オリハルコン級昇格試験1


 武神から武術(自分の体の動かし方)を学び始めてから3日後、俺とエレノアはグランドマスターに呼び出されてグランドマスターの居る部屋に来ていた。


 どうやらオリハルコン級冒険者となる為の試験の準備が終わったらしく、今日から試験を開始するらしい。


 グランドマスターの後ろには2人のギルド職員も控えており、彼らからは緊張が伝わってくる。


 試験を受ける俺達より緊張してどうするんですかねぇ........


「来たか。んじゃ、早速試験内容を話すとしよう」

「思ってたよりも早かったな」

「そうね。あと一週間ぐらいは掛かるかもってマリーが言ってたらから、てっきりまだ先だと思ってたわ」

「何処ぞの馬鹿が狩場がないとか言って、俺を脅そうとしたらしいからな。少しは急ぐさ」

「へぇ、そんな奴がいたんだな。一体どこのどいつなんだろう?」

「分からないわ。一体誰なのかしら?」

「........」


 惚ける俺と上手く乗ってくれるエレノア。


 グランドマスターは何か言いたそうにこちらを睨みつけるが、そんな事知ったことでは無い。


 悪いのは、近くに狩場がないこの街である。俺達は悪くないのだ。


 まぁ、狩場がなかったお陰で、武神から武術について少し学べたので個人的には満足しているが。


「全く、オリハルコン級冒険者としての素質は十分だよ........さて、話を戻すが、今回は1人づつ違う依頼を持ってきた」


 軽く頭を抱えたグランドマスターは、そう言って二枚の依頼書を俺達に見せてくる。


 えーと、なになに。ワイバーンの討伐とオークキングの討伐か。


 ワイバーンと言えば最上級魔物に位置する竜種の一体であり、火を吹き毒の牙で相手をかみ殺すということで有名な魔物である。


 あまりこの大陸では見かけない魔物であるが、ワイバーンが確認された国では国の総力を持ってして討伐をしに行かなければならない魔物だ。


 どうやら今回の依頼は、このエグゼの街の隣にある国からの依頼らしく、とある山に住み着いてしまったワイバーンの討伐を依頼している。


 本来ならばオリハルコン級冒険者が出張ってくるような依頼だが、その魔物を俺達の試験に使おうと言う事みたいだ。


 ちなみに、ワイバーンは竜種の中では最弱とされており“竜モドキ”というあだ名が付けられていたりする。


 竜種の中では最弱ではあるが、人間からすればとてつもない驚異であることに変わりは無いが。


 そして、もう片方の依頼であるオークキングはその名の通りオークの王である。


 俺達が良く討伐してお肉としているオークの上位互換であり、他のオークを従えて大きなコミュニティを作ることで有名だ。


 しかし、オリハルコンゴーレムのように魔物を1人で作りだす様な能力は有していない為“魔王”とは呼ばれていない。


 オークキングの更に上であるオークエンペラーが、“魔王”と呼ばれていたはずだ。


 ランクはワイバーンと同じく最上級魔物。危険度だけで言えば、どちらも師匠と同じである。


 今回の依頼を出した所はワイバーンの依頼を出した国とはまた別の隣国であり、こちらも本来はオリハルコン級冒険者が動く事案なのだろう。


「中々に狩りごたえのありそうな魔物達ね。私の魔術が火を噴くわ」

「ワイバーンの依頼の方は、周囲への被害を考えなくてもいいのか。エレノアにピッタリな依頼だな」

「え?........本当だわ。それじゃ、アレを使ってもいいってことね?!」


 ワイバーンの依頼書に書かれている条件を見てワクワクし始めるエレノア。


 買って貰った玩具で遊ぶ子供のようにキラキラとした目はとても可愛らしいが、エレノアの脳裏に浮かんでいるであろう光景を考えると全く可愛く見えない。


 なんでこの国は“周囲への被害は考えなくて良い”とか書いちゃったかなぁ........その山を中心として半径5kmは吹き飛ぶぞこれ。


 ちなみに、オークキングの方は“できる限り集まったオーク達も殲滅して欲しい”と書かれている。


 こちらは対象指定ができる俺の方が適しているだろう。


「それじゃ、エレノアはワイバーン。俺はオークキングでいいか?」

「えぇ。山1つ消してくるわ」


 うん。消すのはワイバーンであって、山じゃないんだよ。


 俺は心の中でそう突っ込みつつも、こうなってしまったエレノアは止められないと悟り諦める。


 恐らく、冒険者ギルドにはクレームが入ると思うが、周囲への被害は考慮しなくて良いと書いた自分達を恨んでくれ。


「なんか不穏な会話が聞こえた気がするが........決まったか?」

「えぇ。私がワイバーンを」

「俺がオークキングを始末するよ」

「そうか。今回の試験は、オリハルコン級冒険者としての戦力を持ち合わせているかどうかを見るものだ。もし討伐に失敗するような事があれば、武神が動くという事を覚えておいてくれ」

「ん?マリーも着いてくるのか?」

「当たり前だろ。もし君たちが討伐失敗した場合、手負いの魔物は大いに暴れ出す。そうなれば、国が滅ぶ可能性も出てくるからな」


 なるほど。武神は保険か。


 万が一俺達が負けた場合を想定して、武神もついて行かせるのだろう。


 負ける気などサラサラないので、武神には悪いが彼は観客の1人となってもらうだろうが。


「剣聖はついて行かないのかしら?」

「アイツは酒が飲みたいと言って断りやがった。グランドマスターの権限で無理やり行かせるのもできたが、こんな事で強制させたら間違いなく反発されるからな........」


 エレノアの質問に対して、疲れた顔をしながら答えるグランドマスター。


 剣聖、マジで自由人だな。酒が飲みたいからという理由で、グランドマスターからの依頼を断るヤツとか初めて聞いたぞ。


 と、ここで俺は思い出す。


 あの自由人な剣聖が、魔の渓谷に潜っていた頃に渡されていた報酬を。


 彼は生粋のドワーフであり、酒があれば動くのだ。


「なぁ、珍しい酒を報酬に用意したら動くんじゃないか?少なくとも、フルベンの街で依頼を受けていた時は報酬が酒だったぞ」

「........マジかよ。ドワーフとは言え、酒が好きすぎやしないか?なら、西の国で作られている白い果実の酒なんかを報酬にすれば食いつくか?」

「手に入りにくいものの酒なら多分食いつくと思うぞ。剣聖の事だし、酒のためなら竜すら斬ってくれるだろうさ」


 俺の提案を真面目に検討するグランドマスター。


 暫く考えた後、彼は決意を決めたようだ。


「よし、今回は実験として酒を報酬にする提案を出してみよう。これで上手く行けば、剣聖をある程度楽にコントロールできるようになるぞ」


 なんだろう。今まで以上に気合いが入っているグランドマスターを見るに、剣聖ってかなり扱いづらい人なんだな。


 俺はそう思いながら、オリハルコン級冒険者になるための試験の内容をもう一度確認する。


 俺が討伐するのはオークキング。最上級魔物の一体であり、様々な種類のオークを束ねるオークの王。


 規模はどれだけになるか分からないが、これなりの村が出来上がっているだろう。


 多少は経験値に期待ができそうだな。


 俺は、辺り一面を燃やし尽くす想像をして不気味に笑うエレノアと一緒に、自分に入ってくるであろう経験値を想像して少し笑うのだった。


「なぁ、コイツら急に怖いんだけど」

「私たち、これから移動中この人達と一緒なんですよね?少し........嫌です」

「俺も嫌だな........」


 聞こえてんぞ。失礼な奴らだな。


 ちなみに、剣聖への“報酬お酒作戦”は驚く程に上手く行った。


 中々手に入らない希少な酒ということもあって、剣聖は二つ返事でOKを出したらしい。


 やはり、彼は生粋のドワーフであり酒飲みだな。

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