炎魔、天魔


 オークキングの討伐も無事に終え、俺達は冒険者ギルド本部エグゼの街に帰って来た。


 一ヶ月近い旅となったが、個人的には中々愉快な旅で楽しかったと言える。


 好みの男を見つけてナンパし恐れられる武神や、酒をあちこちから買い漁って集合時間に遅れる剣聖、冒険者ギルドで後輩の面倒を見たり自由すぎるオリハルコン級冒険者問題児に振り回されるギルド職員。


 普段エレノアとの二人旅も俺は好きだが、偶にはこう言う騒がしい旅もいいなと思うほどには楽しかった。


 尚、ギルド職員の2人はオークキングを討伐した辺りから俺達を死ぬ程恐れるようになっており、最初は声をかけるだけで“ヒィ!!”と怯えられたが。


 どうも、元ミスリル級冒険者の二人には第八級魔術の圧が重すぎたようだ。


 まぁ、獣人の国フォールンの街にいた頃に師匠が本気で俺達を殺しに来てたら同じような反応をしていただろうから、これに関しては仕方がない。


 寧ろ、今はちゃんと話せるだけマシである。


「ようやく帰ってきたな」

「ほっほっほ。楽しい旅じゃったのぉ。ここ10年は渓谷に潜っておったから、尚更旅が楽しかったわい」

「アタシも普段はエグゼから離れないから、新鮮な旅だったわん。お陰でイイコも見つけられたし」

「........お主に目をつけられた者は可哀想じゃの。心の底から同情するわい」


 呆れた目で武神を見る剣聖。


 武神の言う“イイコ”は、そこそこガタイのいい高身長イケメンだからな。そりゃ相手に同情もしたくなる。


 パツンパツンの白のタンクトップとピンクのミニスカート、そしてニーソックスを履いたガチムチのオッサンに言い寄られると考えると吐き気すらしてくる。


 初めて身長が小さくてよかったと心の底から思うよ。


 15になっても未だに身長が150cmに届かない事はかなり残念だが、こういう所で命拾いするとは。


 ちなみに、俺の両親はそれなりに身長が高いので遺伝から考えれば身長が高くなってもおかしくないのだが、一向に伸びる気配がない。


 エレノアは“抱きしめて寝るにはちょうどいいのよ”と言っていたが、男としては情けない話である。


 エレノアは170cmを超えているというのに、神は不平等だ。


「あぁ、ようやく帰ってきました........」

「覚えとけよ、グランドマスター。こんなクソみたいな仕事を俺達に振りやがって。一週間は休暇を取ってやる」


 俺がそんなことを考えていると、ゲッソリと疲れきった様子のギルド職員達が仕事からの解放を喜んでいた。


 若干一名ほどグランドマスターに文句を言っているが、気持ちはわからなくも無い。


 武神と剣聖の面倒を見るのは死ぬ程疲れるのだ。


 今回、俺とエレノアはそこら辺を全て丸投げしていたので疲れていないが、彼らの立場からすればたまったものでは無い。


「ギルド職員も大変ね。オリハルコン級冒険者の相手をさせられるなんて。私なら無理だわ」

「俺も無理だ。こんな頭のおかしいヤツらの面倒を見ていたら気が狂う」

「まだ私達の方がマシね。多分オリハルコン級冒険者の中でも1番まともじゃないかしら?」

「まだオリハルコン級冒険者になった訳じゃないけどね」


 疲れきったギルド職員に同情するエレノア。


 まだ試験の結果は出ていないが、武神と剣聖、そしてギルド職員曰く“オリハルコン級冒険者になるのはほぼ確実”らしい。


 アダマンタイト級冒険者が何人も集まって死力を尽くし、ようやく討伐できる存在をたった一人でいとも容易く屠れる存在が、オリハルコン級冒険者になれないわけが無いそうな。


 唯一の懸念点として素行の問題があるが、俺達はそこら辺の子をナンパしたりしなければ酒を巡って喧嘩もしない。


 ギルド職員からは“問題ない”とお墨付きを貰っているのである。


 その時の顔が何故か若干引き攣っていた気もするが、気の所為だろう。


「1番の問題児達が何か言っておるのぉ........」

「“暇だから魔物狩りしてくる”とか言って、その周辺にいる魔物をほぼ全て片付けて来た冒険者は言うことが違うわねん。周囲の環境を変える冒険者よん?アタシ達より余程タチが悪いわん」

「この代わり、その街にとっては危険な魔物も討伐しておるから余計にタチが悪いがのぉ」


 俺たちの後ろでボソボソと武神と剣聖が話しているが、その会話が俺とエレノアの耳に入ることは無かった。


 ギルド職員から聞いた話では、遅くとも3日以内には結果が出るとの話なのでそれまでの間はのんびりとここら辺で狩りでもしていようかな。


 最近気づいたのだ。効率云々の話は置いておいてダンジョンと言う特殊な環境を除けば、魔物は討伐されれば復活しないのだと。


 つまり、誰かに倒された魔物は俺たちの経験値にならない。


 何を当たり前な事と思うだろうが、俺達にとっては問題である。俺たちの経験値が減るのだから。


 この世界は魔物が無限湧きしてくれるゲームでは無い。狩れる魔物には限度があるのだ。


 他人に経験値を取られた分だけ、俺たちの経験値が無くなる。それは俺にとっては嬉しくない事である。


 要するに何が言いたいかと言うと、“たとえゴブリンであろうが経験値は寄越せ”という事だ。


「ここら一体の魔物を全部狩るか」

「そうね。他の冒険者達を廃業に追い込んであげましょう」


 ゴブリンとは言え経験値は経験値。


 この世の真理に気づいてしまった俺達は、今も尚やる気に満ち溢れていた。



天門ヘブンズゲート

 天へと誘う天国への門と手を出現させる対象指定の第八級白魔術。基本性能はほぼ“地獄門ヘルゲート”と同じであり、唯一違うのはもんの装飾ぐらい。

 囚われた者は魔力の混ざった聖なる光でもみくちゃにされて消し去られ、その威力はあのエルダーリッチ(師匠)ですらも殺すことが出来る。



 ようやく冒険者ギルド本部に帰ってきたレイナとブラッドは、1日旅の疲れを癒した後グランドマスターに報告を行っていた。


 旅はほぼ歩かず空を飛んでいただけで暇だったという事もあり、報告書は既に出来上がっている。


 最初こそ酔って吐いていたが、慣れればかなり便利な魔術だと感じている。


 第六級魔術という超高難易度の魔術でなければ習得しようと思うほどには、黒鳥クロウの魔術を2人は気に入っていた。


「........毎度思うが、オリハルコン級冒険者になるやつは何奴も此奴も問題を起こさないと気が済まないのか?隣国からクレームが来てたぞ。“被害を考えなくてもいいとは言ったが山を含めた周囲を焼き尽くせとは言ってない”ってな」

「それは依頼を出した国が悪いので。私たちは知りません」

「そうだぜ。依頼主が悪い」

「お前達もいい感じにオリハルコン級冒険者達に毒されて何よりだ。で、この報告書に書かれていることは本当か?どれも信じ難い話だな」


 グランドマスターはそう言いながらも、武神と剣聖が見ている報告書を偽装しているとは思わない。


 が、それを抜きにしても目を疑う事ばかりが書かれていた。


 特にジークに関する報告は酷く、書かれている文字すらも何処か震えている。


 一体何があったのかと思うが、それを聞くと2人は身体を震わせて酷く怯えるのだ。


「マジで何をしたんだ、ジークの奴は........それにしても、白魔術と黒魔術を使える魔術師というのは珍しいな。スキル持ちか?」

「分かりません。そこまでは聞けませんので」

「スキルは場合によっては命に関わるからな。スキルが原因で戦争が起きた国もあるぐらいだし」


 グランドマスターはそう言いつつ、素行も問題ないようだと(若干難あり)判断してジーク達がオリハルコン級冒険者になる為の書類の作製を始める。


 そして二日後、この世界に六人目、七人目となるオリハルコン級冒険者が誕生した。


 烈火の如く全てを焼き尽くす“炎魔”と天と魔を司る“天魔”。


 この新たなオリハルコン級冒険者が18歳の少女と15歳の少年だという事実は、あまり知られていない。




 コメントでジークの二つ名を当てられてビックリ。後、ジークとエレノアのやらかしに反応がもらえて嬉しいです。なぜか、山の心配ばかりされてたけど。

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