問題児剣聖
いい感じの狩場がないということを知った俺達は、グランドマスターを脅して試験を急かせようと考えた。
が、それは武神ことマリーに止められてしまう事になる。
いくら何でもそれはやり過ぎと言われ、“代わりに武術を教えてあげるから!!”と言われて必死に止められてしまっては俺達もグランドマスターを急かせる訳には行かない。
エレノアの天才的な考えは、武神による必死の抵抗によって亡き者にされてしまった。
おのれ武神。なんでその見た目で常識人ぶるのだ。
そんな訳で、訓練場にやってきた俺達は早速武神に武術を教わる事となる。
「........で、なんで儂まで付き合わされないと行けないのじゃ?」
「私がこの子達の面倒を見ているというのに、おじいちゃんだけゆっくりするのは許せないからよん」
「ぶち殺すぞカマ野郎。お主の気分で儂を巻き込むな」
「だってしょうがないじゃない!!この子達、狩場がないからってグランドマスターを脅して試験を早く行わせようとするのよ?!頭がどうかしてるわ?!」
俺達に向かって指を刺し、人を人とも思わない顔でこちらを見る武神。
本人が目の前にいるというのに、“頭がどうかしてる”と言うとはなんと失礼な奴なんだ。
頭がどうかしてるのはそっちだろ。
俺は奇抜な格好をする武神にツッコミを入れたいのを我慢しつつ、剣聖と武神のやり取りが終わるのを待つ。
エレノアもなにか言いたそうにしていたが、口を挟むことは無かった。
「ほっほっほ。当たり前じゃろ。ジーク達の頭がイカれてるのは元からじゃ。なんせ、魔王を前にして“生み出した魔物を狩り続ければレベルが上がるくね?”とか考える奴じゃからの」
「それは頭が........ちょっと待ちなさい。今“魔王”って言ったかしらん?」
剣聖の言葉に頷こうとして止まる武神。
どこぞのオリハルコンゴーレム君は人々に対して被害を出すことなく力尽きてしまったが、本来“魔王”という存在は人類が死力を尽くしても尚倒せるかどうか怪しい魔物なのだ。
そんな人類の存亡をかけて戦わざるを得ないはずの魔物が現れたとなれば、武神もスルーする訳には行かない。
「もう一度聞くわよ。魔王が現れたのん?」
「現れたのぉ。儂が拠点にしておる魔の渓谷の深層で“鉱石の魔王”オリハルコンゴーレムが出現したわい。まぁ、ジーク達によって既に討伐されたがの」
「........私、そんな報告聞いてないのだけれど」
「今言ったからの。寧ろ知ってたら驚きじゃ」
「グランドマスターには?」
「おー、そう言えば言い忘れておったわい。儂が倒して訳でもなかったからのぉ」
飄々と言ってのける剣聖に対し、武神はイラつきを隠すことなく地面を踏み抜く。
訓練場が揺れ、武神の踏み抜いた地面は見事に陥没していた。
「ふざっけんじゃないわよ!!討伐しているしていないに関わらず、“魔王”の出現に関してはちゃんと報告しなさいよ!!それでもオリハルコン級冒険者なの?!」
「いや、既に討伐してるからいいかなって」
「言いも悪いもあるかぁ!!こんな所で油を売ってないで、さっさと報告に行きさない!!」
「無理矢理儂を連れ出しておいてそれは無いじゃろ。理不尽で老人を虐めるものではないぞ?」
「報告を忘れたアンタがいけないんでしょうがァァァァ!!」
イラつきのあまり、頭を掻き毟る武神。
うん。まぁ、これに関しては剣聖が悪い。
俺達はまだ銀級冒険者な上に、今回の魔王討伐は剣聖が行った事になっている。
俺もエレノアも守るべき情報はしっかりと隠すので、真実を伝えることは出来ないだろう。
しかし、剣聖は違う。
世界に5人しか居ないオリハルコン級冒険者であり、彼の言葉は例え相手がグランドマスターであろうと信じられるものとなる。
俺達が報告するよりも、圧倒的に信頼性があるのは剣聖なのだ。
怒りを何とか抑え、ボケっと武神を見ている剣聖に武神は怒鳴る。
「さっさと報告に行きなさい!!」
「はいはい。分かったわい。全く、近頃の若者は年寄りの扱いが雑じゃのぉ」
「それ以上口を開くと殴り殺すわよ」
「分かった分かった。行くから怒りを沈めい。ジークとエレノアはともかく、ほかの冒険者が怖がっておるのでな」
剣聖の言う通り、辺りを見渡すとキレている武神の怒気を感じて距離をとろうする冒険者たちが目に入る。
今回の1番の被害者は、彼らかもしれない。
「マリーも大変ね。剣聖が悪いのに、こうして怒るとマリーの悪評が立つのだから」
「今回ばかりは同情するな。今回ばかりは」
普段の言動も酷いから悪評が立つんだろ。とは思ったが、それは口に出さないでおく。
武神の耳に入ったら、今度は俺達に怒りの矛先が向きそうだし。
俺とエレノアは、武神も武神で苦労してんだなと思いつつ彼の怒りが収まるのを待つのだった。
【冒険者ギルドの訓練場】
冒険者が己の技や実力を磨く為に作られた場所。冒険者ギルド本部のように設備が充実したギルドもあれば、空き地の様な小さな場所しかないギルドもある。だが、どこのギルドにも必ずある。
ようやく怒りを収めた武神は、普段通りの笑顔に戻った。
先程まだ泣く子も黙る阿修羅のような形相だったが、今は泣き出すだけで済みそうだな。
「はぁ、それで、何をしに来たんだったかしら?」
「グランドマスターのところに行く代わりに、私達に武術を教えてくれるって話しよ」
「あぁ、そうだったわねん。あのクソジジィのせいで全て忘れてたわ」
武神はそう言うと、自分の気持ちを切り替える為か顔を2回ほど叩いて軽く身体をほぐす。
「貴方達はかなり動ける様だけど、誰に教わったのかしらん?」
「基礎中の基礎は親から、それ以降は独学と師匠からかな」
「私も似たようなものよ」
「あら、ちゃんとした師が居るのねん。魔術師に体術を仕込むなんて、中々わかってるじゃない」
仕込まれたというか、動けないと師匠にフルボッコにされるからな。
我らが師であるエルダーリッチは、ハッキリ言ってオリハルコン級冒険者ですら討伐不可の実力を持っていると思われる。
剣聖と出会って、彼の実力を見てからは更にそん感じるようになった。
隙がないんだよ。人間としての身体があればまだやりようはあっただろうが、今は骸骨。
人間のように筋肉で肉体を支えている訳でもないので、骨を吹き飛ばす火力が必要となる。
が、そんな火力をぶち込む前にこちらが殺られる。
オリハルコンゴーレムの様に単純なヤツならともかく、師匠の様に相手の嫌がることを徹底してやってくる様な奴はとにかくやりづらかった。
やっぱり師匠はおかしいよ。普通に強いし、骨だけになっているから第六級強化魔術“
更には、多彩な魔術と長年積み重ねてきた戦闘経験と人間の弱点を網羅していると来れば勝ち目など生まれない。
あれ?師匠って最強なのでは?
そんなことを思っていると、武神が近づいてきて俺の肩を掴む。
あまりにも自然すぎる動作だった為、俺もエレノアも反応が遅れてしまった。
これが武の極地........!!(違う)
「んー、ジークちゃんはバネのある筋肉ね。パワーファイターと言うよりは、速さと手数で押し通す戦い方が会ってそうだわん。いい体ね」
「え?あぁ、どうも?」
どうやら俺の筋肉の質を見ていたようだ。腕やら足を軽く触られただけで、相手の筋肉がどのような性質を持っているのか分かるとかすごいな。
俺が終われば次はエレノア。
何をされるのか分かっているエレノアは、堂々と武神を受け入れる。
「うんうん。こっちはバランスが取れてるいい筋肉ねん。悪く言えば器用貧乏だけど、よく言えば万能よん」
「そう?なら万能になるしかないわね」
「いい意気込みよん。それじゃ、始めましょうか」
俺達の肉体を理解したのか、武神はそう言うと武術を俺達に教え始めるのだった。
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