真っ白な魔王


 魔王相手に放置ゲーを初めてから10日程経った頃。


 代わり映えのしない魔の渓谷では、今日もミスリルゴーレムの死体が積み上げられていた。


 日中はエレノアがレベリングの為にミスリルゴーレムを殺して周り、夜はおれが闇狼を使ってミスリルゴーレムを狩る。


 そんな四六時中狩りに明け暮れる俺達は、楽しい程レベルが上がっていた。


 死者の森の様に、何百年も積み重なった魔物の群れは既に瓦解しており、今となっては魔王が作り出す魔物をメインで狩っている。


 エレノアはレベルが3も上がり、レベル59に。俺もレベルが2つ上がって、レベル64になっている。


 目標であるレベル70まで後6レベ。魔王君には、是非とも頑張って俺達の経験値を生産してもらいたい。


「調子はどうかの?」

「上々だ。ミスリルゴーレムはまだまだ沢山居るから効率は落ちないし、魔王もムキになってプライドバトルを仕掛けてきている。魔王軍対闇狼の対決が起こってるぞ」

「監視してた感じ、一日に200体位は魔物を生み出してたわね。まぁ、一瞬で消されてたけど」

「ほっほっほ。相も変わらずじゃの。お主らはレベル上げになると人が変わりすぎじゃ」


 オリハルコンゴーレムを見つけてから、俺達が拠点にしている魔の渓谷の深層にある洞窟。


 生活感が溢れ始めたその洞窟にやってきた剣聖は、苦笑いを浮かべながら死骸となったミスリルの山に目を向けた。


 これだけのミスリルがあれば、生涯金に困ることは無いだろうと思える程のミスリルが、ゴミのように積もっている。


 今日の収穫分を数えるために、ミスリルゴーレムの残骸を出したまま片付けるのを忘れてしまったな。


「ギルドも買取が大変じゃろうな。レリックが悲鳴を上げていたぞ?ミスリルが大量に来すぎて価値が下がり始めていると」

「そこは冒険者ギルドの捌き方次第だろ。小出しにすれば、価値はそこまで下がらないはずだが?」

「お主らがアホみたいにミスリルを持ってくるせいで、ギルドの金庫が枯渇するとか言ってたのぉ。有用な資源は、ギルドとしても国としても欲しいところじゃから、嬉しい悲鳴と言うやつじゃな」

「私達の懐も暖かくなるし、ウィンウィンの関係って奴ね。一生働かなくてもいいだけの金額が手に入ったわよ」

「ほっほっほ。それは僥倖。泣いておるのは経営の担当とレリックぐらいじゃろうて」


 魔王相手に放置ゲーを初めてからは、ギルドに持ち込むミスリルの量が更に増えた。


 3日に1度ぐらいのペースでミスリルを換金しに行くのだが、査定をしてくれる人達の顔が明らかに死んでいるのが分かるぐらいには量が多い。


 俺達を見かけると、“頼むから帰ってくれ”というオーラが出ているのがよく分かる。


 ギルドの職員としてその対応はどうなんだ?とは思うが、逆の立場なら俺も心の底から嫌な顔をしただろう。


 だって嫌でしょ。アホみたいな量のミスリルを持ち込んで、仕事を増やしているのだから。


 しかもそれで給料が変わらないのだから、やってられないと思う人が居ても仕方がない。


 俺だったらやってられないね。


 だが、それでも俺達はミスリルを持ち込む。


 この街以外で換金しようとすると、まず間違いなく面倒事になるのだから。


 俺達はまだ銀級冒険者。この街では、剣聖の口添えもあって実力が評価されているが他の街では“銀級冒険者”として見られる。


 たかが銀級冒険者が、大量のミスリルを持ち込んだら騒がれるのは間違いない。


 ここのギルドですら騒がれたのだ。ほかの街で騒がれない理由がない。


「そういえば、軍が来るだのなんだと言ってたけどどうなったんだ?昨日、街に戻った時はそれらしい人を見なかったけど」

「来ておるぞ。街の人々に不安を与えぬように、目立たない格好をしておるがな」


 へぇ、そこら辺は気を使うんだな。


 オリハルコンゴーレムを見つけた後、剣聖から冒険者ギルドの対応は聞いている。


 念の為に軍を要請して街に置いておき、剣聖が全てを背負ってオリハルコンゴーレムを倒してもらうと言うシナリオだ。


 この国で、絶対的な権威を持つ剣聖の邪魔をするなと言われれば軍も動くことは無い。


 剣聖だけでは絶対に敵わないであろう“破滅級魔物”であっても、剣聖ならば倒せるはずと思う人は多いらしい。


 そのお陰で、俺とエレノアがこうしてぬくぬくとレベリングができるのである。


 ただし、オリハルコンゴーレムを倒した栄光は剣聖の物になる可能性が高いと言われたが、そんな事はどうでも良かった。


 俺は名誉を貰うぐらないなら、経験値が欲しい。


 名誉が経験値に変換できるなら話は別なのだが、今の所そんな話を聞くこともなければそれを実感することもなかった。


 だが、オリハルコンゴーレムの素材は少し欲しかったので、ギルドと交渉して必要な分だけ貰えるようにしてある。


 俺の剣や装備を作ってくれたおっちゃんなら、アダマンタイトよりも加工が難しいと言われるオリハルコンも上手く装備にしてくれるはずだ。


 まだ見ぬ装備に少しワクワクしていると、欠伸を噛み締めながら干し肉をかじるエレノアが剣聖に質問を飛ばす。


「ねぇ、剣聖。軍はどのぐらい強いのかしら?剣聖レベルとは言わずとも、アダマンタイト級冒険者並の人は居るの?」

「儂が見た限りはおらぬな。精々金級からミスリル級ぐらいかの?“軍団長”と呼ばれる者が1番軍の中では強いが、アダマンタイト級冒険者並かと問われると、少し首を傾げる。が、その代わりに平均値が高いの。高いの質と数を誇るのが、ドルンの強さじゃ」


 軍隊というのは、基本的に集団で戦闘を行うものである。


 圧倒的な質を持った者が1人だけいても軍として機能しなければ、質が低すぎる者が集まっても強い軍にはならない。


 数が多く高い質を持っている事が、軍としては求められる要素だ。


 恐らくだが、冒険者と軍で戦えば軍が勝つだろう。


 もちろん、剣聖は抜きでの話になるが。


 剣聖なんか冒険者vs軍vs剣聖でも一人勝ちできるやろ。次いでにダー〇ライとかも混ぜても勝てそうである。


 剣聖の話を聞いたエレノアは、少し考えた後にとんでもない事を言い出した。


「私一人で軍を消し炭にできるかしらね?ほら、“アレ”を使って」

「おいおい、恐ろしいことを言うな。“アレ”を使えば大抵のもんは消し炭にできるよ」


 エレノアの言う“アレ”とは“獄炎煉獄領域ゲヘナ”の事である。


 あんなもん使ったら、軍だろうが国だろうが大抵の物は消し炭になるわ。


「“アレ”とはなんじゃ?」


 何も知らない剣聖だけが首を傾げるが、エレノアの必殺技の事を細かく言えるわけもない。


 冒険者にとって情報は命の次に大事なものなのだ。


 よって、俺は言葉を濁す。


「エレノアの必殺技だよ。詳しくは言えんが、あのミスリルゴーレムを焼き殺していた時よりももっと威力の高いものだと思ってくれればいい」

「........アレよりも火力が出せるのか。お主ら、本当にそこが見えぬのぉ」

「剣聖も人の事は言えないけどね。その気になれば、軍の1つや2つぐらい簡単に壊滅させられるだろ?」

「余裕じゃの。質が高いと言っても、あくまでも軍としての話じゃし、儂一人でこの国の軍すべてを相手しても恐らく勝てるわい」


 そう言い放つ剣聖からは、圧倒的な自信が見られた。


 やはり、オリハルコン級冒険者を簡単に戦争に介入させるのはダメだな。


 一人いるだけでも完全なるバランスブレーカーである。


 そんなことを思いつつ、俺は日課となっている魔王の現状把握を始めた。


 闇狼がオリハルコンゴーレムに気づかれない位置で闇に潜んでいる。


 視界を共有することが出来るので、こうしてリスクを取らずに簡単に相手を見ることが出来るのだ。


 そして、そこで見たオリハルコンゴーレムの姿は........


「真っ白に燃え尽きてるな........」


 某ボクシング漫画に出てきそうなほど、ぐったりした様子で椅子に座っていた。


 魔王の貫禄とか最早ないな。


 これは、討伐する日が近いのかもしれない。

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