レッツ魔王レベリング
オリハルコンゴーレムを見つけた俺達は、オリハルコンゴーレムを監視しつつ生み出したミスリルゴーレムを狩りまくっていた。
剣聖はギルドに報告に行くと言っていたので、この場にはいない。
冒険者ギルドとしても、魔王の存在は見過ごせないので仕方がないと言えるだろう。
「魔王最高だな。ミスリルゴーレムをじゃんじゃん生み出してくれるおかげで、たんまり経験値を吸えるぞ」
「楽しい程経験値が入ってくるわね。もうレベルがひとつ上がったわよ」
オリハルコンゴーレムが居る限りミスリルゴーレムを生み出してくれる状況は、俺達にとっては砂漠のど真ん中に聳えるオアシスと何ら変わりない。
経験値と言う名の水が枯れるまで、俺たちはミスリルゴーレムを狩りまくるのだ。
オリハルコンゴーレムを見つけたことによって、テンションが若干上がっている俺達が魔物を狩るスピードは尋常では無い。
オリハルコンゴーレムに見つからないようにしつつも、高速で渓谷内を走り回ってはミスリルゴーレムを処刑していく。
「お、レベルが上がった。闇狼も頑張ってくれてるな」
「私もジークぐらい闇狼を出せればいいのだけれどね。流石に無理だわ」
「それはしょうが無いさ。才能の差って奴だ」
「ちょっとムカつく言い方ね」
エレノアはそう言いながら、俺の頬をムニムニと抓って遊ぶ。
少し擽ったいが、俺はエレノアの手を払うことは無かった。
「オリハルコンゴーレムも所詮はゴーレム。闇狼が魔石を噛み砕けるとなれば、最悪を想定する必要も無い。最高だなこれ」
「判断が早すぎるのよジーク。あの圧を受けながら、即座に魔石を砕けるかどうか闇狼に確認させるなんて。だから、オリハルコンゴーレムと出会った時に闇狼と話していたのね」
「本当は噛み砕かせようと思ったんだけど、ちょうどミスリルゴーレムを生み出している姿を見てな。これは利用してやるしかないと思った訳だ。最高だろ?」
「最高よ。流石は私の相棒だわ。こういうことに関しての嗅覚は本物ね」
エレノアはそう言うと、俺の頬から手を離してミスリルゴーレムを焼き殺す。
エレノアもミスリルゴーレムを焼き殺すのが楽しくなってきているようで、その顔には少女らしい笑顔が浮かんでいた。
「じゃんじゃん殺しましょう。ミスリルゴーレムをせかせかと生み出してくれる群れの長がいるんだから、遠慮はいらないわよ」
「元から遠慮なんてしてないけどね」
最初から、この渓谷に居るミスリルゴーレムを全滅させる気で狩りをしているのだから、遠慮もクソもない。
少し、魔物を殺すスピードが上がるだけである。
ちなみに、オリハルコンゴーレムが1度に作り出せるミスリルゴーレムの数は、大体10~20程度である。
2時間ほどじっくり観察したが、オリハルコンゴーレムは30分に一度ミスリルゴーレムを作り出していた。
剣聖の話からするに、この渓谷の異変は10年前から始まっている。
毎日このペースでミスリルゴーレムを作っていたのならば、この大きな渓谷は既にミスリルゴーレム埋め尽くされているはずなのだが、それが無いのを見るにオリハルコンゴーレムにも限界はあるのだろう。
ココ最近になって、この生産能力を手に入れたかもしれないしな。
30分毎に上級魔物を10~20体も作り出せるとなれば、確かにとてつもない脅威になるだろう。
しかし、俺達にとってはボーナスバルーン。
ありがたく経験値を頂くのである。
「オリハルコンゴーレムと俺達。どちらが先に折れると思う?」
「オリハルコンゴーレムでしょ。私達は精々魔力を消費する程度だけれど、魔物を作り出しているオリハルコンゴーレムは魔力以外の何かも消耗してるわ。どのぐらい速さで回復するかは知らないけど、間違いなく私たちの魔力回復の方が速いわよ」
「オリハルコンゴーレムも気の毒だなぁ。俺達が来なければ、魔王らしい振る舞いをできただろうに。オリハルコンゴーレムは、今から狩られる側に回るんだぜ?」
「私が魔王の立場なら絶対に来て欲しくない相手ね。闇狼を使って休みなくこちらを攻撃してくる上に、自分を瞬殺できる程の力を持った相手なのよ?やってらんないわ」
「俺もだ」
オリハルコンゴーレムからすれば、俺達は四六時中自分が作り出した兵士を殺し回り、なんなら自身すらも殺す手段を持つ相手である。
しかも、消耗戦になれば圧倒的に自分側が不利であり、向こうはほぼノーリスク。
魔物を作り出すのに何が必要なのかは分からないが、ノーリスクということは無いだろう。
あれ?これ結構なクソゲーなのでは?
俺は、あまりにも不利すぎる戦いを挑んできたオリハルコンゴーレムに合唱をしつつ、手を抜く事は一切せずに叩きのめしてやろうと気合を入れるのだった。
【魔王】
オリハルコンゴーレムが“鉱石の魔王”と呼ばれているように、“魔王”にも数多くの種類がいる。
かつては、ゴブリンの魔王やオークの魔王も居たりしたが、人類は彼らに負けることなく勝利を収めてきた。
“鉱石の魔王”と呼ばれるオリハルコンゴーレムは、苛立ちを隠せなかった。
子供が親に玩具を買って貰えなかった事に対して地団駄を踏むように、オリハルコンゴーレムも地面を何度も強く踏み抜く。
オリハルコンで作られたその体に傷が着くことは無かったが、踏みしめた地面には大きな穴が開く。
「ナゼダ!!ナゼ、殺サレル?!」
毎日コツコツと増やしたミスリルゴーレムの軍団。10年をかけて作り出したミスリルゴーレム達は、その殆どが既にただの鉱石となっている。
今までも、作り出したミスリルゴーレムが殺られる事は何度かあった。しかし、精々4~5体程度であり、多くても10体程だったはずだ。
「我ガ配下ヲ、始末スル輩ハ、ドコノドイツダ!!」
しかし、この一ヶ月間は明らかに殺されるミスリルゴーレムの数が多かった。
日に日に死んでゆくミスリルゴーレムの数は増え、今では日に500体近くは亡くなっている。
渓谷を埋め尽くさんとばかりに増え続けたミスリルゴーレムも、今では10000体程度しか残っていなかった。
「アリエナイ!!我ガ作リ出シタ、ゴーレム達ガ負ケルナド!!」
オリハルコンゴーレムは、そう言いながら身を削ってミスリルゴーレムを作りだす。
オリハルコンゴーレム達を攻撃している相手が誰かは分からない。だが、これだけは言える。
ここで負けてはならないと。
完全に冷静さを欠いたオリハルコンゴーレムは、自分の限界を超えてでも軍団を作り始めてしまった。
生まれながらにして絶対敵強者であるプライドが、この戦いにだけは負けたくないと熱くさせてしまう。
「ユケ!!敵ヲ炙リ出セ!!」
15体ものミスリルゴーレムが、オリハルコンゴーレムの命令に従って見えぬ敵を探しに行く。
こうしている間にも、オリハルコンゴーレムが作ったミスリルゴーレム達は殺されてしまっている。
出来れば、オリハルコンゴーレム自ら探し出したかったが、足が遅すぎてミスリルゴーレムが死んだ現場に着いた頃には何も残っていなかった。
更に言えば、この圧倒的だ圧がオリハルコンゴーレムの存在を知らせてしまっている。
1度だけ敵に近づけたのだが、オリハルコンゴーレムが敵の存在に気づけなかった。
「........疲レタ。少シ休モウ」
そう言って、適当に穴を掘って休むオリハルコンゴーレム。
“魔王”は知らない。
生み出されたミスリルゴーレム達を狩らんと、闇の中に潜んで気を伺う狼たちの存在を。
“魔王”は知らない。
レベル上げに魅了された狂人が、魔王を利用していることを。
“魔王”は知らない。
既に自分が敵の手中に居ることを。
これに気づけない時点で、魔王に勝ち目はないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます