狩がしたい‼︎
武神との戦いを終え、1日旅の疲れを癒した翌日。
俺達は冒険者ギルド本部の依頼板を見ていた。
朝早くから来たというのもあって、中ランクの冒険者部屋では多くの冒険者が我先にと依頼を取り合っている。
どこのギルドに行っても、この光景は見られるんだな。
「冒険者ギルド本部ということもあって、人が多いわね。魔の渓谷のギルドでもそこそこの人が居たけれど、その比じゃないわ」
「そもそも冒険者の数が違うからな。依頼板の大きさも桁違いだが、それ以上に集まる冒険者が多いんだ。しかも、銀級~金級の冒険者だけでこの人混みだぞ。ここに鉄級や銅級の冒険者まで混じったらと考えるとおそろしいな」
「うわぁ........それは想像したくないわね」
この人混みの何倍にも膨れ上がるであろう冒険者の群れを想像してしまったエレノアは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
タダでさえかなりの人だと言うのに、ここに低ランクやら高ランクの冒険者まで混ざるとなればその数は数えるのもアホらしくなる程膨れ上がるだろう。
その中に態々入り込んで、割のいい依頼を取りたいとは到底思えなかった。
別に金稼ぎしたい訳でもないしな。
俺とエレノアの財産は、今やかなりのものとなっている。
“鉱石の魔王”ことオリハルコンゴーレム君が頑張ってミスリルゴーレムやらアダマンタイトゴーレムを作ってくれたおかげで、俺達は今後一生働かずとも豊かに生活できるだけの金があるのだ。
ちなみに、俺達の報酬金の取り分は基本的に折半である。
どちらかがお互いにどれだけ活躍して稼ごうとも、2人で仲良く分けるのが俺達のルールだった。
取り分でいざこざを起こして解散するパーティーもあるが、俺達に限って言えばそのようなことが起こることは無い。
これは、エレノアとパーティーを組む時に決めたルールであり、今後も変わることの無いものだ。
エレノアってこういう所は割と適当だから助かるよな。パーティー間のルールを決める時に揉めた記憶が無い。
唯一軽く揉めたのは、まだエレノアのレベルが低かった時に優先的に魔物を狩ることだけである。
エレノアは俺がレベリングが好きなことを知っているので獲物を譲ろうとすることが多かったのだが、俺は適当に放置しているだけでもレベルが上がっていく。
今後、レベルに合わせて狩場を変えていくとなれば、必然的に俺と同じぐらいのレベルが必要なのだ。
“効率効率”と煩いエレノアなんだが、どうしてあの時は俺に譲ろうとしたのかな?
........もしかして、魔物の群れに突っ込まされるのが嫌だったのか?
俺はこんな滅茶苦茶な旅にもついてきてくれるエレノアに心の中で感謝しながらも、冒険者が履けるのを待つ。
暫くすると、冒険者達は依頼を持って冒険者ギルドの外に出ていった。
「ようやくゆっくり見られるわね。ここら辺にいい狩場はあるのかしら?」
「武神に聞くべきだったかもな。昨日は観光してただけだし」
「そうね。というか、今から聞きに行く?」
「いや、取り敢えず依頼を見てどんな魔物が居るのか確認しよう。武神やグランドマスターにいい感じの狩場を聞くのはその後だ」
「分かったわ」
長椅子から立ち上がった俺達は、依頼板に向かうと張り出されている依頼書に目を通していく。
オークの討伐やグレイウルフの討伐等今まで倒してきた魔物から、アルマジロモンとか言うよく分からない名前の魔物の討伐まで様々な依頼が張り出されている。
この冒険者ギルドの本部はかつて危険な魔物が多く生息する森を切り開いて建てたという過去もある為か、この街の近くに生息する魔物の数は圧倒的に多かった。
しかし、知らない名前の魔物はともかく知っている魔物の名前はどれも中級下程度の雑魚ばかり。
これでは経験値の足しにもらならい。
「中ランク冒険者たち専用の依頼板ということもあって、張り出されている魔物も弱いのばかりね。名前の知らない魔物はともかく、他は雑魚も雑魚よ」
「やっぱり?これはさっさと武神やらグランドマスターに聞いた方がいいな」
「そうね」
俺はそういうと、さっさと依頼板から離れて武神を探すのだった。
【
第五級風魔術。一点に風を集め衝撃とともに暴風の衝撃波を放つ魔術であり、基本的に近接戦専用の魔術。魔術師としては使いづらい魔術ではあるが、動ける魔術師にとっては火力不足を補える有難い魔術だ(難易度は考慮しない)。
中ランクの依頼板に張り出されている依頼があまりにも雑魚魔物ばかりで、経験値の足しにもならないことを察した俺達は武神を探す。
冒険者ギルドの職員にいい感じの狩場がないかと聞くことも出来たが、彼らは皆忙しそうにしていたので聞くに聞けなかった。
冒険者ギルド内をウロウロと歩く事15分。
すれ違う冒険者からの視線を感じながらも、俺達は暇そうにしている武神を発見する。
こんな子供が冒険者ギルド内をウロウロしていたらガラの悪い冒険者に絡まれそうなものだが、どうやら一昨日の武神との対決が噂に噂を呼んで皆俺達を侮ろうとは思わないらしい。
個人的には面倒事がやってこないので楽である。
武神ならば、いい感じの狩場を知っているだろう。
武神もこちらに気づいたようで、その巨体を揺らしながらこちらにやってきた。
........その格好で女走りをしないでくれ。流石に見るに堪えないから。
「あらん?ジークちゃんとエレノアちゃんじゃない。おはようよん」
「おはよう武神。今いいか?」
「やーねー。“武神”だなんて呼ばないで欲しいわん。ちゃんと“マリー”と呼んで頂戴」
その見た目でマリーと呼ぶのは違和感しからないから武神と呼んでいるんだが、本人がお願いするならそう呼ぶとしよう。
でもやっぱりその見た目で“マリーズマリー”は無いわ。と思いつつ、俺はマリーにいい狩場がないか聞いた。
「分かったよマリー。早速で悪いが、いい感じの狩場ってない?」
「狩場?」
「そう。近くに上級以上の魔物がわんさか溢れてて、数歩歩けば魔物が出てきて殺し合えるような場所」
「そんな所あるわけないでしょ。どこの危険地帯よ」
キッパリと言い切るマリー。
えっ、ないの........魔の渓谷の深層とまでは行かずとも、相当な数の上級魔物が溢れている狩場って無いの?
そんな馬鹿なと言わんばかりの顔をしていた俺達を見たマリーは、頭を抱えて大きく溜息を付く。
そして、呆れたように言い放った。
「剣聖のおじいちゃんが“狩場を探しておいた方がいい”と言っていたのはこれが原因ね?昨日の今日で街に来たというのに、随分と元気溢れる若者ね」
「そんな事はどうでもいいから、狩場はあるの?無いの?」
「だから無いわよ。そんな怖い顔でこちらを見ないで欲しいわん。ちょっとおネエさん身構えちゃう」
えぇ........狩場がないの?
元々この街を訪れたのはオリハルコン級冒険者になる為であり、新たな狩場を求めて来ている訳では無い。
だが、いざいい感じの狩場が無いと言われると想像以上にガッカリするものがある。
「そう........無いの........」
俺の横からもどんよりとした雰囲気を感じたので視線を向けると、エレノアも相当落ち込んでいた。
やはり、俺達には魔物を殺しまくって経験値を貰える狩場が無いとダメみたいらしい。
うーむ。いつグランドマスターが俺達の試験となる依頼を見繕うか分からないから、その間にできる狩場が欲しかったんだけどなぁ........
「どんだけ狩りがしたいのよ。あのおじいちゃんが言っていた通り、ちょっと変わってるわね」
「マリー程じゃないさ。さて、どうするエレノア」
「グランドマスターを脅しに行きましょう。“さっさと試験をやれ”ってね」
「いい案だな。それで行くか」
流石エレノア、天才か?
グランドマスターを急がせれば、俺達がこの街で暇を持て余す必要も無いじゃないか。
善は急げという事で、早速グランドマスターの居るであろう部屋に行こうとする俺達。
「ちょ、ちょっと待なさいよん!!あなた達、頭おかしいんじゃないの?!」
その歩みを見て、マリーは慌てた様子で俺達を止めようとするのだった。
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