オリハルコン級昇格試験4
エレノアが無事にワイバーンを討伐し終えた後、俺達は1日そこで過ごしてから次なる目的であるオークキングが治めるとある森に来ていた。
移動に少し時間が掛かってしまったが、ようやく俺の出番である。
「凄いわね。空から見てるだけでかなりの数のオークが居るのが分かるわ」
「少なく見積っても1000近くは居そうねん。ジークちゃん、大丈夫そう?」
「舐めんなよマリー。この10倍の数だろうが余裕だ」
各々が小さなコミュニティを作り、そのコミュニティが更にコミュニティに所属する。
まるで人間のような生活圏を作っているオーク達を見るに、案外人間と変わらない知能を持っているのかもしれない。
「ほっほっほ。この程度の数ならば問題ないじゃろ。なんせ、山を丸々1つ焼き尽くすような奴のパートナーなんじゃからのぉ」
「分かってるじゃない剣聖。ジークは私より強いわよ」
ここでも酒を飲む剣聖と、剣聖の言葉にドヤ顔で返すエレノア。
被害を一切考慮しなくても良いと言う一文のせいで燃え尽きた山は、今もまだ煙を上げている事だろう。
一応、二次災害が起こらないように手を尽くしてはあるが、それでもエレノアの火力は侮れない。
二次災害が起こった時は責任をもって消しに行かないとな。
「ジークさん。あちらの依頼は周囲への被害を考慮しなくとも良いとありましたが、今回はそのような記述はありません。できる限り森への被害は抑えてください」
「分かってるよ。俺はエレノアと違って火力全振りの魔術師じゃないんでな。無傷........とまでは行かないが、できる限り被害を小さくして討伐してくるよ」
「頼むよホント。後で怒られるのはグランドマスターと俺達なんだ」
エレノアがブッパした事で、クレームを入れられる事が確定してしまっているギルド職員2人は、念を押すように俺に忠告してくる。
大丈夫大丈夫。俺はそこら辺ちゃんと弁えてるから。
派手に行くつもりだが、ちゃんと被害は考えているから問題ない。俺の作った第八級魔術は利便性に関してはピカイチなのである。
空の旅にも慣れたのか、最近は吐くことも無く黒鳥の背中の上で報告書の制作をしているギルド職員達に手を振り、エレノアと拳を合わせた俺はオークの村に向かって降りる。
「行ってくる」
「頑張って。ここにいる者達に見せつけてやりなさい」
「気をつけてねん。油断大敵よん」
「ほっほっほ!!酒の肴になる見世物を期待しておるぞー」
「被害は最小限ですよー!!」
俺は最後の最後まで被害を抑えろと忠告してくるギルド職員に苦笑いを浮かべながら、黒鳥の背中から飛び降りた。
さて、久々に門を開くとするか。
【
地獄へと誘う地獄の門と手を出現させる対象指定の第八級闇魔術。破壊力や範囲は
設定次第では、素材だけを丁寧に取り除くことも可能。だが、割と雑。
ジークがオークの群れに降り立つまでの間、エレノア達はワイワイと話していた。
既に誰もがジークの勝利を疑っておらず、如何にしてジークが派手に鮮やかに勝つのかを話し合う。
全てを知っているエレノアは、ネタバレをしないように剣聖達の会話に頷くだけだった。
「広範囲の魔術で火力もあるとなると、やはり炎魔術かのぉ?」
「でも、それだと被害が出るわよん?」
「となると違う方法か。エレノアよ。ジークの得意魔術はなんじゃ?」
「直ぐに分かるわ。それに私が言ったら面白くないでしょう?」
「それもそうじゃな」
剣聖がエレノアの言うことに納得し、酒の入った容器に口を着けたその時だった。
オークの群れの中心で膨大な魔力が渦巻き、とてつもない圧がその場を支配する。
エレノアの時はそれなりに離れていたので感じなかった魔力の圧だが、今回はハッキリと感じ取れた。
「ほっほっほ........エレノアの時もこんな感じだったのかのぉ」
「凄いわねん。こんなの見せられたら即逃げるわん。もしくは、発動前に殺しに行くわねん」
「なんですかこの重みは........!!身体が動かない!!」
「やっべ、全身が震える」
冷や汗を軽く掻く剣聖と武神、2人はからしても相当な圧があるものの、まだ耐えれるものではある。
しかし、元ミスリル級冒険者であるギルド職員達からすれば、この圧はあまりにも重すぎた。
全身が震え、まともに座ることすら出来ない。自分にその圧が向けられてないというのに、確かな“死”を錯覚してしまう。
レイナに関しては、恐怖のあまり軽く漏らしてしまう程であった。
「ジークも張り切ってるわね。すっごく楽しそう」
「........流石はパートナーじゃな。この圧を平然もしておる」
「むしろ楽しそうねん」
嬉々としてジークの活躍を見るエレノアにオリハルコン級冒険者たちが呆れていると、地獄の門が口を開いてオーク達を捉え始めた。
黒き手はオークだけを正確に狙い、逃げ惑うオーク達を捕まえては地獄の門へと誘う。
黒き手に囚われたオークに逃げる術はなく、ただただ藻掻くだけでいとも容易く死んでいった。
「凄いのぉ。これがジークの本気か」
「手合わせであんなの使われてたら、私も本気で対処してたわん」
「ほら。震えてないでジークの活躍をちゃんと見なさいよ。報告書を書かないと行けないんでしょ?」
「あっ、あっ、あっ」
「........」
“鬼かお前は”
と剣聖と武神は心の中で思う。
これだけの圧に何とか耐えているギルド職員2人に対して、その下で行われている虐殺を見ろと言うのだから。
仕事と言えばそこまでだが、エレノアはジークの活躍を見せたいだけで仕事というのは理由付けというのがバレバレである。
あまりにも可哀想過ぎるギルド職員に同情していると、エレノアはとんでもないことを言い放った。
「よく見てなさい。ジークはこんなもんじゃないわ」
突如として、更なる魔力が天に展開される。
これだけの魔力を使っているというのに、更に魔力を使うのか。
今度ばかりは、剣聖も武神も全身に冷や汗を掻く。
オリハルコン級冒険者の中には魔術に特化した者も居る。だが、彼女と一緒に仕事をしていてもこれ程の圧を感じたことは無い。
明らかに、格が違っていた。
「見なさい。あれがジークの本気よ」
天から現るは天国へと誘う門。
地獄へと誘う門とは対象的な神聖さを感じさせる門だが、そこに救いがあるとは到底思えなかった。
神を信仰し、光魔術を神聖視する宗教国家ですらこの魔術は邪道と恐れるだろう。
もしくは、神の怒りと捉えるか。
天から開かれた門から現れる光り輝く手は、運良く闇の手から逃げ延びたオーク達を捉えていく。
その中にはオークキングもいたのだが、あまりにもあっさりと倒されすぎて誰も気がつくことは無かった。
魔術を行使していたジークだけは“なんか王冠被ってるしあれか?”と気づいていたが、魔力の圧に怯えるギルド職員と己が対峙した際にどうするかで頭がいっぱいのオリハルコン級冒険者達、そしてギルド職員に無理やり惨劇を見せるエレノアには気づかれていない。
ある意味、一番不憫な死に方である。
「凄いでしょ?!これがジークよ」
「儂らより普通に強いわい。剣の距離で戦えれば勝ち目があるじゃろうが........その間合いに入る前に殺されそうじゃの」
「殴れる距離ならなんとかなるだろうけど、魔術師の距離からよーいドンじゃ無理ね。逃げるのが精一杯だわん」
「そうでしょう?ジークは最強なのよ!!」
ジークの活躍を自分の事のように喜ぶエレノアを見て、“お前も大概だけどな”と心の中で思う武神と剣聖。
あの時は圧を感じなかったが、よく考えずともあの魔術に対抗できるとは思えない。
とんでもない逸材がオリハルコン級冒険者になるものだと2人は思いつつ、震えが止まらず泣き始めるギルド職員を見て気の毒に思うのだった。
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