頑張によって、何とかレベルが1上がっている。
エレノアはレベル62。グランドマスターからの依頼で上級魔物を多少狩れたが、レベルが一つしか上がっていない。
俺とのレベル差は9にまで広がっている。
「オリハルコン級冒険者にもなると、冒険者ギルドに顔を出さないといけないのが面倒ね」
「高ランク冒険者が来ましたよってギルドに伝える必要があるからな。ギルドとしても、高ランク冒険者がいるかどうかは把握しておきたいんだろ」
「さっさとダンジョンに行きたいわ」
「挨拶が終われば直ぐに行けるさ」
早くダンジョンに行きたいエレノアと一緒に朝日に照らされながら冒険者ギルドに行くと、そこには朝から元気に依頼を取り合う冒険者達が目に入る。
ダンジョンがある街のためこの恒例の光景を見ることは無いと思っていたが、どうやらこの街では違うようだ。
「この街でもこの光景が見られるのね」
「レルベンの街では余り見なかった光景だな。それにしても暑苦しい。あの中にだけはいつも入りたくないと思うよ」
「ジークは背が小さいからね。あの中に入ったら潰されちゃうわ」
「人が気にしている事を........」
「ふふっ、背が小さくてもいいじゃない。ジークはカッコイイわよ」
「抱き枕には丁度いいからだろ?」
「否定はしないわ」
機嫌よく応えるエレノア。
オリハルコンゴーレムとプライドバトルを始めた辺りから、エレノアはよく俺と一緒に寝るようになった。
オリハルコンゴーレムの経験値をくれる代わりに抱き枕となる取引だったのだが、期限を決めていなかった為、都合よしとエレノアが俺と一緒に寝るのである。
まぁ、俺も断る理由は無い。
唯一の理解者であり、良き相棒の機嫌が良くなるのであればそれでいいかなと思っている。
そんな事を思っていると、昨日出会った丸メガネのギルド職員が俺達を見つけて慌てた様子で近づいてきた。
その額には汗が浮かんでおり、何やら緊張しているように見える。
「“天魔”様と“炎魔”様ですね?昨日は対応できず申し訳ありませんでした」
「ん?何の話ですか?」
対応出来ずって、この人が俺達に対応する義務がある訳でもないだろうに。
俺が疑問に思って首を傾げると、ギルド職員は丸メガネを落としそうになりながらも頭を下げる。
「........お気遣いありがとうございます。早速ですが、ギルドマスターとの面会をお願いしたいのですが........」
「分かりました。案内よろしくお願いします」
丸メガネのギルド職員は、ズレた丸メガネを掛け直しながらも“こちらです”と言いながらギルドの三階に案内してくれる。
ダンジョンが聳えるギルドと言うことだけあって、冒険者ギルド本部ほどでは無いもののそれなりに大きなギルドだった。
「やっぱり大きなギルドは大理石を使うんだな。これだけでかなりの金が吹き飛びそう」
「ギルドの建物にも基準があるかもね。今まで似たような構造の建物ばかりだし」
「確かにそうだな。その種族毎に合わせた作りにはなっているが、大きく違う点は無いか。多分、他の冒険者ギルドに行っても迷わないようにする為の措置だろうな」
「そう考えると、ランク事に部屋が別れてた本部は異質ね。人が多すぎるからってのもあると思うけど」
「だな」
冒険者ギルドの構造について話していると、ギルドマスターが居ると思われる部屋に辿り着く。
丸メガネのギルド職員が扉をノックすると中から“どうぞ”と声が聞こえた。
「失礼します」
丸メガネのギルド職員の後に続いてギルドマスターの部屋に入る俺達。
そこに居たギルドマスターは、妖艶な雰囲気を持った女の人だった。
ウェーブのかかった紫の長髪と薄い赤目。キセルを持ち、魔術師特有の帽子を被っている。
「ふぅん?子供のような見た目とは聞いていたけど、確かに子供ねぇ........その圧倒的な圧が無ければ。ご苦労さま。下がっていいわよ」
「失礼します」
丸メガネのギルド職員は頭を下げると、部屋を出ていく。
俺達はギルドマスターにキセルでソファーを指され、その指示に従って座った。
「初めまして。新たなるオリハルコン級冒険者のお二方。私はこのブッセルの街のギルドマスターハンナよ。よろしく」
「“炎魔”エレノア。よろしく」
「“天魔”ジークです。よろしくお願いします」
自己紹介に自分の二つ名って言わなきゃダメなのかな?すごく恥ずかしいんだけど。
俺はそう思いつつも、“天魔”と名乗る。
もう少し、この二つ名になれるには時間が掛かりそうだ。
ハンナと名乗ったギルドマスターは、一度キセルを吸い煙を吹くとゆっくりと背もたれにもたれ掛かる。
これだけで色っぽく見えるのだから、男のギルド職員は大変そうだ。
俺は全く興奮しないが。
「新たなオリハルコン級冒険者がどんな子か楽しみだったの。随分と可愛らしい子達で安心したわ。あの剣聖のクソジジィみたいな奴だったらどうしようかと思ったもの」
「剣聖をご存知で?」
「一応、オリハルコン級冒険者全てに会ってるわよ」
へぇ、オリハルコン級冒険者全員に会っているのか。
そして、ここでも問題児扱いされる剣聖。やはりアイツか1番ヤベー奴なのでは?
本人は絶対に認めないが、常識の無さは今まで見てきた人達の中でも郡を抜いている。
マリーも酷かったが、彼女は男をナンパすることを除けば比較的常識人だった。
「それで、この街に来た理由は何かしら?やっぱりダンジョン?」
「えぇ、ダンジョンでレベル上げしようかと」
「そう。頑張りなさい。所で、ここに滞った依頼書があるのだけれど........」
ギルドマスターはそう言うと、紙束の依頼書を取り出して机の上に置く。
またこれか。
俺達が心底嫌そうな顔をすると、ギルドマスターは申し訳なさそうに両手を合わせで頭を下げた。
「そんな嫌そうな顔をしないで!!お願いします!!この依頼を受けて下さい!!」
余程滞っているのか、割と真剣に頼み込むギルドマスター。
しかし、その内容はミスリル級冒険者でも問題なくクリア出来そうな内容ばかりだった。
オークの討伐や、ある薬草の採取。
ここが故郷の頃なら受けていただろうが、今はレベル上げが最優先。正直全く受ける気にならない。
この街にもミスリル級冒険者ぐらい居るだろうに。
「........この程度の事を私達に頼むのかしら?」
「いやー、それがですね。このギルド、ダンジョンに潜る冒険者が多すぎて誰も受けてくれないんですぅ」
「さっき1階では多くの冒険者が依頼を取り合っていたようだけど?」
「あれは低級の冒険者ばかりなのよ。流石にオークを銅級冒険者に任せる訳にも行かないでしょう?」
昔の俺達のようなランクと実力が合ってない冒険者出ない限りは無理だな。
さて、どうしたものか。見た感じ、この依頼は特に急を要するものでは無い。
今すぐに討伐しなければ不味いと言う依頼ならば、オリハルコン級冒険者として受けるのもやぶさかではないが、これに関しては他の冒険者に任せても問題ないものである。
というか、ギルドマスターが出向いてもなんとかなるだろう。
この人、感覚的にはアダマンタイト級冒険者レベルで強い。1人でオークとかシバけそうである。
“お願い”とチラチラこちらを見てくるギルドマスターだが、エレノアがパシャリと言い切った。
「断るわ。この程度ならミスリル級冒険者やアダマンタイト級冒険者を使いなさい」
「........やっぱりダメ?」
「私達にも依頼を選ぶ権利はあるわ」
「うぅ........残念だわ」
しょんぼりとするギルドマスターだが、例え指名依頼であっても断る権利が冒険者にはある。
妖艶な雰囲気とは裏腹に、コロコロと表情が変わる面白い人だなと俺は思いつつ、俺と同じ判断をしたエレノアを心の中で褒めるのだった。
惑星デカくね?というコメントが多いですが、デカイです。魔物やらなんやら沢山いるからね‼︎重力?ここは異世界です。
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