防具作り
アダマンタイトゴーレムを冒険者ギルドに持ち込んだ事は、大きな話題となった。
最上級魔物が二体も魔の渓谷に現れると言うのは、過去に例を見ない事態でありギルドマスターは慌てて対策を取ろうと会議を開く始末。
俺達もその会議に巻き込まれてしまったが、何とかギルドマスターから腕のいい鍛冶師を聞き出して休みを取ることに成功した。
“2週間ぶっ続け出調査してたんだから、1日ぐらい休ませろや”と強めに言えば、ギルドマスターも首を縦に振るしかない。
今日は、俺達の代わりに剣聖が深層に降りている事だろう。
「こうしてゆったり街の中を歩くのも久々ね。周囲の警戒を殆どしなくていいのは、楽だわ」
「渓谷に降りてる時は常に警戒をしてるからな。こうして気楽に歩けるのは、確かに楽ではある」
エレノアとのんびり話しながら街を歩く俺達は、ギルドマスターから教えて貰った鍛冶師のいる店に向かっていた。
ギルドマスター曰く、腕は確からしいが気難しい人物らしい。
気に入らない奴が相手だと、例え王族であろうが仕事を断るらしいのでそこは気をつけなければならなかった。
「素材はアホほど持ち込んでるから、後は引き受けてもらえるかどうかだな。職人気質の気難しい人らしいし」
「ドワーフはそういう人が多いわよね。鍛冶職人は特に、自分の仕事に誇りを持っている人が多いから、金儲けの為に鍛冶をする人は少ないらしいわ」
「それでも食って行けるんだから、ドワーフの鍛冶師ってのはいい商売だな。こんな事言うと嫌われそうだが」
「そうね。間違っても本人の前で言うのは辞めておいた方がいいわね」
暫く歩くと、ギルドマスターに教えて貰った家が見えてくる。
鍛冶師が多く集まる住宅街らしく、他の家とは違った雰囲気が漂っていた。
そして、その家の中からはカンコンと鉄を叩く音があちこちから聞こえてくる。夜中にこんな音を出されたら、うるさ過ぎて寝れない程だ。
「ここね」
「青い扉と青い屋根。ここだな」
ギルドマスターに教えて貰った特徴と一致する家を見つけた俺達は、その扉をコンコンとノックする。
このクソ煩い鍛冶の音でノック音が掻き消されているが、中までしっかりと聞こえているのだろうか?
もう一度ノックして反応が無かったら勝手に開けるかと思っていたその時、扉がガチャリと開かれて中から小さな女の子が出てくる。
「はいはーい。なんの御用ですかー?」
「初めまして。ギルドマスターの紹介で、防具と武器を作ってもらおうと思って来ました」
「お、お客さんだね。入って入って」
小さな女の子に促され、店の中に入る俺達。
そこには多くの武器や防具が置いてあり、素人目に見ても素晴らしい逸品だと言うことが分かる。
ギルドマスターが薦めるだけはあるな。どれほど凄いのかは正直分からないが、俺の持っている剣よりは優れている事はわかる。
エレノアも興味深そうに店内を眺めては、感心の声を上げていた。
そんな俺達の様子を、小さな女の子は嬉しそうに眺めながら接客を続ける。
「レリックのおじちゃんから紹介されたの?」
「えぇ。いい鍛冶師が居ないかと言われたら、ここを薦められまして」
「へぇ、おじちゃんがここを紹介するって事は、かなり腕がいいんだね。剣士かな?」
「剣士兼魔術師です」
「凄いね!!魔術も使えるんだ。あ、私はアリア。この店の接客をやってるよ。よろしく!!」
茶色と赤の混ざった髪をポニーテールに纏め、深紅の目をした少女は元気に自己紹介をする。
見た目だけなら10歳程度の子供に見えるが、ドワーフだから見た目で年齢の判断ができないな。
流石に年齢を聞くことは出来ないので、俺は素直に挨拶だけを返した。
「銀級冒険者のジークです。よろしくお願いします」
「同じく銀級冒険者のエレノアよ。よろしく」
「そんな綺麗な言葉を使わなくてもいいよ。私の方が年下だろうしね」
そう言って、にっこりと笑うアリア。
年齢を聞く気にはならないが、恐らく見た目通りの年齢と考えていいのだろう。
俺は、お言葉に甘えて口調を元に戻した。
「そうさせてもらうよ。それで、早速武具の制作を依頼したいんだが........」
「ちょっと待っててね。お父さんを呼んで来るから!!」
アリアはそう言うと、トテトテと店の奥に消えていく。
なんと言うか、小動物のような動きで可愛いな。
「リスみたいね。動きが」
「確かに小動物のような動きがあるな」
「ちょっと頭を撫でたいわね。仲良くなれば行けるかしら?」
「仲良くなる暇があればな。頭を撫でるために時間を使うのと、レベル上げをするの。どっちが大事だ?」
「んなもんレベル上げに決まってるでしょ?私はジークと違って、他の事をしながらレベル上げはできないのよ。そんな事をしてたら、ジークに置いていかれるわ。何より、効率が悪いわ」
流石は人間関係も効率で考えるエレノア。こういう所は一切ブレない辺り、最高にイカレてる。
エレノアは俺を変人扱いするが、エレノアの方がよっぽど変人だと言う事に気づいてないのだろうか。
“真のバカは自分がバカだと言うことに気づかない”なんて言われているが、“真にイカれた奴は自分がイカれた奴だと気づけない”のだろう。
ここで何を言っても無駄だと言うことを知っている俺は、やれやれと首を横に振るだけで何も言わなかった。
少し待っていると、アリアがドワーフのおっさんを引き連れて戻ってくる。
人相の悪い凶悪な顔をしたドワーフのおっさんは、俺達を見るなり鼻を鳴らして目を逸らした。
「お前達、確か銀級冒険者と言っていたな」
「え?えぇ。そうですけど」
「ふん。ギルドも見る目がない。で?何が欲しい」
唐突過ぎる会話に困惑しながらも、武具を作ってもらえるようで安心する。
見た目は怖いが、仕事はしっかりやってくれそうだ。
「剣と防具を。素材は沢山あるので、良さそうなものを使ってください」
「私は心臓を守る胸当てと、足に仕込んであるナイフね。切れ味よりも、突き刺す能力が高い方がいいわ」
「素材?持ち込んできたのか」
見せろと言わんばかりに、手を招くおっさん。
俺は言われるがまま、使えそうなものを手当り次第出していく。
昨日狩ったアダマンタイトゴーレムの残骸と、ミスリルゴーレムの残骸。そして、リッチの被っていたローブにデュラハンの甲冑。一応使えるかもしれないので、リビングアーマーの魔力鉄や魔石まで。
とにかく、カバンの中に貯めてあった物を片っ端から出していく。
その様子を見ていたおっさんは、慌てた様子で止めに入った。
「おい、待て待て待て!!ちょっと待て!!」
「ん?どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか!!こいつはアダマンタイトじゃないか!!しかも、こっちはミスリルゴーレムの素材だろ!!この布に至っては、かなり高品質の魔力布だ!!一体どんだけヤバいものを持ち込んできたんだよ!!」
「ヤバいって........普通に狩って来たものなんですけど」
「........マジかよ。俺の目も狂ってきたな」
よく分からないが、頭を抱えるおっさん。
一体何がヤバいのかは知らないが、どれも自力で狩って来たクリーンな素材達だ。
流石にカバンの中にある素材を全て出しては無いが、この倍以上はまだ鞄の中に入っているぞ。
おっさんは少しの間頭を抱えていたが、すぐに立ち直ると自分の頬をパシパシ叩いて気合いを入れ直す。
その顔付きは、職人その物だった。
「よし、これだけ上等な素材があるならなんだって作れる。それこそ、国宝級のものがな。防具と剣。後、胸当てと仕込みナイフだったか?アリア、採寸するからあれ持ってこい」
「はーい」
こうして、身体の大きさやらなんやらを図られたり、剣の長さだったりの調整を色々としてこの日は終わるのだった。
新たな防具と武器ができる日が楽しみだ。
エレノアもワクワクしているようで、使用感を試したいからその日はオークでも殺そうとか言ってたしな。
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