オカマは最強


 エレノアからネックレスを貰い、店員から生暖かい目で見られて恥ずかしかった翌日。


 俺達は、グランドマスターに呼び出されてグランドマスターの居る部屋に来ていた。


「ふぁ........」

「眠そうね」

「ちょっとな」


 前世も含めた人生の中で、異性から(母親は除く)の贈り物を貰った事がない俺は想像以上に舞い上がっていたらしい。


 エレノアが初めてくれたプレゼントという事もあり、エレノアが寝静まった後月明かりにネックレスを照らして鑑賞するほどである。


 精神年齢を考えれば落ち着くべきなのだが、どうもジークあちらの精神に少し引っ張られた気がする。


 ジークもエレノアからの贈り物は嬉しかったようだ。


「で、急に呼び出してどうしたんだ?」

「おう、目出度くもオリハルコン級冒険者となった若者達に依頼を持ってきたんだ。アダマンタイト級冒険者には難しい依頼なんだが、あのオリハルコン級冒険者共は“面倒だから”と言って請け負ってくれなくてな........」


 少し苦い顔をしながら依頼を取り出すグランドマスター。


 その依頼内容に目を通すと、確かにアダマンタイト級冒険者では達成が難しい依頼ばかりである。


 その殆どは上級魔物の討伐であり、ざっと20近い依頼があった。


「この冒険者ギルドが、元々魔境とも言われるような場所に立てられたのは知ってるだろう?」

「剣聖から聞いたな。でも、長年魔物を討伐してきて危険は少ないとも聞いたぞ?」

「確かに危険はかなり少なくなっている。が、腐ってもここら辺の地域は魔境なんだ。たまにこうして上級魔物がどこからともなく現れる。一応アダマンタイト級冒険者が力を合わせれば達成出来る依頼だからか、武神も本当に気が向いた時じゃないと消化してくれないんだ」

「それを俺達にやらせようと言うわけか」

「言ってしまえばそういう事だ。頼めるか?」


 オリハルコン級昇格試験を終えてからと言うもの、俺とエレノアは近場の森に入っては魔物を片っ端から狩り続けるという生活を送っている。


 もちろん、他の冒険者の獲物を取る事は無いが、やはりどれだけ数をこなしても入ってくる経験値は少ない気がした。


 ここら辺はゲームと同じで、適正レベル以上の魔物を倒さなければ大量の経験値は貰えないんだよなぁ。


 未だに闇狼(強化版)達は魔の渓谷で頑張っているが、やはり効率が悪い。


 目的を達したのでそろそろ移動しようかと考えていた頃だったが、グランドマスターは俺達に最低限の仕事をやらせたいみたいだ。


「報酬は少し色をつけてやるし、指名依頼として受理してやる。どうだ?やらないか?」

「んー、どうするエレノア」

「やってもいいんじゃないかしら。私たちが討伐しなければ、その分の経験値が他の人に取られるわよ」


 それは由々しき事態だ。上級魔物の経験値は未だにそれなりのものである。


 魔の渓谷ほど沢山湧いて出てくれる訳では無いが、経験値を回収するに越したことはないだろう。


 まぁ、殆どは俺よりレベルの低いエレノアが回収することになるだろうが。


 俺は全ての依頼書に目を通し、ここからさほど離れていない事、依頼内容が全て魔物の討伐ということを確認すると席を立ち上がって部屋を出ていく。


 効率面で考えればあまり良くは無いが、無限ポップしてくれる訳では無い貴重な経験値は回収するとしよう。


「報酬は色をつけてくれよ」

「助かる」


 どこかホッとした表情のグランドマスターに見送られながら、俺達はもう少しだけこの街に留まる事になるのだった。


「魔物討伐に関しては2人に話を持っていけば良さそうだな。ある意味、一番扱いやすいオリハルコン級冒険者だ........ちょっと頭のネジが外れてるけど」


 部屋を出ていく直前にボソリと呟く声は、俺たちの耳には入らない。



【ガーネットのネックレス】

 エレノアがジークにプレゼントしたネックレスに付いている宝石。石言葉は「真実」「情熱」「友愛」「繁栄」「実り」「貞操」(調べた感じまだある)

 尚、エレノアは一々そんな事考えておらず“ジークに似合いそう”という基準でしか選んでない。



 グランドマスターに依頼されたジーク達は、早速依頼を達成しようと冒険者ギルドの廊下を歩いていた。


 ジークとエレノアの機嫌はかなり良く、先日のプレゼントの効果がよく出ているだろう。


 太陽の光に照らされて鋭く光る深紅の宝石と、少し安っぽいものの傷一つない深紫の宝石がお互いを邪魔し合うことなく光り輝く。


 その眩しさは、楽しそうに会話をする二人の少年少女の目と同じ色だった。


「あら?ジークちゃんとエレノアちゃんじゃない。この時間にここに居るなんて珍しいわねん」


 武神はそんな二人を見つけると声を掛ける。


 一ヶ月の旅で仲良くなったジークとエレノアとは、顔を合わせれば話す程度には交流があった。


「グランドマスターが依頼を投げてきてな。マリーや剣聖が面倒だからと言って放置したやつを消化しに行くんだよ」

「あら、それは有難いわねん。あまり長く放置しすぎると、グランドマスターから怒られるのよん。これで暫くは面倒事もなさそうねん」


 武神はそう言うと、ジークの胸元で光るネックレスを見た。


「ジークちゃん、そんなネックレスなんてしてたかしら?」

「コレか?エレノアから昨日貰ったんだよ」

「そう。とっても似合ってるわん。その目と同じ色で熱く燃えつつも冷静な感じが見て取れるわねん」

「そうか?エレノアのセンスが良かったってことだな」


 初めての贈り物を褒められて素直に喜ぶジークと、その喜ぶジークを見て喜ぶエレノア。


 武神からすれば、あまりにも眩しすぎるその光景に目を細めつつもエレノアに近づいてジークに聞こえない声量で話す。


「上手くいったのね」

「マリーのお陰よ。こんなに喜んでるジークを見たのは初めてだわ」


 オリハルコン級昇格試験の際ジークとエレノアの距離感を見た武神は、エレノアにアドバイスをしていた。


 二人がどう思っているかは知らないが、傍から見ればお互いに良きパートナー。それでいながら、一定の距離感を保つ二人は武神から見れば少しムズ痒いものである。


 特に、エレノアはジークに対して明確な好意を向けているとなれば、武神としてもその背中を少し押してやる事もやぶさかでは無いのだ。


 かくして、ジークに隠れて二人はジークにプレゼントを贈る作戦を立てたのである。


「その調子で頑張りなさい。でも、距離感を見誤ったらダメよん?ジークちゃんはあまりベタベタされるのが好きなタイプでは無さそうだからねん」

「分かってるわよ。昨日のように距離を縮めるのは滅多にやらないわ。今の距離感が私達の最適よ。それに、レベル上げの邪魔でもしてみなさい。ジークが本気で怒るわよ」

「........ジークちゃんも変わってるわねん」


 こんなに健気で可愛い子を前にして、レベル上げの方が優先されるのかと武神は呆れる。


 しかし、それでこそオリハルコン級冒険者。ジークは悪い意味でオリハルコン級冒険者に相応しい性格をしている。


 もちろん、そんなジークの隣に立つためだけに魔物の巣に突っ込んではレベル上げするエレノアも。


 多少ベタベタするのは許されるだろうが、やりすぎは良くない。今回はお節介を焼いたが、なんやかんや今の距離感がベストなのだろう。


 お互いに干渉しすぎず、お互いをリスペクトし合える。そして、近づきすぎず離れすぎず適度な距離を保ちながらも時として近づく。


 武神は少し羨ましく思いつつも、自分には自分なりの恋愛があると開き直る。


「そこを含めて、私はジークが好きなのよ。あの日からずっとね」

「あらヤダかっこいい。アタシが惚れそうだわん」

「ふふっ、ありがとねマリー」

「いいわよん。男は度胸女は愛嬌、それを合わせたオカマは最強ってね」

「いい言葉じゃない。マリーのためにあるようなものね」


 エレノアはそう言うと、武神との話を聞かずに待っているジークの元に駆け寄る。


 武神は新たなオリハルコン級冒険者達の背中を眺めながら、2人の幸せを願うのだった。

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