オリハルコン級昇格試験2
グランドマスターからオリハルコン級昇格試験を出された俺達は、1週間かけてワイバーンが生息する隣国のとある山に来ていた。
出発の準備に1日、出発してから1週間かかったが、ようやく獲物が見えてきた事でエレノアのウキウキは最高潮に達している。
アイアンゴーレムを楽しく燃やしていた時以来のテンションの上がり方だな。この後起こるであろう地獄の業火に目を瞑れば、今のエレノアは年相応の可愛い少女である。
「長かったわ。ようやく着いたわね」
「この一週間ずっと“ワイバーン速く狩りたい狩りたい”言ってたからな。見ろよ、無理に忙して移動したせいでギルド職員の2人が酔って吐いてるぞ」
俺はそう言って、後ろで木に手を置きながら吐くギルド職員の2人を指さす。
本来一ヶ月はかかるであろう移動を、第六級黒魔術“
元々慣れない空の旅&揺れる黒鳥の移動はどうも彼らの三半規管に大きなダメージを与えたようで、初日からずっとあんな感じで胃液を吐き続けている。
俺は少し速度を落としてやろうと考えたのだが、エレノアがあまりにも速くワイバーンを狩りたいと煩かった。
それに、“気にしないでください”と意地を張るギルド職員も悪いちゃ悪い。
無理なら“無理です”と言えばいいのに........
「中々便利な移動手段ねん。空の旅は新鮮で楽しかったわん」
「ほっほっほ。暇じゃったがの。時間短縮はできるが、その分暇がすぎる。少しは何か起こってくれても良かったと思うがの」
「そんなトラブルがあったら、ギルド職員さん達がさらに吐くぞ。勘弁してやれ」
俺がそう言うと、オリハルコン級冒険者の2人は盛大に笑う。
後ろでギルド職員達が恨めしそうにこちらを見ているが、この非常識たちにそんな視線は通じない。
ギルド職員も大変だなと思いつつ、彼らの吐き気が収まるのを待つ。
白魔術に酔いを覚ます魔術があればいいんだけどな。生憎、師匠の家には白魔術が少なかった。
正確に言えば、酔いを覚ます魔術はある。が、酔いを覚ますだけに使うのはあまりにも魔力を消費しすぎるので使いたくないと言うのが本音だが。
しばらく待てば、ギルド職員達も吐き気が収まり顔色もそこそこ良くなる。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。えぇ、大丈夫なんです。では、行きましょう」
「酒を飲んだ時より気持ちわりぃ........」
ギルド職員の2人はそう言って山に向かって歩き出そうとするが、俺はその2人の歩みを止める。
エレノアが“
ここだとギリギリ範囲に入ってそうなので、念の為にもう少し離れなければならなかった。
「違うぞ、俺たちが向かうのは山の方じゃなくて逆だ」
「........?そちらにワイバーンはいませんが?」
「んな事はわかってる。山に向かうのはエレノアだけだ。俺達はここを離れるぞ」
「言っている意味が分かりませんが........それに、私達にはワイバーンとの戦闘を見届ける義務があります。オリハルコン級冒険者に相応しい実力があるのか、ワイバーンを討伐できるのか。それを見なければなりません」
「仕事熱心なのはいいが、それで死にたくはないだろ?大丈夫。ワイバーンとの戦闘はここから離れてても見れるから」
「ですが──────────」
エレノアのことを知らない女性のギルド職員は何とか食い下がろうとするが、武神と剣聖がそれを止める。
彼らはエレノアの切り札を見たことは無い。だが、俺の言っている事が嘘では無いという事を理解していた。
「ここは大人しくジークちゃんに従いましょう。どうも、エレノアちゃんはここら辺一体を吹き飛ばすみたいだしね」
「ほっほっほ。仕事熱心なのは関心じゃが、時としてそれが身を滅ぼすことを覚えておくのじゃな。ほれ、行くぞ」
そう言って山のある方向とは逆に歩き始める武神と剣聖。
ギルド職員もオリハルコン級冒険者の言うことには逆らえないのか、渋々二人の後に付いて行った。
「さて、好きにぶっぱなしてこいよエレノア」
「えぇ、綺麗な業火を見せてあげるわ」
俺達はニッと笑って拳を突き合わせると、お互いに背を向けて歩き出す。
エレノアは山へワイバーン狩りに。俺はその様子を見るために。
エレノアの心配なんぞ一つもしていない。今や師匠が相手であろうと、逃げることはできるのだから。
「頑張れよ」
俺がそう呟くと、聞こえていたのかタイミングが合ったのか、エレノアは片手を上げてヒラヒラと手を振るのだった。
【ワイバーン】
最上級魔物の竜種。竜種の中では最も弱いとされている魔物であるが、それでも最上級魔物の上の方の強さがある。
飛行能力を備え口から火を吹き、硬い鱗は生半可な魔術や刃を通すことは無い。その強さは国が滅ぶレベルであり、目撃次第国が総戦力を上げて討伐に乗り出すほどには恐れられている。
ジークと別れたエレノアは、散歩をするかのような足取りで危険な山を登っていく。
この山は魔物が多く集まっている山であり、この国に住む者からは“魔の山”と言われている程であった。
しかし、魔の渓谷ほど強い魔物もいなければ魔物の量も少ない。
30秒間隔で上級魔物とエンカウントするような魔境で戦ってきたエレノアからすれば、この程度の山は“ただの山”である。
「久々の狩りね。しかも、本気でやっていいなんて最高だわ」
エレノアの切り札“
広範囲高威力のこの魔術は破滅級魔物ですら屠れるような代物であるが、その分周囲も巻き込んでしまうのだ。
唯一、自分だけは守れるように組まれた魔法陣は、正しく周囲を薙ぎ払うためだけに使う必殺技と言えるだろう。
「ワイバーンは耐えられるのかしらね?」
エレノアはそんなことを言いながら山をサクサクと昇っていく。
そして頂上に着くと、目的の魔物であるワイバーンが優雅に昼寝をしていた。
竜種の中では最弱であろうと、最上級魔物であるワイバーンはこの山では絶対的強者。
ワイバーンに手を出した者は、皆胃の中に収まってしまう。
しかし、エレノアは違う。
この山の中で唯一ワイバーンを殺せる存在であり、今この山の絶対的強者は彼女なのだ。
「お昼寝している所悪いけど、死んでもらうわよ」
エレノアはそう言うと早速魔術を準備する。
ワイバーンを殺すだけなら正直最大出力でやる必要は無いだろう。だが、最近狩りができていなかったエレノアは、これを機に少しでも経験値を稼いでおきたかった。
ゴブリンであろうと、経験値は貰える。
貰える経験値は微々たるものであるが、その積み重ねがレベルアップに繋がるのだ。
突如として騒がしくなる山。
莫大な魔力が急に現れたとなれば、魔物達も驚く。
それはワイバーンも例外ではなく、慌てて起き上がるとエレノアを見て恐れ逃げ始めた。
ワイバーンは本能的に悟ったのだ。
今ここでこの人間に攻撃を仕掛けても、自分が死ぬだけなのだと。
まだ、情けなく背中を向けて逃げ出した方が生き残る可能性は高いと。
しかし、生き残る可能性は残されていない。
ワイバーンが生き残るには、エレノア達が来るよりも早くこの場を去るべきだった。
「あら、逃げ出しちゃうの?残念ね。なら、無様に焼かれて死になさい」
エレノアはそう言うと、魔術を行使する。
「地獄の業火に焼かれて死ね。
刹那、ワイバーンは全身を焼かれ、もがき苦しみ地に落ちるのだった。
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