vs武神2


 武神との勝負にエレノアが勝ったことにより、冒険者ギルド本部の訓練所には多く人が集まることとなった。


 最初はちらほらと冒険者が野次馬をしていただけだったが、エレノアと武神の戦いの噂があっという間に広がり今となっては奥を見渡せない程にまで人が集まっている。


 この中で俺は戦うことになるのか。


 あまりに集まりすぎている冒険者達に嫌そうな視線を送ってみるが、彼らは全くと言っていいほど俺を見ない。


 誰しもが、武神に勝ったエレノアを見ていた。


「随分と人が集まっちまったな」

「ほっほっほ。仕方があるまいて。お互いに本気では無いとはいえ、あの“武神”に“負けた”と言わせたのじゃからの」

「ジーク君がやりにくくなりそうで心配だ」

「ほっほっほ!!面白い冗談じゃの。あのジークがこの程度で臆する事など無いわい。鬱陶しくは思っているじゃろうがな」


 随分と好き勝手言ってくれる剣聖だが、実際かなり鬱陶しく思っているので何も言わないでおく。


 どこの世界に行っても、覗き見が好きなやつが多すぎで困るな。今回の場合は堂々と見ているが。


「さて、次はジークちゃんよん。遠慮せずにかかって来なさい」

「オリハルコン級冒険者の胸を借りる気で頑張りますよ。よろしくお願いします」

「........その胡散臭い敬語は辞めて欲しいわね。普段通りでいいわよ?」


 これの何処が胡散臭いのだろうか。


 前にも誰かに言われた気がするが、俺の敬語ってそんなに胡散臭いか?俺を見る目が、詐欺を持ちかけてくるやつに向ける視線なんだが。


 ある程度の礼儀は必要だと思い、初対面の相手には敬語を使っているのだがどうも会う人会う人に“胡散臭い”やら“普段通りに話せ”と言われる。


 おかしいな。社会人として磨いてきたスキルのはずなんだが。


 俺は不本意に思いながらも、お言葉に甘えさせてもらう。


「そうさせてもらうよ」

「うんうん。そのぐらいの歳の子が礼儀正しいのは違和感しかないわん。普通でいいのよ普通で」


 子ども扱いしやがってとは思うが、俺はまだ14歳。この世界での成人は基本15歳なのでまだギリギリ子供である。


 俺は、文句を言いたいのをぐっと堪えて武神の前に立った。


 距離はおおよそ10歩離れた程度。この距離ならば、俺の魔術の方が先に攻撃出来る。


「ジークちゃんは剣なのね。剣聖に教わったのかしら?」

「少しは。でも、俺のメインも魔術さ」


 俺はそう言うと、第二級黒魔術“闇弾ダークバレット”を発動。


 エレノアの第五級炎魔術すらもほぼ無傷で耐える人外に効くとは思わないが、牽制としては十分な攻撃だ。


 更に、避けれないように幾つもの闇弾を広範囲にばらまく。


 ちゃんと武神の後ろには、野次馬が居ないことを確認した上での攻撃だ。


「む、中々の威力ね」

「当たり前のように正面から受け止められながら言われてもね。嫌味にしか聞こえないよ」


 武神はこの攻撃を腕を前にしてガード。


 当たり前のように防いでいるが、この闇弾は一発で人間の頭を吹っ飛ばせるだけの威力があるんですけどね。


 それを“中々の威力”で済ませられる武神が如何に人外じみているかよく分かる。


 そう言えば剣聖も剣で全部斬り裂いていたなと思いながらも、俺は弾を撃つ手を止めることは無い。


 マシンガンのように鋭く刺さり続ける闇弾だが、武神もやられっぱなしではなかった。


「行くわよん!!」


 武神はガードしながらこちらに突進をしてくる。


 闇弾の雨に打たれながらも、相当な速さで近づいてくる武神は軽いホラーだった。


 俺は距離を取るのではなく、迎撃を選択。


 流石にアダマンタイトの剣を武神が弾けるとは思えないので、鞘に入れたままの状態で迎撃を試みる。


 闇弾に撃たれながらも攻撃範囲に入った武神は、ガードを解くとそのままエレノアに放ったように正拳突きを繰り出して来た。


 待ってたよ。その攻撃。


 師匠と戦っていた時に教わったことが幾つもある。そのうちの一つに、“相手の虚を付け”という物があった。


 人は自分が予想していないことに対して反応が遅れ、認識のズレがあれば簡単に体勢を崩す。


 俺は武神が正拳突きを放つ時に踏み込む足元に向かって、魔術を行使した。


「そこ」

「?!」


 ガクッと膝から一瞬力が抜ける武神。


 正拳突きの踏み込みに合わせて、20cm程の段差を作ったのだ。


 段差に気づかず、足をもつれさせた経験が誰しもあるだろう。俺はそれを意図的に発生させたのである。


 尚、この手法はよく師匠にやられてイライラしていた。本当に相手の嫌がることをするのが上手い師だ。


 俺はその隙を逃さず、第五級風魔術“暴風波ブラストショック”を放つ。


 この魔術は指定箇所に風を集め、その箇所で攻撃した場合、風の衝撃波を発生させるというものだ。


 本来は剣が使えず、近接戦になった場合に手に纏わせて使う魔術なのだが、武神の懐に入り込むのは危ないと本能が叫んでいるので剣を使って間合いを保ちながら剣で攻撃する。


 ゴッ!!と鈍い音が響き、体勢を崩した武神が吹き飛ぶ。


「油断したわん。まさか足元に仕掛けてくるなんてね」

「あの状況からガードできるのかよ........」


 多少なりともダメージを与えられるかと思っていたが、どうやら武神は今の一撃をきっちり左腕でガードしたようだ。


 腹に一発お見舞い出来れば、少しは痛がってくれると思ったんだがな。


 少し残念に思いながらも、続きを始めようと魔術の準備を始めるが武神の闘志はここで霧散する。


 今からが楽しいと言うのに、どうやら彼はここで辞める様だ。


「ブラハムちゃん。ここでおしまいよ」

「そうか?あちらはやる気満々のようだが........」

「これ以上やり合ったら、楽しくなっちゃって周りにあるものをぶち壊すわよん。ここにいる冒険者も巻き込んでいいのならばまだやるわよん?」

「頼むからそれは辞めてくれ。既にテーブルをぶっ壊されてんだからな」


 グランドマスターはそう言うと、手を2回叩いて野次馬に来ていた冒険者達に声を掛ける。


 気づけば、俺が武神とやり合う前よりも人が集まっていた。


「ほら!!見せもんはもう終わったら散れ!!仕事しろ!!」


 グランドマスターの一喝により、ワラワラとバラけていく冒険者達。


 彼らが話している内容が僅かに聞こえるが、誰しもが俺とエレノアの話をしていた。


「噂になるだろうなこれ」

「いいんじゃない?私たちの実力は証明されたのだし、突っかかってくる馬鹿もいないでしょ。居たら消し炭にするだけだけど」

「おいおい、殺しはやめてくれよ?」

「安心しなさい。半殺しで済ませるわ」


“それならいっか”と頷くグランドマスター。


 いや、良くはねぇだろ。と思いつつ、グランドマスターに話しかける。


「これで試験は終わりか?」

「いや、今のは試験を受ける前の試験って感じだ。冒険者の本分はなんだ?」

「........“弱き民のために”?」

「それもそうだけど、魔物討伐だろ?オリハルコン級冒険者はアダマンタイト級冒険者でも討伐できないような奴を討伐するのが仕事だ。今のは無駄死にしないかどうかの確認、試験はここからさ」


 それもそうか。冒険者は魔物討伐がメイン。


 薬草集めや鉱石採取もあるにはあるが、それ以上に人々を脅かす魔物を討伐するのが大事である。


 薬草採取は一般の人でもやろうと思えばできるもんな。それをやらないのは、魔物に襲われた際に戦える手段が無いと言うだけで。


「今日はもう休め。いい感じの依頼を持ってくるから、それまではこの街を楽しむといい」

「今日ここに来たばかりでしょう?ゆっくり休みなさい」

「宿はこのギルドにある宿泊施設を使うといい。手続きはしておこう」

「ありがとう。グランドマスター」

「ハッハッハ。良いってことよ」


 愉快そうに笑うグランドマスターはそう言いながら、俺達に背を向けて手を振るのだった。

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