お買い物(デート)


 冒険者ギルド本部エグゼの街に帰ってきてから4日後、無事にオリハルコン級冒険者に昇格した俺達は一日休みを取って買い物に来ていた。


 オリハルコン級冒険者に昇格することは直ぐに俺たちに伝えられ、一緒に行動を共にした武神と剣聖そしてギルド職員の2人と囁かなお祝いパーティーを開いた。


 なんやかんや言っても、一ヶ月以上の旅でそれなりに仲が良くなった俺達。


 この日ばかりは無礼講であり、ギルド職員達も楽しそうに飲んでいたので個人的には楽しいパーティーだったと言えるだろう。


「ここね。剣聖が前に言っていた大きな店は」

「ここで冒険者として必要なものは全て揃う上に、宝石やら希少品までそろう素晴らしい店らしいな。オリハルコン級冒険者になってから行った方がいいって言われたら、後回しにしてたんだよな」

「個別対応してくれるんだっけ?この人混みの中で買い物するよりかは落ち着けるわね」


 そんな訳でやってきた大きな店。


 初めてこの店を見た時と同じく人でごった返しているこの店には、ありとあらゆる物が取り揃えてある。


 剣聖や武神もよく使う店らしく、冒険者の必需品から嗜好品まで文字通り何でも揃う素晴らしい店だ。


 なんなら酒まで取り揃えてあるらしい。


 剣聖はたまにふらっと訪れて、目新しい酒がないかを探しているそうな。


「誰も私達がオリハルコン級冒険者だと気づかないわね。“炎魔”の名前だけなら知られてそうだけど」

「オリハルコン級冒険者になると二つ名が着くとは聞いていたが、思ってたよりもかっこよくて嬉しいよ。俺は“天魔”だぜ?天と魔を司る意味が込められてるらしい」

「ふふっ、カッコイイわよ。その二つ名。白と黒の魔術を使えるジークにピッタリだわ」


 オリハルコン級冒険者となった俺達にも、“剣聖”や“武神”と同じく二つ名が着けられた。


 エレノアは“炎魔”俺は“天魔”と言う二つ名である。


 あまりにも変な二つ名ならば文句を言いに行こうと思ったのだが、想像以上にカッコ良くて俺は満足だ。


 エレノアも俺と似たような二つ名になった事が嬉しいのか、かなり機嫌がいい。


 尚、新たなオリハルコン級冒険者が生まれた事は、既にこの街にいる冒険者達には広まっている。


 武神との手合わせを見ており、察しのいい冒険者は俺達がオリハルコン級冒険者になったのだと気づいていることだろう。


 他のギルドにもこの名が広まるのも時間の問題だな。グランドマスター曰く、既に他ギルドに手紙を出してあちこちに運んでいるらしい。


 最優先事項の手紙らしいので、一年もすればこの名は全てのギルドに轟くのだとか。


「さ、行きましょう。今日はゆっくり買い物よ」

「偶には贅沢でもするか。金は使うもんだしな」


 どこか嬉しそうなエレノアと、一緒に店の中に入り店員に声をかける。


 最初はなにか探し物をしているのかと思っていた店員だったが、新たに発行された鈍く光る金色のギルドカードを見せると慌てたように個室へと案内してくれた。


 店員も、新たにオリハルコン級冒険者が生まれたのを知っているのだろう。


 どこか不安げにこちらを見ているのは、多分どこぞのオカマと酒飲みのせいである。


 個室に案内され、暫く待っていると先程の店員よりも綺麗な身なりをした女の店員が入ってくる。


 今回はこの人が俺たちの対応をするそうだ。


「お待たせしました。“炎魔”様と“天魔”様ですね?」

「そうよ」

「........えぇ、まぁ」


 なんか、二つ名で呼ばれるもムズ痒いな。


 なんかこう、中学2年生の頃の痛々しい記憶が蘇ってきそうだ。


 ここで胸を張って“そうよ”と言えるエレノアが少し羨ましい。俺は慣れるまで時間がかかりそうだ。


「本日はどのようなご要件でしょうか?」

「寝袋とテントを買いに来たわ........ジーク、他に何かいるものってあったかしら?」

「んー、少なくともその2つは絶対だけど、後は特にはって感じかな。お姉さん。何かおすすめとかあります?」

「........そうですね。最近冒険者の中で流行している魔道具などはどうでしょうか?」

「いいんじゃない?私達は魔道具とか興味なかったし、これを機に見てみましょう」

「そうだな。大抵魔術で片付くけど」

「今、お持ちします」

「あ、ちょっと待って」


 女性の店員が部屋を出ていく前に、エレノアが何かを耳打ちする。


 女性店員は顔色こそ買えなかったがどこか微笑ましそうに俺を見ると、静かに頭を下げた。


「ジーク、私ちょっと行ってくるわね」

「え?何処に?」

「あら、乙女の秘密を覗きたいならいいわよ?」

「........結構です」


 多分、男にはなくて女の人にある特有のアレだろう。


 エレノアも18歳。女性特有の生理現象が出てしまうのは仕方がない。


 昔、デッセンに言われたなぁ........“女には大変な時期がある。そういう時は寄り添ってやるんだぞ”と。


 エレノアは体が強靭すぎるのか、全くと言っていいほどそう言う様子を見せなかったが。


 こういうデリケートな問題は、なるべく触れないに限る。


 俺は1人残され、暇つぶしに闇狼を呼び出して遊んでいた。


 30分後、エレノアと店員が帰ってくる。


 女性の買い物は長いと言われているが、エレノアは割とさっさと買い物を済ませるタイプ。


 エレノアにしては長かったなとも思いつつも、そのことには触れずに“おかえり”とだけ言っておいた。


「ただいまジーク。それと、はいコレ」

「?」


 帰ってきて早々にエレノアから1つの黒い箱を渡される。


 首を傾げながら受け取ると、エレノアは箱を開けろと言わんばかりに軽く顎をしゃくった。


 エレノアに促され、箱を開けるとそこには深紅の輝きを持ったネックレスが。


 箱にしては小さくかなり上質なものだとは思ったが、まさか宝石のネックレスを渡されるとは思わなかった。


 予想外すぎる贈り物に固まっていると、エレノアはニッコリと笑って俺の手を取る。


「どう?ジークの目の色と同じ綺麗な宝石を選んだのだけれど」

「........ありがとう」

「ふふっ、顔が真っ赤よ?前の時とは逆ね」


 恥ずかしさのあまり、エレノアから目を逸らす俺とそれを見て微笑むエレノア。


 ホント、女の子の日に関するものを買いに行ったとか勘違いしてごめんさない。


 俺は愚か者で馬鹿でどうしようもないクソです。


 心の中で懺悔をしていると、エレノアはネックレスを手に取り俺の首にかける。


 胸元で陽の光を受けて輝く深紅の宝石は、あまりにも綺麗で眩しかった。


「似合ってるわよ」

「そう........だな」

「ふふっ、前に貰ったお返しができてよかったわ。ジーク、顔が真っ赤な私を少しからかってた目で見てたけど、される側に回った気分はどう?」

「嬉しいけど、その言葉で台無しだよ」

「あはははは!!それはそうね。何がともあれ、いつもありがとう。そして、これからもよろしくね相棒」

「こちらこそ、よろしくな相棒」


 コツンと拳を合わせ、お互いに感謝を述べる。


 俺は周りの人達に恵まれているとは思っているが、エレノアと出逢えたことが1番恵まれているんだろうな。


 無謀なレベル上げにも着いてきてくれる良い奴であり、お互いをリスペクトし合える。


 かなり小っ恥ずかしいが、それでも口にしなければ伝わらない。


 また忘れた頃にエレノアになにかサプライズでもしてやるか。


 尚、この一部始終を見ていた女性店員は、その後それはもうニヤニヤを抑えきれない顔で商品の説明をしてくれた。


 正直、エレノアにネックレスを渡された時よりもこっちの方が恥ずかしかったが、エレノアが物凄く上機嫌だったので良しとしよう。




 女性店員「甘すぎて砂糖吐きそう」

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